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翻訳こぼれ話③「替え玉ではじめる1玉め」!?


■何気なくも、言われてみれば盲点。あるいは「それな」。実務翻訳のちょっとした話題をご提供■

「マイアカウント」などのなかに支払い系のメニューがあるとする。たとえば、具体的な支払い手段。銀行口座にクレジットカード。有料サービスだとかの決済に使う。おなじみの、どこまでもありふれた景色だ。

追加ボタンでクレジットカード情報を入力と。うんうん、普通だ。原文は当然 add だろうか。翻訳者脳に汚染されていると、何の違和感もない。addに追加。桜にメジロ、青紅葉に陽だまり、くらいの違和感のなさだ。しかし果たしてそうだろうか。

外資系と日系の間に横たわる、超えられない溝

こう思ったりすることもあると思う。「追加」の定義は「2つめ以降」ではなかったかと。一発目に「追加」? 替え玉制度のラーメン屋の1玉めを「追加する」とは呼ばない。確かにブランクの状態にaddなら英語では違和感はない。こういう場合、日本企業の広告やウェブサイトを見ると、使われている単語は「登録」「新規登録」であることが多い。「しましょう」のように外資の翻訳日本語から逆輸入され、「追加」が使われることも目にするけれど。

何事も紋切り型にいかないいし、もちろん「追加」で無難な場合もあるけれど、違和感を感じたら「自然な日本語とは何か」を問い、訳文に反映させる。

「あたかも日本語で書き起こされたように」という理念を実現するには、原文に沿うだけでは超えられない壁がある。まさしくこのaddのように、英語で使われやすい単語と日本語のそれとに乖離がある場合があるからだ。なにしろ原文はaddだから、フツーにやっときゃ誰も疑義を唱えず、流れ流れてパブリッシュまでいく。

英語力を離れたところにも翻訳力を上げるヒントはたくさんあると、そう思うことが多い。


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