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【中医基礎理論 第29講】 - 陰陽学説 完 - 「未病治」は養生の積み重ね!
前回は、陰陽学説が「診断と治療」に与えた影響を学んだ。
ポイントは3つ。
診断する時は先ず陰陽を区別する。
陰陽の病気は4つに分類することができる。
陰の不足は「寒証」+「津液不足」、陽の不足は「寒証」+「気虚証」。
陰陽を応用することで、あらゆる病気を陰陽で区別し、弁証することができるようになった。
そして、弁証により「どの様に陰陽平衡が崩れているのか」が把握できれば、論治「どのように治療すれば良いのか」が分かる。
「陰(陽)が増えたら陰(陽)を瀉し、陰(陽)が減ったら陰(陽)を補う。」という、とてもシンプルな原則で治療が可能になった。
病気にならないにこしたことはない
陰陽は診断や治療に応用するととても便利だが、病気にならないに越したことはない。
病気にならないためには、予防が必要だ。
そして、予防には日々の養生が必要である。
今回は、予防と養生に陰陽がどの様に応用されているのかをみていこう。
陰陽学説も、いよいよ最後である。
未病治は養生の積み重ね
《黄帝内経》には、「上医は未病を治す」とある。
※治は管理するという意味。
日本でも広く知られる「未病治」のことだ。
中国では「治未病」といい、「疾病の発生や発展を防止するために適切な措置をとること」を意味する。
ちなみに、未病治は「病になる前に予防すること」だけではなく、「病の発展の予防」も含まれる。
未病治のためには「適切な措置をとること」とありますが、必要な措置とは何か?
それは「養生」である。
人は生まれた時、すでに腎精の量で寿命が決まっている。
しかし、この寿命を完全に全うできる人はほとんどいない。
何故なら、病気や不摂生で腎精を減らしてしまい、寿命を短くしてしまう人がほとんどだからだ。
特に病気は腎精を消耗させる。
寿命を少しでも全うするためには、病気を予防することが必要だ。
病気を予防する、つまり未病を治すためには適切な処置 = 養生が必要となる。
養生を積み重ねて未病を治すことで、本来の寿命に近づけるのである。
そんな病気の予防や養生にも陰陽は影響を及ぼしている。
※養生や未病治に関しては、「養生や未病治」の記事で詳しく紹介する。
疾病の予防における陰陽の応用
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陰陽学説において健康な状態とは、陰陽バランスとれていること、つまり「陰陽平衡」な状態である。
陰陽平衡を維持することが、病気の予防や治療に繋がるのだ。
防治疾病の原則は「調理陰陽」
病気の予防と治療を「防治疾病(ぼうちしっぺい)」という。
そして、防治疾病の原則は「調理陰陽」である。
調理は「調和」という意味だ。
つまり、「陰陽を調和させることにより、陰陽平衡を維持すること」が病気の予防や治療の原則となる。
理想の陰陽バランス:陰平陽秘
陰陽平衡の状態の中でも、最も理想的な状態を「陰平陽秘」という。
陰平とは人体の陰(精や津液など)が多すぎず少なすぎずちょうど良い状態を指す。陽秘とは陽気が固守されている状態、つまり人体の陽気(衛気など)が外に拡散せず(外泄せず)体に留まっている状態を指す。
平は「おだやか」という意味であるので、陰平は凪の海の様に体内の陰がおだやかな状態をイメージだ。
一方、秘は「かくす」という意味なので、陽秘は、少し雲に隠された太陽をイメージだ。
太陽がギラギラしていると熱いので、少し雲に隠れたくらいが丁度いい。同じ様に、何かと亢進しやすい陽は、少し隠れたくらいがちょうどいいのである。
陰平陽秘とは、陰も陽も「ちょうどいい状態」を表していて、私達が目指す理想の健康状態なのだ。
養生における陰陽の応用
理想の健康状態がわかった。
その状態にするために必要なのが養生だ。養生を積み重ねて調理陰陽し、「陰平陽秘」を維持することが重要なのである。
数ある養生の中でも、最も基本的な方法は「人体の陰陽と四季の陰陽変化を順応させること」だ。*養生で陰陽を整える方法は、「養生」の記事で詳しく紹介する。
《黄帝内経・素問・四気調神大論篇》には「春夏養陽・秋冬養陰」とある。
これは、春と夏は陽気を養い、秋と冬は陰気を養うという意味だ。
春夏は陽気を補充しよう
春夏は暖かい時期で、自然界は陽気に溢れている。この時期は、陽気を養うのに最適な時期である。
もし、この時期に陽気を養わなかったらどうなるか?
答えは、「秋冬に体調を崩しやすくなる」だ。
秋冬は寒い時期だ。春夏に陽気を養えず、身体を温める力が弱い状態で秋冬を迎えると、寒さの影響を受けやすく、陰陽バランスが乱れ体調を崩してしまうのだ。
特に陽虚体質の方(もともと寒がりの方)は、寒さの影響を受けやすいので、春夏にしっかり陽気を養うことが大切である。
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秋冬は陰気を補充しよう
秋と冬は寒く、自然界は陰気に溢れている。
この時期は、陰気を養うのに最適な時期である。
もし、この時期に陰気を養わなかったらどうなるか?
答えは、「春夏に体調を崩しやすくなる」だ。
秋冬は寒い時期だ。秋冬に陰気を養えず、身体を冷やす力が弱い状態で春夏を迎えると、暑さの影響を受けやすく、陰陽バランスが乱れ体調を崩してしまうのだ。
陰虚体質の方(元々暑がりの方)は、暑さの影響を受けやすいので、秋冬にしっかり陰気うことが大切である。
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このように、四季の陰陽の気を利用し、四季に順応して生活することが、最も基本的な養生なのである。
養生を積み重ね未病治を行い天寿を全うしよう。
まとめ
予防や養生にも陰陽が応用され、予防や養生がより具体的になり、理解、実践しやすくなった。
今回は陰陽学説が「予防と養生」に与えた影響を学んだ。
ポイントは3つ。
疾病の発生や発展を防止するために適切な措置をとることを「未病治」という。
未病を治すためには適切な処置、つまり「養生」が必要である。
陰陽平衡の状態の中でも、最も理想的な状態を「陰平陽秘」という。
陰陽は臨床においても最も重要な概念である。
患者を診る時は常に「陰陽バランスがどうなっているか?」を意識することが必要だ。
陰陽の状態を把握する力、そして鍼灸や漢方薬や推拿を用いて陰陽を整える力を身に着けておこう。
次回からは「五行学説」を学んでいく。
木・火・土・金・水の5つの物質とその性質が中医学に応用されたことにより、中医学がより具体的で幅広い理論となっていく。
国家試験でも臨床でも重要な学説なので、しっかり学んでいこう。
おまけ:薬物性能の陰陽属性
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鍼灸の内容を扱うブログなので、薬物については詳しく書いている記事はないが(いつか書こうと思っている)、薬物にも陰陽は応用されている。
薬物治療では、薬物が持つ性質の陰陽属性を利用して、陰陽の調節を行うのだ。
四気(四性)
「四気(四性)」とは、「寒・涼・熱・温」の4つの性質のことだ。
薬物の性質には、身体を温める「温熱性」と、身体を冷やす「寒涼性」がある。
陰陽で区別すると、温熱性は「陽」、寒涼性は「陰」である。
基本的には、寒さを特徴とする「寒証」には「温熱性の薬物」を、熱を特徴とする「熱証」には「寒涼性の薬物)を使用する。
《黄帝内経》には「以寒治熱、以熱治寒(寒を以って熱を治す、熱を以って寒を治す)」とあり、中医学の治療・用薬原則になっている。
五味
「五味」とは「酸・苦・甘・辛・鹹(かん)」の5つの味のことだ。
*鹹は「しおからい」という意味。
陰陽で区別すると、辛・甘は「陽」、酸・苦・鹹は「陰」である。
五味は、それぞれが持つ効能で使い分ける。
例えば、酸は「収斂(引き締める)」という効能があるので、汗や尿を抑え、気血津液が漏れないようする(固摂という)目的で使用する。*収斂も固摂も陰の働き。
昇降浮沈
昇降浮沈は、「薬物が作用する方向性のこと」である。
昇・浮:体の上方・外側に向かう作用があるので、病変部位が身体の上部や体表にあるときに用いる。
沈・降:体の下方・内側に向かう作用があるので、病変部位が身体の下部や体内にあるときに用いる。
陰陽で区別すると、昇・浮は「陽」、沈・降は「陰」である。
ちなみに、花びらや葉っぱなど、軽くて薄い生薬は、昇浮性を持つものが多く、反対に根・種・骨・鉱物など重たい生薬は沈降性を持つものが多い。
とてもイメージしやすい。
四気、五味、昇降浮沈もそれぞれ陰陽に区別することができる。
ということは、同じ属性同士は関係が深そうだと思わないだろうか?
その通りで、昇浮薬の多くは「温熱性」で「辛・甘」に属し、沈降薬の多くは「寒涼性」で「酸・苦・鹹」に属すのだ。
陰陽ってとっても便利である。
漢方薬や中薬は、薬物の陰陽性質を利用して、身体の陰陽バランスを整えている。
陰陽学説を通して、鍼灸であれ漢方薬であれ、中医学において「陰陽」がいかに大切な概念なのかがイメージできたのではないだろうか(できました?)。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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