AIにはできない「温もり」と「共感」を創るデザインの技
AIには真似できない、人間だからこそ届けられる温もりと共感
前回はAIの進化によって質の高いコンテンツが生まれる反面、質の低いコンテンツも増産してしまうので、これからは書き手の創造性や独創性がより重要になるという話を書きました。今回は、その中で特に「人間の温もり」と「共感力」にフォーカスしたいと思います。AIがどんなに進化しても、これだけは人間にしかできない領域だと考えています。
AIは大量のデータから最適な答えを導き出すことができます。しかし、それはあくまでも「情報」であり、「感情」ではありません。人間の気持ちや想いは何よりも複雑で、論理だけでは説明できない部分がたくさんあります。喜び、悲しみ、期待、怒り、不安…そういった感情の重みづけを完璧なバランスで言語化することはAGIを待ってしてもなかなか難解なことではないかと思っています。なぜなら人間は昨日と今日の気分で意見を変える極めて非合理的な生き物だからです。それらの揺らぎを理解し、共感できるのは、同じように心を持った人間だけではないかなと感じるのです。
例えば、落ち込んでいる時に、AIがどこまでも論理的で建設的で現実的な解決策を箇条書き形式で提示してくれたとしても、心の隙間は埋まりません。そんな時は論理的な正論や思考性よりも、シンプルに寄り添ってくれる温かい言葉や、または言葉さえない間であったりと、共感してくれる存在を求めるのが人間的で自然なことだと思います。
クリエイティブな仕事においても、この「温もり」と「共感力」は非常に重要です。クライアントの抱える課題を論理的に解決するだけでなく、その背景にある思いや感情を理解し共感することで、より深く、より本質的な解決策を提案できるようになります。世の中の仕事のほとんどに HOW to がありますが、この分野は固有性の塊のようなもので明解な正解はなく、教科書通りではありません。少なくとも私が関わってきたほとんどの仕事はそうでした。
AIを活用したデザインツールは、効率的に美しいデザインを生み出すことができます。しかし、それはあくまでも「表面的な美しさ」です。真に目指したいデザインは、対象の心を動かし「感動」を与え、感じて動く機会を生み出すものです。そして、そのようなデザインを創作するためには、デザイナー自身の温かい心と、ユーザーへの共感力が不可欠だと感じています。
文章を書く仕事でも同じです。AIは確かに文章を書くのが上手いですが、それはあくまでもただの「情報の伝達」に過ぎません。読者の心を掴み、感動を与える文章を書くためには、書き手自身の経験や感性、そして読者への共感に基づいた「温かい心を感じる言葉」が必要になります。
AI時代において、私たちクリエイターはAIをツールとして活用しながらも、人間らしい温もりや共感力を失わないようにすることが大切です。それは、AIには真似できない、私たち人間だけが持つ強みだからです。
そしてこれからは、クリエーターに依頼する側も情報の本質を見極めるリテラシーを高めると同時に、発信者としての「温もり」や「共感力」を共創できる感性が磨かれていくと、よりよい社会につながると感じています。
デザインで温もりと共感を可視化するための方法
では、次に25年以上、第一線で商業デザイナーとして取り組んできた経験から、温もりや共感をデザインや表現に落とし込む具体的な方法について考えてみます。
まず、温もりや共感は、目に見えない抽象的な概念です。しかし、デザインを通して、それを「見える化」し、相手に伝えることは可能です。そのための方法をいくつかご紹介したいと思います。
写真やイラストなら
写真は言葉以上に多くのことを伝えます。例えば、人物写真を使う場合、AIが生成した合理的で完璧な写真よりも、自然な表情やちょっとした人間の不完全さだったり、リアリティを感じる意図しない隙が写っている写真の方が、温かさや親しみやすさを表現できます。加工ゴリゴリのとっても美しい写真、飽きるほど作ってきて私は飽きてます。また、手描きのイラストや温かみのある色使いのイラストも、描き手の人柄や時間を想像させることは、人の心を和ませる効果があります。素材を選んだり作る際には、技術的な完璧さよりも、時に目にする人間味や情緒的な要素を大切にすると醸し出される温もりを活用できます。
フォントなら
たとえば、手書き風のフォントを使用することで、親しみやすさと温かみを感じさせる効果が得られます。(ほんとの手書きも良いと思います)手書きの文字は、どこか人間の不完全さや揺らぎを反映し、読む人に「人の手が加わっている」印象を与えます。親しい友人からの手紙やメッセージのように、温もりを伝えたい場面での共感効果が高まります。個人的には下手でも想いがこもってる方が好きです。一方で、ゴシック体やサンセリフのフォントには、シンプルで無駄のない構造があり、効率的で信頼性のある印象を与えます。たとえば、ビジネスや公式の案内では、読者に「しっかりとした情報」として伝わり、安心感や誠実さが強調されます。フォント選びの際には、情報がどのように受け取られるかを意識し、読み手が感じる温もりや親しみがどのようにデザインに現れるかをイメージしてみると、共感度がさらに上がります。
色使いなら
色使いで共感を生むには、色彩心理学を活用することが効果的です。例えば、やや極端に表現すると暖色系は温かさや親しみを感じさせるため、家庭的な表現に相性が良いです。一方、寒色系は落ち着きや信頼感を強調し、特に金融や医療分野で信頼性を高めるために使われることが多いです。また自然界の色合いも安心感を生み出す要素です。例えば、ひまわりの黄色、茶色、緑の組み合わせなど、見慣れた馴染みのある配色は、見る人に溶け込むような安心感をもたらします。このように、色の心理効果をデザインに取り入れることで、見る人の共感を自然に引き出すことができます。
レイアウトなら
情報が整理された読みやすいレイアウトは、読者への配慮を示した結果です。適切な余白や文字サイズ、行間の調整により、視線が自然に流れ、読むストレスを感じることなく読み取ることができます。また、写真やイラストを効果的に配置することで、視覚的なリズムが生まれ、内容を読み取りたくなる気持ちを引き起こさせる効果を活用します。こうした工夫を凝らすことで、読者に心地よい体験を提供し、共感を引き出すデザインが可能となります。
ストーリーテリングなら
ストーリーテリングを取り入れることで、デザインに共感を生み出し、記憶に残る体験を提供することができます。たとえば、商品やサービスの開発秘話や、クライアントが抱えていた課題と解決に至るまでの道のりを伝えることで、読者が自分と重ね合わせやすくなり、心に響く感情が引き出されます。このような背景を共有することで、共感や信頼感が自然に高まり、デザインがより深い意味を持つものになります。
インタラクションデザインなら
ウェブサイトやアプリのデザインでは、ユーザーとのインタラクションも重要な要素です。例えば、ホバーエフェクトやアニメーションを効果的に使うことで、操作性を向上させるだけでなく、楽しさや驚きを提供することができます。また、ユーザーからのフィードバックに意外性や驚きを組み込むことで、よりワクワクさせる感情を持ち出させ、好奇心を刺激し情報を取得しようとするに適した体制をつくることができます。
これらの要素を組み合わせ、情報を届ける先や伝えたいメッセージに合わせて調整することで、温もりや共感を効果的に伝えることができます。AIを活用した効率化も分野によっては非常に重要ですが、クリエイティブな世界においては、まだまだ人間の感性や経験に基づいた判断が、デザインの質を大きく左右することを忘れてはいけません。
AI時代においても、人間の温もりと共感力は、何にも代えがたい「かけがえのない価値」として輝き続けます。それらをデザインという「形」に落とし込み、相手の心に「温もり」を届けることで、私たちはより「人間らしいコミュニケーション」を実現できるようになるはずです。そして、それこそが時代を超えて「心」を動かす、クリエイターにしかできない「本質的な役割」だと感じています。