亡き母の文箱開くれば父も吾も知らざりし日の恋咲き満てり/月硝子
※ 文箱=ふばこ
2022年11月3日(木)のうたの日11時部屋の題「題『文』を文語で」の短歌。
亡くなった母の遺品整理をしているのだろうか。手紙を収めた箱がある。それを開けたのは、作中主体か父か。中から出てきた手紙を父と作中主体とが読む。母が父と出会う前か、それとも父と出会った後か。母の受け取った手紙にしたためられた言葉からは、恋の思いが溢れるほど感じられる。一方、送りあぐねた母の書いた手紙もあったろうか。
父の心中はいかばかりか。そして作中主体は決して見ることのなかった恋する母が垣間見られる。「恋咲き満てり」という結句が一首の肝であり、恋が花に喩えられている。「咲き満」ちているわけだから、燃え盛る恋なのだろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?