【インクルーシブ・リーダーシップ】ジョブ・クラフティングとILの関係
インクルーシブ・リーダーシップ(IL)領域はまだまだ研究が始まったばかりなので、日本語の論文が少なく、英語論文ばかりなのが純ジャパ(ちょっと古い表現?)には辛いところです。
しかしながら、ここ数年でILを扱った論考も増えてきました。今回は、以下の書籍の第12章に採録されている「高度外国人材のジョブ・クラフティングとインクルーシブ・リーダーシップ」を紹介します。
どんな内容?
この書籍は、ジョブ・クラフティング(JC)に関わるさまざまな研究を纏めたものです。学術書とはいえ、最近注目のJCを様々な観点から理解出来るので、大変お得感があります!
今回取り上げる第12章は、東京経済大学の小山准教授によって書かれています。
少子高齢化が進む日本において、外国人、しかも高度な専門性を持っている優秀な外国人が主体的に活躍すること重要性は高まっています。
この書籍によると、来日している高度外国人材*1の数は、2008年に約85,000名なのに対し、2021年は約400,000名と4.65倍にまで増えています。
著者は、こうした人材が主体的に活躍できるためにJCが効果的であり、JCが効果的に行なわれるために、情緒的コミットメントやILが効くのではないか、という仮説を立てました。調査では、高度外国人材だけでなく、日本人社員も対象にして、その効果を比較しています。
結果、
高度外国人材には、情緒的コミットメントがJCに効くこと、かつ、ILは情緒的コミットメントがJCに与える影響をプラスに調整すること
(つまり、ILは直接的にJCに効かない)
一方、日本人社員には、情緒的コミットメントもILもJCに効くこと
がわかりました。
JCをもう少し詳しく解説
ジョブ・クラフティングとは、2001年にWrzesniewski教授とDutton教授によって生み出された学術用語です。定義は以下の通りです。
JCのモデルは、高尾(2020)から図をお借りします。
中央にあるように、タスク境界の変更(タスク・クラフティング)、認知的タスク境界の変更(認知的クラフティング)、関係的境界の変更(関係性クラフティング)という3次元構造として整理されています。
詳細は書籍に譲りますが、個人的には、「ジョブ・クラフティング」という概念のネーミングセンスが秀逸だと感じています。職人感がありますし、仕事は自ら作っていくのだ、という動名詞に、意思の表明を感じます。
ちなみに、今回の文献で使われたのは、タスク・クラフティングのみとなります。簡単に言えば、仕事において従来とは異なる独自の工夫をする、ということです。
なお、研究は12社347名を分析対象とした量的調査で実施されました。比較対象として、日本人社員に対してはインターネットリサーチ会社のモニター対象に350名から回答を得たようです。
(こういう比較の仕方もありなのか。メモ)
感じたこと
数少ない、ILの日本語文献は読みやすくて本当にありがたい、、、これが一番の感想です。
また、日本人社員には、ILが仕事の意味付けを促進し得る点は興味深いです。ただし、高度外国人材がメインターゲットであったため、日本人の場合に、なぜILがJCに効くのかについては記載が少なく、もう少し深掘りしたいところです。
今回の調査では、Carmeli.et al (2011)の指標が使われました。IL指標が開放性・近接性・有効性という3次元を想定しながらも、先行研究でも今回の調査でも、因子分析では1因子構造にまとまっています。
この3次元が綺麗に3因子構造になると、特にどのような行動・関わりが効果的か分かるようになり、ILがJC(やほかの成果変数)に与えるメカニズムが明確になりそうです。
とはいえ、ILとJCの関係性に注目された点は刮目に値します。「そう来たか!」と思わされる文献を目にして、自分も同様の感覚を提供できるようになりたいと感じました。
※1:高度外国人材の定義については、一言では説明しにくいのでこちらを参照ください。
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