「弱い円の正体」を読んで、円安が続きそうな肌感は間違っていなさそうだと思った
個人的には為替、特にドル円相場に関する長期潮流としては円安が続くだろうという「肌感」をここ数年持っている。しかし、私は専門家でもないので具体的な根拠を持っているわけでもなく、調べる時間もないので、あくまで素人の「肌感」以外のなにものでもなかったが、先日、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏の「弱い円の正体 仮面の黒字国・日本 」を読んで色々と腑に落ちた。
まず、本書に通底している唐鎌氏の指摘は以下の通り。
唐鎌氏は実際の為替取引に伴う「キャッシュフロー」が大幅に赤字であることを、様々な統計データを基に非常かりやすく説明してくださっており腹落ちした。
そもそも、私が今後しばらく円安が続くだろうという「肌感」を持っていたのは以下のような理由から
身の回りのサービスが外国製のものが年々増えてきている
既得権益を温存する政策のために産業構造改革が進まず、日本企業の国際的な競争力が落ちている
資源ゼロの国にも関わらず、再生可能エネルギーの普及が遅いので、エネルギー資源の輸入が減る見込みがない
貯蓄から投資へと言われているが、投資先としてはオルカンやS&P 500などの外貨建てインデックスファンドが人気
つまり、外貨を獲得する力が落ちているにも関わらず、外貨で支払う場面が以前よりも格段に増えていると感じていた。
特に上記の1つ目に関して、自分自身の生活を思い返すとGAFAMはもちろんのこと、写真が趣味なのでAdobeにも毎月御布施してる。そして、IT 業界にご縁がない方にはピンとこないかもしれませんが、note、クックパッド、メルカリ、みてね等の国内サービスだとしても、それを動かしているのはほとんどの場合、Amazon Web Services(AWS), Microsoft Azure, Google Cloud Platform(GCP) などの大手海外クラウドなので、当然ながら国内サービス提供企業から、それらの海外企業へと多額の利用料が支払われている。
それから、テレビも同様。我が家はテレビを置いてないですが、世間一般では家にテレビはあっても、見ているのは地上波ではなくYouTubeやNetflixやAmazon Prime Video だったりするという家庭は多いと思います。
さらには、資産形成においても同様で、私はiDeCoもNISAも「S&P 500のインデックスファンド」の長期積立がメイン。
また、私がIT業界で仕事をさせて頂いているという理由もあるが、仕事の面においても同じで、パッと思いつくものを抜粋しただけでも、多くの海外サービスを使って日々仕事をしている。
AWS, Azure, GCP
Slack
Notion
GitHub
Google work spaces
ビジネスにおいても先ほどの話と同じく、freeeやSmartHR など日本企業のサービスを使っていたとしても、そのシステムはAWSで動いているという事は珍しくない。つまり、間接的に海外企業への支払いが発生している。
このように、生活のいたるところで、直接・間接問わず外貨を払いまくっているというのが私の「肌感」の最大の理由。
(支払いが円建てでも最終的に海外企業の収益になるのでこれに含まれる)
一方で、様々な専門家の中には以下のような意見を言う人もいる。
FRBが利下げに転じて日米の金利差縮小すれば円高になる
貿易収支は赤字でも経常収支は黒字だからそのうち円高に戻る
世界最大の対外純資産国だから安全資産なので何か有事があれば円高になる
購買力平価(PPP)では大きく円安に乖離しているので、PPPの水準(=円高)に戻る
しかし、これらの「一般的な」意見に関しても、唐鎌氏は同書の中で、様々なデータを基に疑問を投げかけており、どれも非常に鋭い指摘で勉強になった。
また、さらなる円安要因として、新NISAでの外貨建て投資信託の購入量が増えている事を唐鎌氏は指摘しており、これも私の「肌感」と一致している。唐鎌氏が紹介しているデータでは、2015年くらいから個人投資家の海外志向が右肩上がりとの事で、これが新NISAで加速すると、無視できない円安要因になるのではないかと指摘している。
(これに関しては、同じ指摘されている専門家の方は多い)
そしてもう1つ本書で非常に勉強になったのは、「かつて広く使われていた指標や考え方が、現在では役に立たなくなっていることもある」ということ。一例をあげると、すでに時代遅れで明らかに現状との齟齬がある「国際収支の発展段階説」を未だに振り回す専門家がいらっしゃると唐鎌氏は以下のように指摘している。
もちろん、多様な意見、様々な視座から分析することは大事だと思うが、ただ単に時代に合わせた知識のアップデートが出来ない「専門家」の御意見にも注意が必要だ。
本書全体を通して「肌感」として私が感じていた円安要因の根拠はそれなりにしっかりとある事がわかった。唐鎌氏は「2011~12年あたりで潮流が大きく変わった」と指摘している。何がどう変わったのかは本書を参考にして頂くとして、唐鎌氏が以下のように提言している通り、円安が続くことを前提に、それを活かすように様々な事を考えた方が良いというのは現実的なように思われる。
ひとまず、私個人の資産運用に関しては、S&P 500のインデックスファンドを淡々と積み立て続けるという、現在まで続けてきた方針を当面変更する必要は無いと判断した。
そして、資産運用に関して唐鎌氏が本書で述べていたことを最後に引用する。
実際にS&P 500の値上がりもさることながら、円安要因で大きく膨らむ残高を見て、結果的にではあるがこれは実際に「防衛」になっていると感じている。