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【中医基礎理論 第7講】 中医学の特徴:整体観念④ - 寒くなるとオシッコが近くなる理由 -

前回の記事で、整体観念は診断や治療だけではなく、未病治にも必要不可欠な考えだということを学びました。

これまでは、「一個人」における整体性を中心にみてきましたが、今回は「人と自然、人と環境」の整体性をみていきましょう。

人と自然は密接な関係をとる

人は自然の一部です。

そのため、人は自然の影響を大きく受けています。

患者を診る時は、身体だけではなく、季節や時間、周辺環境も合わせて診ていく必用があります。

今回は、人と自然との整体観念を「自然界との関係」と、「社会環境との関係」に分けてみていきましょう。

自然環境との整体性

季節との整体性

冬になって寒くなるとオシッコが近くなりますよね(夜間頻尿)。

特に高齢者では夜間頻尿が現れやすく、それが原因で睡眠障害に繋がってしまうこともあります。

寒くなるとオシッコが近くなる理由は中医学的にみてみましょう。

オシッコを作るのは腎です。

作るだけではなく、蓄尿や排尿のコントロールもしています。

身体で使われた水は腎に集まります。

その中で、まだ使える水は再利用しますが、もう使えない水(廃水)は膀胱へ送られます。

この時、腎の陽気(腎陽)の働きで、透明な廃水は黄色い尿に変化します。

そして、膀胱に尿が溜められ、一定量溜まったら排尿されます。

使える水と廃水に分けるのも、黄色い尿に変えるのも、膀胱に溜めるのも、どちらも腎の陽気の働きが行っています。

使える水と廃水に分けたり、黄色い尿に変える気の働きを「気化作用」、膀胱に溜める気の働きを「固摂作用」といいます。

陽気とは温かい性質を持っています。冬になって寒くなると、寒さによって温かい陽気が減ってしまいます。

腎の陽気が寒さで減ってしまうとどうなるでしょうか?

使える水も再利用されず膀胱に送られます。

黄色い尿に変えられず透明な液体のままです。

膀胱は溜めておくことができず、すぐに排尿してしまい「頻尿」となってしまいます。

この様に、自然環境が人に影響を及ぼすのは、人と自然は密接に関係しているからなんです。

もし機会があれば、寒くてオシッコが近い時のオシッコの色と量を観察してみてください。

透明なオシッコがたくさんでているはずですよ。

ちなみに、寒さで腎の陽気が減って頻尿になった場合どうするか?

温めればいいんです。

シンプルですよね?

中医学って原因が分かれば治療法がおのずと決まります。

これを「弁証論治」といいます。

詳しくは次回ご説明します。

寒さは腎の陽気を傷つけます


時間との整体性(昼夜)

一日の時間、つまり昼夜も人に影響を及ぼします。

睡眠を例にみていきましょう。

昼間は太陽が活発で、自然界も活動しています。

自然界が活発な「陽気」という気にあふれている状態です。

人にも陽気があります。

陽気は活発な気で、昼間は表に出てきて体表を巡っています。

活発な陽気が表に出ているので、人は覚醒し活動することができます。

夜になると、太陽は沈み自然界はお落ち着いた「陰気」に置き変わっていきます。

人も夜になると陽気は身体の中(裏)に入り、陰気が体表を覆います。

陽気が身体の中に入り、陰気が表に出ることで、覚醒状態が低下し眠りにつくことができます。

つまり、昼と夜で陽気と陰気の場所が正常に入れ替わることで、覚醒と睡眠がリズムよく行われるのです。

昼と夜という時間と人が密接に関係していることが分かりますね。

寝る前にスマホやパソコンを使うと、陽気が体表に留まりやすくなります(西洋医学でいう交感神経優位ってところでしょうか)。

その結果、「夜なのに眠くない」という睡眠障害に陥る危険性が生じます。

寝る前はスマホや運動など、陽気が高まるような事は控えましょう。

夜、特に寝る前の運動もダメ


余談

「時」を表すには昼夜だけでなく「年・月・日」もありますよね?

《黄帝内経・霊枢・歳露論》には”人は天地と相参じていて、日月とも相応している”とあります。

簡単にいえば、「人は時間の影響を受けている」ということです。

1年には四季があり、月には満ち欠けが、日には昼夜があります。
こらは全て「陰陽」の変化によって起こります。

春や夏、満月に向かう期間、昼は陽気が多い時。
秋や冬、新月に向かう期間、夜は陰気が多い時。

生命は陰陽バランスによって成り立っているので、人の陰陽は時の陰陽の影響を大きく受けるのです。

「陽気(抵抗力)が盛んな日中は症状が和らぎ、陽気が減る夜は悪化しやすい。」

「満月には身体のエネルギーが充実するので補法はしない。新月は減少するので瀉法はしない。」
※補法はエネルギーを補う方法、瀉法はエネルギー(多くは悪い気)を取り去る方法です。悪い気を取り去る時は、身体に大きな負荷がかかるため、エネルギーが減少する新月の時には行わない方がよいのです。

このように臨床でも応用されています。

ちなみに、灸には「時間鍼灸学」といって、「何時何分にどのツボを使うのが一番いいか」を分析して治療する学問もあります。

興味のある方は「子午流注鍼法」「霊亀八法」を調べてみてください。
※だいぶ先になりますが、中医科目の記事を書き終えた後でご紹介したいと思っています。

時の流れに身をまかせ〜♪


地理環境との整体性

地理的環境も人に影響を及ぼします。

日本は「多湿」の国なので、身体に「湿」が溜まっている人が多いです。

この「湿」が厄介者で、むくみをはじめ様々な不調を引き起こします。

中国で効いた治療が日本では効かないことがあります。

一つの原因としてこの「湿」の影響があります。

中医学では湿は気血の流れを阻害する働きがあります。

気血が流れなければ治療効果は得られません。

そのため、湿を取り除いてからメインの治療をすることがとても重要となります。

治療効果も驚くほど変わりますよ!

湿度が高い地域、暑い地域、寒い地域、乾燥している地域、それぞれが患者さんに与える影響を考慮し、診断・治療を行えば、治療効果を飛躍的に高めることができるのです。

所変われば治療も変わる


社会環境の整体性

社会環境も人に影響を与えます。

心身の機能や体質は、個人が置かれた社会環境や社会的背景によって異なります。

良好な社会環境や調和の取れた人間関係は、人々を精神的に活気づけ、心身の健康に寄与します。

一方、不安定な社会環境や複雑な人間関係は、人々を精神的に抑圧し、緊張や不安を引き起こし、心身の健康を損なう危険性を生じます。

環境の変化も、心身の健康に影響を与えます。

突然の環境の変化が個人に与える影響について、《素問・疏五過論》では、社会的地位や経済状況の急激な変化が、痩せや精神不振を特徴とする「脱営」という疾患の発生につながることが指摘されています。
※脱営で痩せや精神不振がみられるのは、急激な精神ストレスにより五臓の働きが失調し、気血(身体を構成する基礎物質)が不足してしまうからです。

他にも、家族の死、家庭の問題、隣人間の対立、人間関係の緊張などは、特定の心身疾患を引き起こし、病状の悪化や死亡につながることがあります。

現在は社会の発展や生活水準の向上に伴い、人口増加、資源の減少、激しい競争などの問題が発生しています。

世界観、価値観、生活様式が変化し、精神的なストレスや抑うつが発生しやすくなっていますよね。

中医学の整体観念に従って、社会環境要因が健康に及ぼす影響を把握することは、あらゆる疾患の治療や予防においてますます重要となっています。

日本はストレス社会なので、ストレスが原因で体調を崩す患者さんがとても多いです。

もしかしたら、この記事を読んでいるあなたも経験があるのではないでしょうか?

その場合は、身体だけを診るのではなく、ストレスの原因である社会環境に対しても何らかの対策を講じる必用が出てきます。

もちろん無責任に「仕事辞めてください」とは言えません。

まずは、寄り添ってください。

治療をして身体が回復するにつれて、ストレスを克服されたり、気力が湧いて転職を決められたりすることもあります。

社会環境の治療はできませんが、心と身体を治療することで、社会を生き抜く活力が湧くような効果がみられたら、とても素晴らしい事だと思います。

現代病の多くは社会環境と人の整体性によって起こる


最後に

4回に分けて整体観念を学びました。

中医学は生命、健康、疾病などの重要な医学的問題に対し、人と自然、人と社会、精神と形体、および形体内部の整体性の観点から説明しています。

臨床において医療者は「上知天文、下知地理、中知人事(上は天文を知り、下は地理を知 り、中は人事を知らねばならない)」《素問・著至教論》が求められます。

まさに整体観念を理解することの重要性を示していますね。

  1. 人は自然環境なくしては生きていけません。自然と協調することで初めて生きることができます。

  2. 人一人も、あらゆる組織器官が協調して初めて生きることができます。

何者も、決して個では生きていけません

繋がることで初めて生きていけるのです。

この繋がりを「整体観念」と言います。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このブログでは東洋医学の中の「中医学」を学べる記事を書いていきます。

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