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きらきらと薄き陽ざしにぬくむ猫冬の運河のほとりに眠る/小﨑ひろ子
「うたそら」第十二号掲載のテーマ詠「温」。
文法上、擬態語「きらきらと」は連用修飾語として「ぬくむ」にかかっている。それに加えて「眠る」にもかかる。いずれも「きらきらと」によって修飾されることで撞着語法のような効果が生じている。「ぬくむ(温む)」は、あたたまるという意味。
「運河」という動きを思わせる具体により、猫が眠って見る夢や眠った猫の周囲で展開する物語を想像させる。句切れのないこともその
あの日々の断片のごと降りしまく銀杏並木をゆく車椅子/六厩めれう
2022年11月15日(火)のうたの日13時部屋の「断」の短歌。
作中主体は「車椅子」に乗っている者とも取れるし、乗っていない者とも取れる。「車椅子」に乗っている者が作中主体である場合、自らの乗る「車椅子」をあえて客観的に見つめているように読める。「車椅子」に乗っていない者が作中主体である場合、「車椅子」に乗っている者のことを思っているように読める。
前者の読みにおいては、「降りしまく」中で舞
トーストの余白が多く見える日のとっぷりのせる有塩バター/鈴木ベルキ
2022年11月13日(日)のうたの日7時部屋の「トースト」の短歌。
「トースト」とは、切って軽く焼いた食パンのこと。その「余白」とはなんだろうか。焼き目の付いていない部分のことか。平置きのオーブントースター使っているのなら、食パンの置き場所によって焼き目の付き方が変わってくる。普段からトーストを食べているので、「今日は白い部分が多いな」と感じたのだろう。また、「余白」は物足りなさに通じるので、
スマフォのみいじりたる手にひとひらの秋を知らする文が届きぬ/青井力
2022年11月3日(木)のうたの日21時部屋の題「題『文』を文語で」の短歌。
心温まる文語新仮名短歌。旧仮名(歴史的仮名遣い)なら「いぢり」だが、新仮名(現代仮名遣い)なら「いじり」でよい。「たる」は存続の助動詞で「ている」という意味。「する」は使役の助動詞で「せる」という意味。「ぬ」は完了の助動詞で「た」という意味。
第三句「ひとひらの」がおもしろい。構造を見れば「文」を修飾する語だとわか
ミサイルの影は見えざりスマホには上空通過の文字が残りぬ/蒼音
2022年11月3日(木)のうたの日17時部屋の題「題『文』を文語で」の短歌。
昨今続く北朝鮮によるミサイル発射。日本の国土を飛び越すようなミサイルが発射されたとわかると、Jアラートが該当地域の人々に発せられる。そのとき、スマホや緊急告知ラジオが鳴る。さらに、「上空通過」がわかるともう一度鳴る。
避難を勧告する通知だが、やはり空を見たくなるのが人間の性。そこに「ミサイルの影」は見えない。しかし