【中医基礎理論 第6講】 中医学の特徴:整体観念③ - 未病治を目指すなら整体観念を学ぼう -
前回の記事で、
五大系統は心系統の主導の基にある:五臓一体観
心身は相関している:形神一体観
人体のすべての物質は共同である:精気神一体観
そして、なぜ心特別で五臓のリーダーなのかを学びました。
今回は、整体観念が診断・治療・予防・養生にどう関係しているかをみていきます。
最後まで読むと、「未病治には整体観念が必要不可欠!」ということが理解できます。
それでは始めていきましょう。
病機変化の整体性
「整体観念」があるから中医学では病気を診断し治療することができます。※「病機」とは「病気の機序」=メカニズムのこと
中医学では五臓が病むと病気になります。
ということは、診断するにも治療するにも、まず五臓の状態を知る必要がありますよね?
現代ではCTやMRIがありますが当時はありません。お腹を開いたりでもしない限り五臓は肉眼では見えません。見えたとしても、出血や癌でも無い限り、どこがどう病んでいるかは分からないですよね?
そこで、整体観念です。
整体観念は「繋がり」でしたよね?
身体のあらゆるところは繋がっています。
上と下、右と左、内と外。
つまり、内=五臓と外=体表は繋がってるので、五臓の状態は体表で知ることができるのです。
この、「内側の状態を外から知る」という概念は中医学の原理の一つです。
中医学用語では司外揣内(しがいしない)、または以表知裏(いひょうちり)といいます。
*司外揣内:司は「観察する、うかがう」という意味で、揣は「おしはかる」という意味があります。つまり、司外揣内は「外を観察し、内をおしはかる」という意味です。以表知裏は「表をもって裏を知る」という意味です。どちらも同じ意味を持っています。
実際の例でみてみましょう。
例えば、耳が遠くなったとします。
中医学では耳に栄養を送り、正常に機能させるのは腎の役割です。
この場合、「耳に問題が起きているということは、腎に何か問題があるのかもしれない」と考えます。
つまり、「内=腎と外=耳は繋がっている」という整体観念ですね。
腎に問題があれば、「腎が司る足の少陰腎経の経穴を使って治療しよう」と治療法が決まります。
腎の問題による耳の不調に対し、腎経の経穴を使って治療するのは、腎経と腎と耳は繋がりを持っている=整体観念があるからです。
腎の問題は耳に出ると言いましたが、腎経とも繋がっているのであれば、腎経にも何か変化がみられそうですよね?
その通りです!
腎に問題があれば、腎と繋がっている腎経や、そこに属す経穴にも変化が現れます。
例えば、腎が弱っている時に腎経の経穴を触ると、ペコペコしていたり皮膚にハリがない感触がします。
これを利用して、経穴に触れて問題のある臓腑を診断する「経穴診」という方法があります。
経穴は診断と治療の両方に使うことができる、とても便利なツールなのです。
鍼灸師ってすごくないですか?
診断の整体性
先ほどと話が重複しますが、腎の不調が耳に現れるように、内臓の状態は体表から観察できる形で現れます。これも身体の内と外が繋がっているという整体観念を利用しています。
中医学ではこれを診断に用います。身体の内側の問題は体表のあらゆるところにサインがでます。それを私達は五感を総動員してサインを集め患者の状態を分析し診断します。
例えば、腎のエネルギーが弱ると顔色がくすみ、脈は弱くなり、舌の色も淡く、下腹部は力無く柔らかくなります。
私達は、視る(視診)、触る(切診)、聞く・嗅ぐ(聞診)、問う(問診)=四診という診察技術を用いて、こういった体表に出ているサインを集め、内臓の状態を分析し診断していきます。
中医診断で必須の技術である四診ができるのも、整体観念があるからです。
予防の整体性
整体観念は病気の予防にも関係します。
例えば、中医学ではストレスで肝が悪くなると、その影響によって脾の消化機能が低下し、消化不良や下痢を引き起こすことがあります。(なぜストレスで肝が悪くなるのかや、脾が消化機能を担っている話は、「五臓学説」で詳しくご紹介します。)
整体観念により、肝と脾の繋がっていることが分かっていれば(五行学説では、肝と脾は密接な繋がりがあると考えます。詳しくは「五行学説」でご紹介します。)、ストレスにより肝機能が低下した段階で、「あっ、このままだと脾に影響が及ぶ恐れがある。その前に脾を強めておこう!」と予防対策を講じることができます。
*整体観念では、内と外だけではなく内と内も繋がっています。つまり、五臓同士も繋がっているということです。
未病治
病気になる前に、まず五臓の機能が低下していきます。そして、そのサインは体表に現れます。いち早くサインに気付き、五臓の機能を改善させれば病気を予防することに繋がります。
この、病気になってしまう前に五臓の低下を治療をして、病を未然に防ぐことを「未病治」といいます。
意外と知られていませんが、仮に病気になってしまっても、病気の影響で他の臓腑が新たに病むのを未然に防ぐことも未病治に含まれます。
テレビの影響もあって多くの人が知るようになった未病治も、整体観念があってこそなんですね。
養生の整体性
病気にならないように日頃から養生に努める方も多いと思います。
中医学は心と身体は一体である=繋がっていると考えています。心身相関や形神一体観のことですね。
これも整体観念です。
心が弱ると身体も弱ります。
身体が弱ると心も弱ります。
心が健康だと、身体も健康になります。
身体が健康だと心も健康になります。
心と身体は良くも悪くも互いに影響を及ぼし合います。
養生を行うときは、心身ともにバランス良く行い病気を防ぎましょう。
まとめ
人体を構成するあらゆる物が繋がって一つの生命を維持しています。
身体に不調があれば、局所だけではなく、全体を診ることが重要です。
整体観念は診断・治療・予防・養生を考える上で必要不可欠です。
患者を治療する時はもちろんですが、患者だけではなく自分自身も含め、日々の生活の中でも整体観念を取り入れて、病気にならない生き方をしていきたいですね。
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