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「日本型ウェルビーイング」の思想的枠組みの視点⑵





●感知融合の道徳教育の原点

井出元『祖述一廣池千英が継承した創立者の遺志』(モラロジー道徳教育財団、令和4年)によれば、「道に志す」姿が学祖の理想とする生き方であり、縦軸と横軸の思想の調和の上に「個人の幸福というものの基礎」を置き、「国民としての国家生活」と「個人としての社会生活」を充実させていくことが「道徳の基本」であるという。

また、廣池千九郎は明治38年に『東洋法制史序論』を刊行し、「法」と「律」という漢字の語源に遡って、その基準が天道によって実現される「中正・平均」つまり、バランスの保たれている状態、すなわち「和」にあると捉え、「和」を創出する叡智と味わう感性とを祖先から継承した(井出元『廣池千九郎の思想と生涯』第1章参照)。

「感知融合の道徳教育」の原点はここにある。



●廣池千九郎の生涯に学ぶ「和」の諸相

廣池千九郎の生涯に学ぶ「和」の諸相は、井出の前掲書によれば、
⑴神聖なものに対する「畏敬の念」や「生かされている」という実感を大切にする「人と自然との和」
⑵「三方善し」という考え方や「篤く大恩を念いて大孝を申ぶ」(『廣池千九郎日記』⑥4-5頁、昭和11年1月7日)

という伝統を受け継ぎつつ発展させるという積極的な意志、すなわち「自己に反省すること」が求められる。

さらに、
⑶「内面的、精神的な和(心の内なる和)」
として、感知を融合する「知徳一体情理円満」(新版『道徳科学の論文』⑨300頁)を強調しておられることは、情動学の第一人者である東大の遠藤俊彦教授の『『情の理』論』(東大出版会)に通じる視点として注目される。

また、⑷「自ら運命の責めを負うて感謝す」(『論文』⑨286頁)という格言や、「恩寵的試練」(同⑦111頁)という言葉に集約されている、「運命や境遇との和」によって、逆境とどのように和していくか、⑸「時代の動向との和」という5つの和の諸相があることを廣池千九郎は明らかにしている。



●杉浦重剛が提唱した「理宗学」

廣池千九郎は『新版 道徳科学の論文』第9冊において、東宮御学問所で7年間、昭和天皇に「倫理」について講義した杉浦重剛の「理学宗」が、「物理学の法則を人間行為の法則に応用して、道徳を説明」しようとした点に注目している。

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