飛び出した街をもたないわたしへと正しく刺さるきみの歌声/桐島あお
2022年3月31日(木)の7時部屋の題「福岡」の短歌。
椎名林檎の1999年発売のファーストアルバム『無罪モラトリアム』の1曲目「正しい街」を踏まえている。椎名林檎が作詞作曲を手掛けている。福岡で育った椎名林檎の経験がもとになった楽曲。歌詞の始まりと終わりは「あの日飛び出した/此の街と君が正しかったのにね」である。上京にあたって福岡を飛び出したことが歌われている。後半では、「都会では冬の匂いも正しくもない/百道浜も君も室見川もない」という部分もある。
この楽曲を受けた掲出歌の作中主体は、「飛び出した街をもたない」のだから、東京の人間か、その他の街でずっと生活してきた人間かだろう。
しかしそれでも、「正しい街」の歌詞が「正しく刺さる」のだという。「きみ」とは椎名林檎か、それとも「正しい街」をカラオケなどで歌う人物か。
東京の人間に「正しく刺さる」とすれば、先に引用した「都会では冬の匂いも正しくもない」だろうか。地方に比べれば、季節を感じさせる自然物の少ない東京。作中主体は「冬の匂い」を知りたく思っているのだろう。