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学校現場の側から「教員不足」問題を見る 〜佐久間亜紀『教員不足』

大学に届くなり、(他にやらなきゃいけないことがあったのに)一挙に読み上げてしまった。

佐久間亜紀『教員不足 誰が子どもを支えるのか』岩波新書、2024年

ページをめくって、何度も打ちのめされた。
1つは、「教員不足」の全体像がこうなっているのか、こういうメカニズムで生じているのか、という衝撃。
私のところにも「誰か講師できる人いませんか」と学校からよく問い合わせはくるわけだが、そうやって学校が自力で探さなければならない段階の前にどんなプロセスがあるのか、分かっていなかった(「常勤的非常勤講師も見つからないと、教育委員会にはもはやなす術はなく「あとは学校で対応して下さい」ということになる」p.82)。
義務標準法における、学級数を算出してからそれに必要な教員数を算出するという二段階方式ゆえ、少人数学級を求める動きが、「子どもの学習環境を改善する方法」だけでなく「教員数を増やし教員の労働環境を改善する方法」にもなるということ(p.34)、つまり、「教員不足」を防ぐ働きをするものであったことにも、想像を働かせられていなかった。

「加配定数」が、「加配あるんならいいじゃん」ではなく、「学校現場からみれば、『文科省が推進する政策目的のために、単年度限りで非正規雇用し、他目的には配置できない教員の数』を意味」(p.49)することになるため、非正規化と「教員不足」の悪循環に拍車をかけかねないものであることも、
特別支援学級の教師に非正規雇用教員が多い背景要因として、「過員」が御法度とされる行政の仕組みがあることも(p.91)、
不足の実態をめぐる乖離を引き起こすものとして、「教育委員会が内部留保分を多くとり、配当定数自体を減らしてしまえば、現員の数が変わらなくても不足分は小さくみえることになる」(p.57)といった操作がありうることも、
理解できていなかった。

本書の特徴の一つとして、佐久間氏は、

教員を配置する側からではなく、教員を配置される学校現場の側、つまりは子どもと教員の立場から、教員配置政策について論じた。

p.v

ということを挙げている。これは見事に達せられているように思う。

打ちのめされたことのもう1つ。
本書では、佐久間研究室で行ったX県での調査のデータに加え、現場のリアルな窮状が多数紹介される。
例えば、元々の学級担任、理科の授業の持ちコマ、研究主任に加え、抜けて教員が埋まらない分の追加の理科の授業、教務主任の仕事まで兼務させられた(しかもその一方で「働き方改革」で残業禁止!)、中学校教師の教え子の話とか。

けれども、それと似たような話は私も今まで聞いてきたのだ。
修了生からのさまざまな悲痛な叫びを。

また、

近年ではあまりの人手不足に、雇用時の正式な任用目的とは異なる職務を教員に行わせている学校も少なくない。

p.76

も、よく分かる。
これまたここには書けないような、「えっ、それまずいんじゃないの?」というような運用をしている例(けれども同時に、「そうでもして人をやりくりしなきゃどうにもならないんだろう」と思わされる例)も、特にここ1、2年、見聞きしている。

けれども、私は佐久間氏のように、そんな場面の数々を、「教員不足」問題へのアクションに、調査と包括的な理解と社会的発信に、つなげられなかった(なお、もともと佐久間先生は、別に「教員不足」問題がご専門ではない)。

教育研究者であればみんなで越境し合いつつ、この複合的な問題に取り組む責務があるのではないか。

p.v

という佐久間氏の問いかけが私に突き刺さる。

昨年の教育方法学会のシンポジウムで佐久間先生とご一緒したときにも感じさせられたが、佐久間先生の言葉には力がある。それは別に、口が上手いとかそういうことではなく、その背後に裏付けとなるものがあるからなのだと、本書からも痛感させられる。
いやあ、歴史ができて、実践にかかわれて、海外比較(アメリカ)ができて、制度のことも扱えるなんて、そんなの佐久間先生、反則っすよ。
…と思わず言いたくなってしまうが、まあ、そんなことを言っていても仕方ない。自分にできる役割を果たしていくしかない。

佐久間亜紀『教員不足 誰が子どもを支えるのか』。
教育関係者に読んでもらいたいのはもちろんだが、特に教育関係じゃない人たちにも(「人手不足はどこの業界でもでしょ」と思っている人にも)、是非読んでもらいたい一冊。

補足①
今後の展望に関して。正規採用枠を増やしていくことの大事さは、佐久間氏の指摘の通りだと思うが、おそらく佐久間氏はあえて本書では避けられたのだと思うが、正規枠が増えたとして、それに見合う教員を教員養成機関(=大学)側が輩出できるのかという課題は残りそう。そこはまさに教員養成にたずさわるわれわれ大学教員の課題でもある。

補足②
「誰が子どもを支えるのか」の副題、いいですね。最終章のタイトルでもあるのだが。
『教員不足 誰がこれを引き起こしたのか』みたいな書名ではないのだ。
問題を捉えるうえでのこのスタンスに、佐久間先生の思いとそのアツさとそ感じる。

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