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遺されし小さき文机 母の日に我の描きし花の絵のあり/安原健一郎

※  小=ち、描=えが

2022年11月3日(木)のうたの日15時部屋の題「題『文』を文語で」で首席(薔薇)を取った短歌。

愛おしい愁いを帯びた文語新仮名短歌。「描き」は、歴史的仮名遣いなら「ゑがき」だが、現代仮名遣いなら「えがき」でよい。

亡き母の使っていた文机だろう。「小さき」にその母の様子が見える。遺品整理をしている時だろうか、その文机に入っているものを見てみた。すると、見たことのある花の絵が見つかった。母のありし日に作中主体が母のために描いた花の絵。幼い頃に描いた絵とも想像できるが、大人になっていたとしてもカーネーションを買う代わりに花の絵を描いていたとも想像できる。その絵を描いた作中主体としては、その絵を描いた当時の自分に対する愛おしさとその当時の母を懐かしむ気持ちとが湧き起こってくるものであろう。

「絵のあり」の主格の「の」は短歌でよく用いられるが、音調をととのえるために「の」という響きを選んだもので、「絵があり」や「絵はあり」という意味合いである。「の」は、「絵のある文机」などと連体修飾句で用いるのが本来の形である主格の助詞。

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