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Penguinflyの「Reincarnation」を聴きながら、春を想う 【114/200】
この作品がリリースされたことを知って、すぐに聴いた。
51分間の輪廻転生の旅。
Penguinflyの「Reincarnation」だ。
このアルバムについて書かねばと思いながら、1ヶ月かかってしまった。
しかし、このアルバムについて書くには、3月の方が合っているなと、今、この原稿を書きながら改めて思った。
■強烈に嫉妬した夜
あれ?と思った。
数満さんのバンド名が変わっていたからだ。
「South Line Trippers」
それが渡部数満さんが率いるバンド名だった。
数満さんと知り合ったのは、ボランティア仲間を介したつながりで、音楽関連ではなかった。
初めて数満さんのライブを見たのは、2018年4月21日だった。
制作中の3rdアルバム「Reincarnation」の全曲発表ライブ。
一瞬で引き込まれた。
South Line Trippersの公式のプロフィールにはこう書かれていた。
一瞬で耳をとらえる美しいメロディと物語的で描写的な詞で都市を彩るアーバンミュージックバンド。聴きやすいのに緻密で飽きの来ないアレンジ、そしてそれを支える躍動的な人力アンサンブルが、ただのポップではない奥深さを演出し、「とにかく曲がイイ!」とハマる人を増やし続けている。
そう。とにかく曲がいい。
ピアノ、ベース、ドラム、ギター、ホーンセクション、個人的に、完璧なバンド構成だと思う。
伝統的であり、プログレッシブ。
様々なジャンルの音楽的教養をシティポップのフォーマットで包みつつ、音楽を表現することを、音楽で表現することを純粋に楽しんでいるバンド。
演奏だけでなく、楽曲制作、アレンジ、レコーディングまで手掛ける渡部数満という音楽家に、圧倒的なリスペクトを感じたとともに、強烈な嫉妬を覚えた。
何より、僕は、歌うたいとして、数満さんのボーカルに嫉妬してしまったのだ。
声は最強の楽器であり、絶対に持ち変えることができない。
僕には僕の声の魅力があるし、それを愛してくれるファンの皆さんがいる。
それでも、一音楽ファンとして、数満さんの声と歌を、とても羨ましく思ってしまった。
表現の世界に比較論を持ち込んでも何もいいことはない。
そんなことは重々承知しているけれど、やはり、とてもいい音楽に触れるたびに僕は、羨ましさとともに自分の不甲斐なさに目が向いてしまうのだ。
そして、そんな僕のネガティブな感情は、それを引き起こした「とてもいい音楽」によって浄化されていく。
ずっとそれの繰り返しで、僕は音楽に憧れ続けている。
2018年4月21日は、そんなことを痛感させられた夜だった。
■「Penguinfly」への転生
South Line Trippersの3rdアルバム「Reincarnation」は、なかなか発表されなかった。
今回のリリースでわかったことだが、アルバム自体は2020年の頭には完成していたようだ。
コロナ影響を受けて1年間眠っていた作品は、バンド名の変更と合わせ、Penguinflyの1stアルバムとして発表された。
Penguinflyのバンドコンセプトについては、公式サイトの発表を参照されたい。
Reincarnation=輪廻転生という組曲形式のコンセプトアルバムをバンドの転生と合わせて発表する、というのは、とても気が利いている。
ただ、これはそんなおしゃれなものじゃないんだろうと思う。
単曲ごとに聴かれることが当たり前となり、なんなら数秒の動画にハマることが求められるようになった世界において、ひとつのコンセプトで貫く8曲・51分間の組曲形式のアルバムを発表する、ということは、バンドとしてとても強い意志を表明するものであったはずだ。
それが、コロナ禍を受けて、ライブはもとより音楽活動全般に急激なブレーキがかけられた。
アーティストにとって、作品はすぐにでも発表したいものだと思う。聴いてもらうためにつくるのだ。生まれ落ちた作品だって、世の中に放たれて、多くの人たちの耳に触れることを望んでいる。
完成した作品を1年間も発表せずに手元に持っておく、という判断の裏に、どれだけの思考と苦悩があったのか、僕には計り知れない。
そして完成から1年後、僕にとっては初めてライブで聴いてから2年と10ヶ月を経て、「Reincarnation」は作品として世の中に自由に羽ばたくことができた。
心から思う。
数満さんと「Reincarnation」という素晴らしい作品に、“HAPPY Re:BIRTHDAY”と。
■「Reincarnation」を聴きながら、春を想う
僕は、春が苦手だ。
生まれ変わりの季節。
おわりとはじまり。
何かが終わりを迎え、何かが始まる。
そのつなぎ目の時間に、僕は強くエネルギーを奪われる。
失ったもの、亡くなった人たちのことを想い、これから生まれる未知の世界に向き合う勇気を奮い起こすには、いつだって音楽に頼る必要がある。
三寒四温の「温」が増えていくほど、僕の中の柔らかい場所が疼く。
このタイミングで「Reincarnation」と再び出会うことができて、よかった。
願わくばこの素晴らしい作品が、僕と同じように、エネルギーを必要としている人のもとに届きますように。
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