街とその不確かな壁 2(ネタバレします)


 昨日の続きです。

 前半、特に第1部は村上春樹らしからぬというか、登場人物がぼくときみの二人だけでした。村上春樹作品というと、やたら個性的な登場人物の名前が印象に残ります。「1Q84」では青豆とか牛河とか、「騎士団長殺し」では免色渉(めんしきわたる)とか。それに対して本書では、ぼくときみだけで最後まで通してしまうのかと思いましたが、「子易」という人物が登場しました。こうした名前をどこから思いつくのやら不思議でなりませんが、「村上さんのところ」などを読むと、意外と適当につけているようにも思えます。郡山に子易神社なんていうのがあるようなので、そのあたりからつけているのかもしれません。

 音楽に造詣が深いというのも作品から伝わってくることが多くありますが、本作の前半は全くそれがありませんでした。コーヒーショップに入るシーンで、「お、そろそろ来そうだな」と思ったのですが、やっぱりお店のBGMについて言及していて「来た来たぁ」という感じで、勝手に盛り上がっていました。残念ながら、私自身も色々と音楽は聴いているつもりですが、著者には全くついていけておりません。「ロシア5人組」なんていう作曲家集団の「あと一人が、思い出せない」なんて言うシーンがありましたが、そもそも誰も知りません。「スラッシュメタル四天王」なら知ってるんですけどね。ジェリー・マリガンなんていうサックス奏者も登場しましたが、こちらもサックス奏者ということは調べて分かったことで、私はその名前からブラック・ジャック・マリガンというプロレスラーを思い浮かべてしまいました。著者の作品を理解するには、その周辺ももっと勉強する必要がありそうです。

 本書は1980年に「文學界」に掲載された「街と、その不確かな壁」をリメイクしたものです。リメイクという言葉が適当かどうかは難しいところですが、「街と、その不確かな壁」の内容が中途半端で納得できなかったことから、書籍化しなかったのだそうです。その後、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」で、その納得できなかったところを払拭しようとするも、しきれずに、本作で改めて完成させたということでした。実に40年越しの作品と思うと、重厚感が出ますね。「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」をまだ読んでいないところが残念ですが、これからまた読んでいきたいと思います。

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