【インクルーシブ・リーダーシップ】「自分ごと化」度合いが高いと、上司のILによって革新的な行動を発揮しやすい?(Rajandran et al, 2023)
今回も、インクルーシブ・リーダーシップに関する最新論文を見ていきます。仕事と研究が詰まってきておりますが、毎日は無理でもコツコツ進めていきます。
どんな論文?
この論文は、マレーシアの大学教授らによって編まれた、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)に関する実証研究を扱ったものです。
ILが、革新的な仕事行動(Innovative Work Behavior:IWB)に与える影響を、心理的オーナーシップ(Psychological Ownership)が促進する(調整する)、というメカニズムを、マレーシアの5大学の教員300名を対象に実証しました。
比較的シンプルな概念間の関係を扱っており、以下がモデル図です。
分析の結果、ILからIWBに向かうパスは有意ではありませんでした。これは、他の先行研究におけるIL→IWBという影響関係とは異なる結果でした。
そして興味深いのが、心理的オーナーシップが加わったモデルだと、IL→IWBの関係が示され、かつ、心理的オーナーシップが両者の関係を促進することがわかった、という点です。
つまり、以下のことが言えそうです。
心理的オーナーシップが高い大学教員は、インクルーシブ・リーダーシップのアプローチを認識したときに、革新的な職務行動を示しやすい。
逆に、心理的オーナーシップが低い教員は、インクルーシブ・リーダーシップの行動に対する反応性が低く、ILを発揮する上司の下でも、革新的な職務行動を示さない可能性がある。
心理的オーナーシップとは何か
この研究における重要なカギを握るのが、この心理的オーナーシップです。本文献において、心理的オーナーシップは以下のように定義・補足されています。
特定のものの所有や(所有者*の)拡張に対する精神的なつながりを、無形的または有形的に示すもの(Chenら、2021;Pierceら、2003)。
心理的オーナーシップはまた、従業員を鼓舞し、企業の有効性と企業責任の強い感覚を高める(O'driscoll et al., 2006; You et al., 2022)。
従業員が職場に対して心理的責任を負っていると認識すると、従業員はより積極的で前向きな活動を行う(Ullahら、2021;Olckers、2013)。
心理的オーナーシップは、個人の態度や行動に大きな影響を与え、帰属意識、自己効力感、自己同一性という人間の3つの基本的欲求を満たす助けとなる(Chenら、2021)
簡単に言えば、物事(ここでは仕事や職場)に対する「自分ごと」感であり、当事者意識と言い換えても、差し支えなさそうです。
心理的オーナーシップについては、ハーバード・ビジネスレビューの寄稿記事にも記載があったので、そちらをご覧いただくと理解が深まるかもしれません。
この論文では、大学教員のコンテクストにおける心理的オーナーシップを、以下の引用部のような表現で表しています。
研究結果から示唆されること
この研究で特に関心を引く実践的な示唆は、革新的な職務行動を生じさせるためには、リーダーの振る舞いをインクルーシブなものにするだけでなく、教職員が「自分ごと化」することが重要、という点です。
現場においては、何でもかんでも「管理職研修」「リーダーシップ研修」と、魔法の杖のように指摘されることも多いですが、今回の研究は、一人ひとりの当事者意識の重要性を示唆した点で、意義深いものであると考えます。
本研究は、大学教員が対象となっている調査でもあり、例として、意思決定における発言権を与えること、スキルを向上させ自主性を持たせる機会を与えること、創造的な努力を賞賛し報いること、といった、職務や職場への当事者意識を高める施策が提案されています。
感じたこと
確かに、IL→IWBの結果が出ず、心理的オーナーシップをモデルに加えた際には、調整効果が見られたというのは興味深いです。
しかし、大学教員は、そもそも革新的な職務行動を求められるのか、あるいは、そのような余地がどれだけあるのか・・・という素朴な疑問が湧いてきます。
大学においても、もちろんイノベーションは必要であり、論文においてもそのことが謳われていますが、IWBの平均値などは出ていないため、上司のILを認知した教員とそうでない教員、両方においてIWBが低かったため、先行研究と異なる結果、つまり、IL→IWBが出ないという結果となったのでは?という気もしてしまいます。
また、古くからの体質を引きずる機関においては、そもそも、ILではなく、変革型リーダーシップの方が筋が良さそうな気もします。なぜILを選んだのかについては、IWBの先行要因という研究がある、という程度の記述しかありませんでした。
逆に言えば、それだけ、ILに対する注目が集まっている、だからこそ、ILを研究することありきだったのかもしれません。想像の域を超えませんが。。。
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