ユーザーが編み出す予期せぬ技術の使用方法: Technology Appropriation
突然ですが、先日テニスプレイヤーの大坂なおみ選手がこのようなツイートをして話題になっていましたよね。BLMに関しての自分の思いを長文で綴っています。
ですが、ツイッターってそもそも長文を投稿するSNSではなかったはずです。オリジナルの文字数制限は140文字で、改定された今でも制限は280文字です。にも関わらず、上記のようにメモ帳に長文を書き、スクリーンショットを貼ることによって長文を投稿するユーザーが後を絶ちません。Taylor Swiftも同じようにスクリーンショットを投稿していました。
最初にメモ帳スクリーンショットの方法を思いついた人は賢いと思いますが、おそらく作り手が予期していた使い方ではないです。(もちろんこういった使い方を否定しているわけでは一切ないです。) このようにユーザーが自分の需要に合わせて、作り手が予期していない使い方をすることをTechnology Appropriationと呼びます。最初にツイッターへの長文投稿を紹介しましたが、Technology Appropriationは想像以上に色んなところで起きています。今回はTechnology Appropriationについて少し考えてみたいと思います。
Technology Appropriationの定義
IGI Globalのサイトに3つの定義が載っていますが、2つ目をここでは紹介します。
The process of adopting and adapting technology by users or groups of users to integrate it into their lives, practices, and (work) routines.
(テクノロジーの使い方がユーザーの生活、規則、慣習によって転用されるプロセス)
ちょっと複雑に聞こえますが、要はユーザーが自分の需要に合わせて使い方を勝手に変えていくプロセスをTechnology Appropriationの定義としているみたいです。
もちろん作り手はユーザーが使用する際の文脈を考えて製品を作りますが、ユーザーの使用時の文脈によって新たな使い方が生まれます。
特に作り手が需要や文脈を理解しきれていないときに発生しやすいですが、ユーザーリサーチをちゃんと実行したとしてもイレギュラーなタイプのユーザーがTechnology Appropriationを起こすことは多くあります。なので悪いことではなく、新たな需要が生まれたときに作り手もそれに対応して製品を進化させていけば良いのだと思います。次の章でいくつか身近な例を紹介します。
身近にあるTechnology Appropriationの実例
ツイッターのスレッドで連続投稿
せっかくなのでもう一つツイッターからです。先ほどの例では長文投稿するためにスクリーンショットを取っていましたが、今度は自分の投稿に返信することで長い投稿をできるようにするものです。先日、安倍元首相が退任に関しての思いを以下のようにツイッターに上げていました。これらの長文投稿の方法はユーザーによって生み出され、今では作り手もスクリーンショットやスレッド連続投稿を円滑に行えるようにデザインしているのだと思います。
LINEの自分だけのグループ
本来LINEは知り合いと連絡を取るためのツールです。しかしLINE内で自分だけのグループを作り、その中に日常のメモを書いている人も多くいると思います。他のメモ帳アプリは「メモを取る」に特化しているのにも関わらずLINEにメモを残しているのは、LINEアプリを開く頻度が多いからだと思います。LINEはいつでも開くためメモを残しておけば自然を目に入るし、メモアプリよりもアクセスしやすいということです。僕はグループの最初に「0」を入れることでグループ一覧の一番上に自分だけのグループが来るようにしています。
裏の事情は知らないですが、僕のようにLINE上にメモを残す人が多かったことを受けて、以下のメモを記録するKeep Memo機能ができたのかもしれません。Technology Appropriationが新機能に繋がった例ですね。
顔文字
記号やカッコを駆使して顔を作る顔文字の技術もTechnogy Appropriationの一つと言えます。(絵文字が普及した今あまり使っている人はいないかもしれませんが...) 元々は()や*^などの記号は顔文字のために作られたものではありませんが、形を生かして顔文字という技術が生まれました。これもクリエイティブなTechnology Appropriationの例だと言えます。
(^_^) (*´ω`*) (*´▽`*) (≧▽≦) (๑˃́ꇴ˂̀๑)
(*_*) Σ(´∀`;)
┐(´~`;)┌ ʅ(´◔౪◔)ʃ
( ˘ω˘)スヤァ (¦3[▓▓]
DJのレコードのスクラッチ音
またPublic Sphere Projectの記事ではDJがレコードを擦ることで人工的に鳴らす音(スクラッチ)がTechnology Appropriationの例として紹介されていました。確かにレコードはそもそもスクラッチするものではないですもんね。この例のようにTechnology Appropriationが新たな芸術や文化を作ることがあるというのも面白いですね。
ここまで「こういう使い方も便利だ」や「こんなこともできる」といった点から派生したTechnology Appropriationを紹介してきました。自分の生活を見つめ直すともっと多くの例が見つかると思います!
心理的な側面から見るTechnology Appropriation
この章では感情や心理に関わる例を少し紹介します。テクノロジーが感情に影響を与えるように、感情もテクノロジーに影響を与えるという例です。
LINEの一言 (個人情報を配慮し僕のアカウントで再現しました笑)
たまにLINEの一言コメント機能に特定の人物に向けてのメッセージを書いている人がいますよね。機能の元々の意図はおそらく「友達全員に対して近況を伝える」だったと思います。しかしユーザーが本人に直接言うのは恥ずかしい時などに、意味深なメッセージとして一言コメントに書いたりしているみたいです。高校生の恋愛のテクニックの一つだったりするのかもしれません笑 ツイッターの空リプも似たTechnology Appropriationだと思います。
Facebookの亡くなった人のアカウント
Facebookには亡くなった方のアカウントを保存する機能(memorialized account)があります。正直記憶が定かではありませんが、この機能もTechnology Appropriationから生まれたはずです。
この機能ができる前、亡くなった方のページが誕生日などの日に友人がコメントを残したりと故人を思い出す場所として利用されていることがあったそうです。それを受けてFacebookがmemorialized accountという機能を作ったようです。
このように人々の心理的な欲求が新たなテクノロジーの使用法を生み出すことも多々あるようです。心とテクノロジーの関係というのは現代の大きなテーマなのでこういった例を探してみるのも面白いですよね。
末筆
今回は、ユーザーが自分たちの文脈に合わせてテクノロジーの新たな使用方法を編み出す現象「Technology Appropriation」についてまとめてみました。「便利だから」や「面白いから」だけでなく、心理的な理由でTechnology Appropriationが生まれることも多く、UXリサーチに関わる人にとってはすごく面白いトピックだと思います。
デザイナーとしては、自分のデザインした製品でTechnology Appropriationが生まれた時には、ユーザーの真のニーズを調査して新たな機能を加えたりすることができるといいかなと思っています。
個人的にはまだ経験したことがありませんが、Technology AppropriationがUXデザインに取り込まれていく過程をぜひ経験してみたいです。
他にも例が思いついた方がいましたらぜひ教えてください😀
参考文献
「アメリカでUXデザイナーとして働く」という本を書きたいのでぜひサポートお願いします!