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自転車競技のドーピング検査を受けた話

ドーピングと聞いてどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。
良くない事、ズルをしている、トップのスポーツ選手の話、みたいなイメージだろうか。
あながち間違った認識ではないが、実は自分レベルの競技者にとっても気にしなければならないことなのだ。

今回は昨年2021年の全日本選手権MTB XCOにおいてドーピング検査対象となり、実際に検査を受けた体験談を元に、ドーピング、そしてアンチドーピングについて説明したいと思う。

なおこの記事をご覧頂く場合は、JADA(公益財団法人 日本アンチ・ドーピング機構)のウェブサイトを併せてご覧頂くことを強く推奨する。
もし本記事とJADAウェブサイト記載の内容に齟齬がある場合は、JADAウェブサイト記載の内容を優先してほしい。

ドーピングとは何か?

そもそもドーピングとは何なのか。

「ドーピング(英: doping)は、肉体を使うスポーツおよびモータースポーツの競技で成績を良くするため、運動能力・筋力の向上や神経の大きな興奮などを目的として、薬物を使用したり物理的方法を採ったりすること、及びそれらを隠蔽する行為を指す。」(Wikipediaより引用)

Wikipediaではこう書かれているが、アンチドーピングの考え方で言うと、「意図的」でなくともドーピングとして処分の対象になり得るようだ。
つまり不注意やうっかりだとしても、禁止薬物を摂取し、それが検体から検出されるとドーピングと判断されるのだ。
今回北京オリンピックにおいてフィギュアスケート女子のワリエワ選手も「うっかり」だと主張している。

なぜドーピングはダメなのか?

それではなぜドーピングはダメなのか?
理由は大きく分けると3つに分類されると考えている。

まず1つ目は「アンフェアである」ということ。
薬物の使用などで身体的、精神的パフォーマンスが高まった選手が競技に参加する事で、その競技の公正さが失われてしまう。

2つ目は「選手の健康を害する」ということ。
ドーピングが許されてしまうと、体に害を及ぼす危険を冒してでも薬物使用により競技力向上を計る選手が出てきてしまう恐れがあり、健康を害する可能性が高まってしまう。

そして3つ目は「スポーツの価値を下げてしまう」ということ。
純粋な努力だけでなくドーピングに頼るスポーツになってしまうと公正さが失われ、スポーツの社会的価値を下げることになる。

このような理由からスポーツにおいてドーピングは悪い事として認識されている。

アマチュア選手に大きく関わるドーピングとは

アマチュア選手がドーピングについての意識が高くない理由の最もたるは、「自分は関係がない」と思っているからではないだろうか。
逆を言うと、アマチュア選手で意図的にドーピングをする人はあまりいないのではないだろうか?
それゆえ、ドーピング検査に引っかかってしまった人の殆どが、先に述べた「うっかりドーピング」ではないかと思う。

確かにドーピング検査が実施されない競技会しか参加しない競技者は、ドーピングに引っ掛かることはほぼ有り得ないだろう。
しかし、アンチドーピングの考え方の本質は、「検査に引っかかるか否か」ではなく、「公平公正な競技実施」と「競技者の健康を守る」が重要であるため、本来は、ドーピング検査が実施されないような競技会に参加する競技者であっても、内容を十分に理解しうっかりドーピングをしてしまわないように注意するべきだと考える。

このアンチドーピングの考え方と競技者自身の認識のギャップによって「うっかりドーピング」は多発するのではないだろうか。

誰にでも起こり得る「うっかりドーピング」の可能性

ドーピングとして禁止されている薬物は、競技の種類や使用するタイミング、年度によって異なっていることに注意してもらいたい。

禁止薬物の区分けとしては、大きく分けて下記の3つに分類される。

・常に禁止される物質(S0〜S5)
・競技会(時)に禁止される物質(S6〜S9)
・特定競技において禁止される物質(P1)

禁止薬物の中には、ごく一般的な「総合かぜ薬」に含まれるものもある。
そのため、競技会直前に該当する禁止薬物が含まれたかぜ薬を飲むと、摂取量などによってはドーピングと見なされる可能性が十分にある。

しかし、勘違いしてはならないのは、「ドーピングはどんな薬も使用してはならない」というわけではない点だ。
禁止薬物や禁止方法に該当しなければ、用法用量を守って使用する事が出来る。
これを知らずに薬やサプリメントを摂取すると、「うっかりドーピング」に繋がる可能性があるということだ。
そのため、競技者が知るべきは「何が禁止薬物、禁止方法なのか」、そして「それをどうやって調べるのか」ということだろう。

禁止薬物、禁止方法の調べ方

毎年更新されるこれを全て把握することは現実的ではないだろう。
そのため、摂取の前に都度確認することが望ましい。

確認する方法としては以下が挙げられる。

・スポーツファーマシストに聞く
全国に約10,000人いるJADA公認スポーツファーマシストに聞くことも方法の一つ。
検索ページからお近くの薬剤師を調べる事が出来る。

・薬剤師会アンチ・ドーピングホットラインに問い合わせる
近くにスポーツファーマシストが居ない場合は、薬剤師会アンチ・ドーピングホットラインからFAX問い合わせが可能。

日頃出来ることとしては、インフォームドチョイス製品(※)を選ぶことや、禁止薬物が含まれていない総合かぜ薬を確認しそれを常備することによって、うっかりドーピングを防ぐという方法もあるだろう。
ただし、先ほど述べたように禁止薬物は毎年更新されるため、更新の都度確認する必要がある。
※WADA(世界アンチ・ドーピング機構)による禁止薬物リストの検査を受けて認証を受けている製品

インフォームドチョイス製品にはこのマークがついている

実際のドーピング検査の様子

前置きが超絶長くなったが、ここからは実際にドーピング検査を受けた話をしたいと思う。

遡る事数ヶ月、時は2021年11月21日。
この日は全日本選手権MTB XCOのレース当日。

自分は男子エリートクラスに出走し過去最高の9位でレースを終えた。
レースの詳しいことはレースレポートをご覧頂きたい。

そしてドーピング検査は突然やってきた。
ゴールラインを通過した直後である。
まだ息も整っていないような状況で、JADAのスタッフであるシャペロンと呼ばれる検査官が声を掛けてきた。

「詫間選手で間違いないですか?」

おお、ついに来た。
これが率直な感想。
この瞬間から検体採取が完了するまで、シャペロンはずっと視界の範囲にいる。

ドーピング検査は、この日は(男子エリートカテゴリでは)優勝者(沢田時選手)ともう一名ランダムで選ばれた競技者が対象となった。
そのランダムのもう一名というのが自分だ。

この日行われるのは、厳密にいうとドーピング検査用の検体採取であり、実際の検査は検査機関で後日行われることになる。
そのため、ドーピング検査の結果はその場ではわからない。
検体とはつまるところ「尿」であるわけだが、これが出るまで終わらない。
いやはや、これがとても大変だった。

レース開始前には排尿を済ませており、さらにレース直後は脱水に近い状態になっているわけだから、出せと言われてそうすぐ出るようなものではない。
実際に、自分はシャペロンに声を掛けられてから検体採取が完了するまで2時間も掛かってしまった。
出ないならたくさん飲み食いして下さいと言われ、たくさん食べて飲んだ。
JADAスタッフの皆様、その節は夜遅くまでお待たせし大変申し訳ありませんでした・・・。

手続きとして、ドーピング検査に関する説明を受け、直近1週間に接種した薬やサプリメントの回答、検体採取、検体封入という流れである。
スムーズに終わればおそらく15〜20分程度で終わる内容だと思う。

なお、今回の検査結果が陽性だったのか陰性だったのか、3ヶ月近く経つ今でも分からない。
陽性だった場合は連絡があるとのことだが、いつ検査するのかも知らされていないため、検査待ちで連絡が無いのか、陰性だったから連絡が無いのか分からない。
もし気になるようであれば、各競技連盟(今回は日本自転車競技連盟)に問い合わせすれば進捗を教えてもらえるとシャペロンの方は仰っていた。

競技者へのアドバイス(ドーピング検査の心構え)

実際にドーピング検査を受けた人間のアドバイスとしては、特に以下の事を伝えたい。

①大会1週間前からは極力薬やサプリメントを口にしない
②もし口にする場合はアンチドーピングに抵触しないか確認する
③口にした薬やサプリメントのパッケージを写真に撮っておく

①と②については、疑問に思うようなことはここまでに説明しているので省略する。
③については、ドーピング検査時に「1週間以内に接種した薬やサプリメント」を回答する項目があるため正しく把握しておくことをオススメする。
なお、かぜ薬などの中には若干の商品名違いで含有される成分が大きく違うものも多々あるため、間違えないようにパッケージをしっかり写真に収めておく事が大切だ。

最後に、検体採取時は下着を太腿まで下ろして陰部を晒しながら(シャペロンに見せながら)排尿することになるので、それも覚悟しておいた方がいい。
ただ、シャペロンは見慣れているし、ドーピング検査はそういった低俗な考え方とは正反対のものなので、気にする必要はない。

もちろん私は気になって仕方なかったが。

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