【中医基礎理論 第26講】 - 陰陽学説 病に与えた影響 - 陰陽バランスで考えるとシンプルで分かりやすい
前回は、陰陽学説が解剖学や生理学に与えた影響を学んだ。
今回は「病」についてみていきたいと思う。
陰陽のバランスが取れている状態が「健康」であるなら、「病気」とは陰陽のバランスが崩れた状態である。
では、陰陽のバランスが崩れる要因はなんだろうか?
その原因もまた、陰陽で考えることができるのだ。
今回は陰陽学説が「病」に与えた影響をみていこう。
病も陰陽のバランスで考えるとシンプルで分かりやすい!
健康であるとは、「陰陽平衡である」ことだ。
この平衡状態を乱す悪いやつがいる。
「邪気」だ。
我々もやられてはいられない。我々は邪気と戦う気を持っている。
それが「正気」だ。
正気は「免疫力」や「適応力」をイメージすると理解しやすい。
病になるかどうか、そして病が治るかどうかも「正気 vs 邪気」の結果で決まる。
邪気の陰陽
陰陽平衡を乱してくる邪気も、陰陽に分類することができる。
代表的な邪気に「六淫(りくいん)」がある。
風邪・暑邪・湿邪・燥邪・寒邪・火邪の合計六種類の邪気の総称だ。
例えば、暑邪は熱の性質を持ち、熱中症の原因となる邪気だ。
この、六淫を陰陽に分けると「風邪・燥邪・暑邪・火邪」は熱・動・火の性質を持つため「陽」に、「湿邪と寒邪」は寒冷・静・水の性質を持つので「陰」に区別することができる。
邪気を陰陽に分けるメリットは、病気のメカニズムや診断・治療が理解しやすくなることだ。
足し算と引き算ができれば病気が理解ができる
足し算と引き算ができるなら、病気のメカニズムや診断・治療は簡単に理解することができる。
まず、人体の正常な陰と陽の量をそれぞれ「5」とする。
陰も「5」、陽も「5」だ。
この状態を「健康」とする(バランスがとれている状態)。
陰の足し算による病気
もし、急に六淫の寒邪に襲われたと仮定しよう(冬に薄着で外出した等)。
寒邪は陰の邪気だ。
陰の邪気に襲われたことで、人体の陰に邪気の陰が加わる。
この時の陰の邪気の量を「2」とすれば、自分の「5」と合わさり陰の量が「7」に増加する。
この状態を「陰盛則寒:陰が盛んなら則ち寒い」という。
この状態の代表例は「風邪の引き始め」である。
ついでに八綱弁証
陰盛則寒を八綱弁証(診断)してみよう。
正常より量が増えた状態を「実」という。
陰盛則寒の場合、「陰」が正常より増えて「実」になっているので「陰実証」となる。
寒邪による陰実証は「寒冷」が主なので、一般的には「実寒証」という。
これで弁証の完成である。
風邪の引き始めの場合は、「寒さにあたって陰が増えてしまったから、実寒証の症状が出てるんだな」と病気のメカニズムを分析することができるのである。
*実際は問診や触診(切診)などの四診を使い、きちんと情報を集めて「実寒証」と判断するが、それは中医診断学で詳しく紹介する。
弁証をしたら次は論治
では、論治(治療方針)はどうするか。
陰の正常は「5」だけど、「7」になってしまったということは?
そう、陰を「2」引いて「5」に戻せばいいのだ。
風邪の引き始めであれば、中薬なら葛根湯や麻黄湯、鍼灸なら大椎穴や合谷穴、風池穴を使って陰を引く治療を行う。
簡単な引き算である。
*中医学では、増えた陰を取り除くことを「散寒」という。
全体の流れをまとめると、「急激に寒さにあたって陰が増えてしまったから、寒気や鼻水など、寒冷の症状が出ている。風邪の引き始めだろう。だから、陰を取り除く治療をしよう。」となる。
これで、弁証論治の完成である。
陰陽を応用するだけで、とてもシンプルに病気を理解することができる。
便利だなぁ。。。
一方、陽が増える「実熱証」も考え方は同じだ。
陽の引き算による病気
次は引き算による病気をみてみよう。
正常な陰と陽のパワーはそれぞれ「5」である。
もし、夏場にクーラーが効いた職場で仕事をしていた場合、日々冷気にあたることで、「陽」がどんどん減少していく。
その結果、陽の量が「3」に減ったとしよう。
この状態を「陽虚則内寒:陽が虚せば則ち内に寒が生じる」という。
この状態の代表例は「冷え性」だ。
ついでに八綱弁証
陽虚則内寒を八綱弁証(診断)してみよう。
正常より量が減った状態を「虚」という。
陽虚則内寒の場合、「陽」が正常より減って「虚」になっているので「陽虚証」となる。
これで弁証の完成である。
冷え性の場合、「長期間、寒さにあたって陽が減ってしまったから、温める力が減って冷え症になったんだな」と病気のメカニズムを分析することができるのである。
弁証したら次は論治
では、論治(治療方針)はどうするか。
陽の正常は「5」だけど、「3」に減ってしまったということは?
そう、陽を「2」足して「5」に戻せばいいのだ。
冷え性であれば、中薬なら八味丸や鹿茸大補湯、鍼灸なら腎兪穴や関元穴にお灸をして陽を足す治療を行う。
簡単な足し算である。
*中医学では減った陽を足すことを「補陽」という。
全体をまとめると、「長期間、寒さにあたって陽が減ってしまったから、冷え症になった。だから、陽を足して温める力を強くする治療をしよう。」となる。
これで、弁証論治の完成である。
陰陽って、本当に便利だ。
陰が減る「陰虚証」も、考え方は同じである。
まとめ
足し算引き算ができれば、陰陽による病気のメカニズムや診断・治療が理解できるということを実感できただろうか?
今回は陰陽学説が「病」に与えた影響を学んだ。
ポイントは3つ。
病気の原因となる邪気も、陰陽に分類することができる。
邪気を陰陽に分けると病気のメカニズムや診断・治療が理解しやすくなる。
陰陽の「過多」には引き算の治療、「不足」には足し算の治療を行う。
次回は4つある「陰陽の病気のパータン」を学んでいく。
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