ABEMA PRIME「包括的性教育の是非」論争の核心を解説する

 朝日新聞が性教育につて10回シリーズで連載した企画を踏まえて、昨晩9時半からテレビ朝日の生番組に出演し、「包括的性教育の是非」について野牧雅子、パックンやEXIT,乃木坂46の元メンバー山﨑怜奈らとABEMA PRIMEで討論した。ユーチューブ動画で見ることができるので、関心のある方は見てほしい。

●「性規範の解体」「性的自己決定権」が論点の核心

 包括的性教育の最大の問題点は、性規範の解体、すなわち規範としての異性愛の消滅を目指していることと、子供には性と生殖に関するリプロダクティブ・ライツ、すなわち「性的自己決定権」があると主張している点にある。
 1970年代から始まったアメリカの包括的性教育をめぐる学校と保護者の対立と分断は、このリプロダクティブ・ライツ推進派と否定派との論争、政治闘争によってもたらされた。
 我が国はこの教訓に学ぶ必要がある。日本財団やこども家庭庁を推進する自民党議員の中にも「包括的性教育」を熱心に推進する人々が多いが、この二つの問題点について一体どう考えているのか明らかにしてほしい。
 子供が「性的自己決定権」を有するか否かという前提は、親が自分の子供の包括的性教育の受講を拒否することができるか否かを決定づける要因でもある。リプロダクティブ・ライツ推進派の見解では、親は子供の包括的性教育の受講を拒否することはできない。
 子供の人権として「性的自己決定権」を有するという前提に立つと、学校を基盤とした性教育に関する親の養育権の制限が可能となるためである。親は自分の望むような教育を子供に受けさせるという「親の権利」を有している。
 しかし、包括的性教育の受講が子供の権利であるとすれば、親の権利をもって、自分の子供に包括的性教育を受けさせることを拒否することは問題であるとみなされる。国際人権法によって、子供が効果的な教育を受ける権利は、自分の望むような教育を子供に受けさせる親の権利を上回るとされているためである。
 一方、子供は「性的自己決定権」を有しないという前提に立つと、学校を基盤とした包括的性教育の必修化は「親の養育権」という親の権利の侵害にあたる。親こそが、子供の教育に関する決定権を有するのに最もふさわしく、性教育の内容についても例外ではないとされるためである。
 反対派は包括的性教育は「家庭を相手取ったイデオロギーの戦いにおける主要な武器となっている」「伝統的な家族の権力、親の権利を奪う手段である」と捉えている。

●包括的性教育をめぐる親と学校の対立の歴史

 包括的性教育の実施が、アメリカの性教育をめぐる親と学校の対立・分断の深刻化の発端となった。1969年4月のカリフォルニア州サクラメント郡の教育局性教育調査報告書には、アナハイムの中学校に通う娘を持つ母親が、性に関する相談は親にするのではなく、先生にするようにと言った教師の発言を非難したと記録されている。
 同報告書によれば、子供と家族の関係性を学校が危険にさらしているとして、カリフォルニア州教育委員会の性教育の排除を訴えたという。これまで親が保持してきた子供に対する道徳的影響力が、包括的性教育によって学校に奪われるという親の強い危機感からである。
 包括的性教育反対派の母親らが学校委員会の多数派を占める動きが全米に広がり、1970年代に全米の学校システムにおいて、性教育に関する親への通知義務が制度化された。
 1980年代にエイズが蔓延し始めると、性教育の内容をめぐる闘争が変化し、1990年代から2000年代に至るまで、「禁欲的自制教育」の導入運動が親を中心とした全米の草の根運動として広がった。
 そこで私は、日本教育研究所とフジテレビの協力のもとに、5百万円の寄付を募って、全米の「禁欲的自制教育」や「コンドーム教育」などの性教育資料や教材を段ボール箱5箱分集めて、全米の中高の性教育授業の現場を現地取材し、政府や国連の性教育担当者へのインタビューなどを編集して、「どうするエイズ・性教育」と題するビデオを作成して、フジテレビの夜のニュース番組で安藤優子キャスターに紹介してもらった。
 髙橋史朗塾の塾生に自宅マンションの撮影ルーム(小さな映画館)で見せたところ、最後のインタビューで同ビデオを締めくくった40代の私の若々しい顔に驚いたようで歓声が上がったのに私自身が驚いた。

●英首相と教育長官の性教育の緊急見直し声明「子供の幸福より性自認のジェンダーイデオロギーを優先している」

 近年のLGBT教育の広がりによって、フロリダ州では幼稚園から小学校3年生までの「性自認」などを教える性教育を禁止し、全米10州に広がり、州法によって性教育授業に関して親に通知することを義務付ける学区が増えた。
 子供が「自認」によって自分の性別を決める「性的自己決定権」があると教える「包括的性教育」はイギリスにも広がり、国営のジェンダークリニックに行って性転換手術をする18歳以下の子供が、2009年の77人から10年後には2590人に急増し、「性自認」をめぐるトラブルが急増した。
 そこで、英国政府はこのジェンダークリニックの閉鎖を決め、ホルモン治療や外科手術等を中止する方針を打ち出した。しかし、自分の性別を嫌悪し、既に乳房の切除手術に及んだが、後悔する女子や思春期の成長を薬物で抑制した結果、取り返しのつかない結果を招いた生徒が続出する悲劇が起きているのである。
 今年の3月にスナク首相は性教育の緊急見直し方針を表明し、「子供の幸福(ウェルビーイング)よりも性自認のジェンダーイデオロギーを優先している」と批判し、教育長官も「学校の不適切な性教育」に関する憂慮声明を出した(『正論』9月号の拙稿「有害LGBT教育家族関与で阻止を」参照)。

●性教育の「歯止め規定」と性別の科学的根拠に基づく性教育の重要性

 我が国は平成5年に中央教育審議会の3年間に及ぶ17回の審議を経て、学習指導要領解説(保健体育編)に次の「性教育の歯止め規定」が明記されたが、日本で「包括的性教育」を推進する過激な性教育団体は歯止め規定の撤廃と「性道徳・性規範の解体」を明言している。

⑴ 発達の段階を踏まえること
⑵ 学校全体で共通理解を測ること
⑶ 保護者の理解を得ること
⑷ 集団指導と個別指導の内容を区別する

 教科書に明記されている「性はグラデーション」という生物学的大原則(縦軸の男女の性別の共通性)を無視した非科学的な詭弁がLGBT理解増進法の制定によって加速することは避けられないが、性別に関する科学的根拠に基づく性教育こそが求められている。
 その第一は、脳科学の新井康充人間総合科学大学人間科学部学部長の『男脳と女脳』『脳の性分化』、第二は、「性は38憶年の歴史を背負っている」という行動生態学の長谷川真理子総合研究大学院大学長の共著『性差とは何か』、第三は、「ヒトにも生物学的性差があることは明らか」という生殖科学の束村博子名古屋大学教授の『ジェンダーを科学する』、第四は、「38億年の生命、有性生殖5億年の生命の歴史を受け継いでいる」という生命誌の中村桂子JT生命館名誉館長の多くの著作を参照する必要がある。



 
 
 

いいなと思ったら応援しよう!