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「幻の津軽そば」 かね久山田
津軽そばの旨さを味わうために、
いつも「かけもりセット」を注文する。
道内の幌加内で採れたソバを手打ちする。
水でふやかした大豆をすり鉢で50分ほど摺りおろした
呉汁(ごじる)をつなぎにつかう。
これが津軽そばの特徴。
コシがあり大豆の甘みがほのかにする。
ウルメイワシの丸干しでとったダシは、
くせがないが深みがあり甘みと香りがたって
そばとの相性が良い。
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津軽そばを全国に伝え歩いた職人が、
大正のころ、東京以北で最大の都市で賑わっていた
函館の末広町に落ちつきそば屋を開業した。
その味に惚れこんで今の店主・中村さんの祖父が、
職人に教えを乞い雑貨店の片隅で振る舞ったのが
「かね久山田」の始まり。
1918(大正7)年であった。
それから、そばの打ち方を頑固に守り伝えて
100年あまりの月日が流れた。
函館山のふもと、銀座通りの現在地に
そば専門店をかまえてから90年。
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祖父、祖母、母、そして四代目・中村るみ子さん。
そば打ち50年あまりとなる。
病のためいったん閉めたが、
常連の強い声もありふたたび店をあけた。
仕込みを半分ほどにおさえ、週末3日間のみ営業している。
以前にもまして、そばを打つ喜びが大きくなった、という。
そばを打ち終わった四代目が笑いながら
「私が子供のころ、常連だった西野さんのお父さまに、
お小遣いをもらったのよ」、と。
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そば打ちに手がかかる津軽そばの専門店は、
発祥の地・津軽から姿を消して久しい。
弘前で復活の動きもあるようだが、
未だ「幻の津軽そば」といわれている。
わざわざ津軽から海を渡ってくるそば好きもいる。