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映画「SAND LAND」は事前知識不要で超絶映像とカタルシスを得られるよ

(冒頭ネタバレなし)今年の夏休み映画の本命、これだったんじゃないの?

鳥山明のマンガ「SAND LAND」、私にとっては「昔そういう作品あったなー、重かったよな」と程度の記憶しかなかった作品です。

2000年に短期連載された作品なので「なんでこれが今でてきたの?」というくらいの感想だったのですが、実際観たら今映画化した理由が察せられる出来でした。

作品内の躍動感を出すには、現代の技術が必要だったんですね。

IMAXや4Dのある映画館で観る人は、「SAND LAND」はそれで観た方が良いと思います。
これを普通のスクリーンで観るのもったいない。
初見で普通のスクリーンで観た後に「誰か過去の私に教えてくれよ」と無理筋な文句を吐いていた私、4DX版を観てきました。最高。マジ最高。

内容は、砂漠で幻の泉を探す精悍なじいさん&メンタル小学生な悪魔の王子&ぼやきながらも頼れる魔物のじいさん、によるロードムービーです。

若い頃は歴戦の戦士だったのだろうと窺える老人・ラオの渋カッコよさと、ベルゼとシーフによる初期ドラゴンボール的な活劇、そして戦車を始めとするメカの美学が、アニメスタッフによって何倍にも増幅された作品となっています。

メカの挙動や戦術の考証がしっかりなされており(4Dだと振動のかけかたも良いですよ)、戦車道を修めている方も楽しめることでしょう。

テーマは重いのですが、道中は賑やかですし、何よりちゃんとカタルシスが用意されているのも良いです。今の世の中こういうの飢えがちですからね。スカッと終わるのは良いですね。

惜しむらくは、この作品がお盆終わってからの公開になったことですね。
北海道では生徒さん方の夏休みが終わる寸前なのですよ。ちゃんと少年マンガしてるベルゼがいる割に、子供にリーチしないよな…。
(入場プレゼントで多少釣ってはいるものの)

ともあれ、何の予備知識もなく観ることができ、単体で完結していて、満足を感じられる名作といえます。
2023年の夏映画の本命はこれだった。

※以下よりネタバレありになります。


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作風のチューニングが最高

「SAND LAND」の原作は連載で読んでいました。といってもどこまで読んだかいまいち記憶になく、あとになって「あ、最後まで読んだわ私」となりました。

原作のコンセプト「老人と戦車」から始まり、舞台がディストピア、人間の愚かさや差別を扱い、暗めのカラーリングや細かな書き込みによりビジュアルも重いことから、私にはとにかくズシッとくる作品という印象しか残っていなかったんです。

それで映画を観た後に改めて読み直したのですが、それで気がついたのは文字数の多さ。
原作が相当に短い作品なので、作画するほどのページ数もなかったと思われますが、これが重苦しさを増やしているようにも感じました。

それらの重さがアニメではうまくコントロールされ、バランスが整っているようにみえました。

物語の重さおよびラオのハードボイルドなカッコよさはそのままに、活劇として派手になっているんですよね。
ベルゼが活き活きと暴れ回るのも勿論良いのですが、シーフのコミカルさが際立っているのも良い。

シーフは、原作ではあそこまでボヤいてないんですね。最初の「わくわくしない、ぜんぜんしない、まったく(以下略)」以外はぼやかないですし、王子のお目付け役のじい兼語り部長老キャラなんですよね。
アニメでは延々ぼやく。ぼやくけど、ワイヤーアクションかますし、ラオの補佐役として極めて優秀です。ラストバトルに活躍が追加されましたし、いざという時にかっこいいぼやきジジイに変更されたのは大きな変更といえるでしょう。

そして、原作の躍動感を何倍にも高めているであろうアクションの描き方。
特にマシンの挙動においては、砂漠車(ジープっぽいもの)のきしみから、車で爆走する時の小さな振動までもが出来が良いのですよ。

戦車戦は3D演出が特に効いて非常にわかりやすく、アレ将軍のいう「伝説」の意味を観客も体感させられます。勝てるかあんなもん。

総じて、今作のテーマと大筋は変えずに、細かな変更やセリフの整理、演出のパワーアップ(ラオの村の描写や、カーチェイスにゲジ竜の穴回避という軸が増える、といった小さな変更も多い)を行っているので、原作愛を感じられるのが良いですね。

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「悪魔よりワル」

ベルゼブブは一応ワルを自称していますが、小学生の悪ガキの範疇の「ワル」でしかありません。
水強盗はさすがに悪事ですが(義賊とはいえ)、生存のための必要悪ではあり、恐らくもっと豊かな世界ではそれすらやっていないのでしょう。 

そんな彼を含む魔族達は、むしろ人間比で悪くなりきれないために人間と距離を取るしかなくなっていました。
「悪魔よりワル」い奴と戦う正統派人外ヒーローとしての説得力は、この背景に裏付けられています。

動きの演出には鳥山ヒーローなので「ドラゴンボール」の影響もきちんと受けていますし、しかも3D作画によりグリングリン動くので、過去作品よりもっとダイナミックです。「時代が鳥山明に追いついた」という映画評をされていた方がいたのですが、まさにその通りですね。

そして中身カラッとした2500歳児(人間換算でたぶん10〜12歳くらいでしょう)ということで、大人達が暗い方に行きがちなところを明るい方に引っ張り上げてくれます。
少年マンガ成分は彼が負う部分が大きいですね。

アニメでは、虫人間を増やしたこととゼウ戦に絡ませたことが、「ドラゴンボール」的なものを求める観客には刺さったでしょうし、最後のわかりやすいワンパンもこの映画でスッキリするポイントになっていますね。
せっかくのパワーアップイベントも、その後活かされないのは勿体無いですしね。

「悪魔よりワルだなんてゆるされるとおもうか?」
は本来決め台詞ではないので、終盤にまた持ってきたのは上手いと思いました。しかも、ラオ達の見せ場にプラスする形なので邪魔にはならない。

ブチ切れると目が赤くなって強くなるベルゼですが、虫人間と話し合うところで黒に戻しているのが芸細かいですね。
話し合いはすぐ強制終了させられてしまいますが、人間に利用された虫人間を助けようとしてるんですよね。それを思えば、ベルゼにもゼウを殴る資格はあるといえます。

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戦車戦

今作は乗り物類が一際派手なわけですが、直接のバトルということでいうと戦車戦の見事さは外せないでしょう。
きちんと物見役としてのベルゼの優秀さやシーフの運転能力の向上を見せながら、ラオがアレ隊を撃破するまでのプロセスが、詳細に描かれています。
制作陣も考証をみっちり詰めたところではないでしょうか。

原作でも考証はされていると思いますが、映像化チームもベルゼの視点、ラオ&シーフ機・アレ将軍隊の進軍経路と視点を全部洗い出して作っていることでしょう。

アレ機は原作では倒される前に降参してしましたが、アニメではちゃんと王手をかけたのが良いですね。この辺はもう、今はアニメ界に「ガールズ&パンツァー」が存在している時代であることも大きいと思います。
原作ではアレ機は破壊してはいけないので戦闘を止めたのだと思いますが、砲台を向けられないから降参するという展開で「伝説」シバ将軍の強さを示しつつ壊させない、という展開にしたのが良いですね。シビれる描写です。

光の表現も良く、最初にやられることになる2機が太陽が眩しくて撃てないシーンや、割れた部品が散っていく(これがジャマーになる)シーンなど、綺麗なんですよね。
(光に関しては、後に出てくる水の美しさにも関連しますね。)

降参後のアレ将軍のカッコよさも含め、ここのシーンは中盤の盛り上がりとして最高です。

いいですね、戦車道。

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ラストバトルについて(ラオサイド)

原作になかった派手なVSゼウ戦ですが、まずラオを決戦の場に行かせるシーフがシリアスになるのが良い。そういえば「シーフ」なのでルート取りや身を潜めるなどはお手の物なんでしょうね

弾が入ったピストルや「平和」の問答は原作準拠ながら、出していくシーンを戦艦にしたことで、単にオリジナルシーンを付け足したのではないことが示されているように思います。

そこにゼウが、お前がピッチ人を全滅させたんだろと責めたりするのはいいですよね。
ラオにとっては復讐とやり直しの物語でもあるので、こういう卑怯な言い方ながら事実を突きつけられる(やらせたのは上官のゼウなんだけど)ことで、逆に戦う意味を再認識させられるパターンです。

銃撃がほとんど当たらず唯一当たったのも重症にならない箇所、というのが主人公補正で美味しい。原作に、戦車戦で先にやられた戦車の兵士がラオに銃を構えるも撃てないというシーンがありますから、同様に元将軍のオーラに負けてしまったのでしょうね。

ゼウの生命維持装置が分解できるのはフきました。あれがベルゼの一撃に繋がるとはいえ、よく考えたわあんなの…。

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4DXで観るとどうなるか

今作、私は先に普通の上映形態で観てから4DXでおかわりしましたが、思った以上に印象が変わりました。

砂漠車の疾走や戦車戦などが絶対楽しくなるだろうと思っていましたが、ベルゼの挙動に対する座席の反応もめちゃくちゃ楽しかったです。

スイマーズとの追いかけっこでまさかそんなバタバタバタ…と走る振動あるんだなって(笑)。

覚醒した後のベルゼのバトルは爽快感がUPしていて、虫人間を増やして正解だったといえます。攻撃で時折チカッと光ったりもしていました。

ゲジ竜とのカーチェイスは最も座席が暴れたとこだと思います。ゲジ竜の攻撃の衝撃まで通ります。

爆発と銃撃の多いラストバトルはいうまでもない派手さですが、なんせラオがめっちゃ動くのでそこに合わせた座席の動きも良いです。戦艦の上で飛び回るハードボイルド61歳、つおい。

あと、臭そうな煙幕出すアイテム、ベルゼパパのところで煙を出されたので「やめて(笑)」と思いました。
このアイテム自体は良いですね。ヘアスプレー(原作準拠)とも対応するのでラストバトルに出てきても無理がない。それに、あの形は鳥山作品ではお馴染みでもあり…。

当然ながら最後にミストバッシャーはきます。
酷暑には良いですが…ユナイテッド・シネマ札幌の4DXのスクリーンってやたら冷房が効きまくってるため(今作に限らず冷え気味)、違う意味で容赦ないなと思いましたが、他はいかがでしょう?

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