【脳を彫塑するデザイン】創造的幸福脳(Happier Brain)をつくるために①
2022年も約一ヶ月が経とうとしていますが、弊社のデザイン思考ワークショップもお陰様で今年は年始からスタートダッシュ!企業1社、大学2校と既に3週連続実施、来月も4回ほど予定しています。特に今期は大学と連携した教育活動にも力を入れて行こうと考えていますが、特にデザイン思考教育では教員の皆様からも逐次、相談ごとや質問を頂くことが多く、今日は私自身がデザイン思考の教育を実践する中で心掛けていることについて書いてみたいと思います。
教えることに伴う責任を認識する
そもそも人に何かを教えるということには大きな責任が伴います。教えたことが間違っていたり、役に立たなかったりすれば、教えた相手の時間を無駄にしてしまうばかりか、その人の将来に損害を与えてしまうかもしれません。最近よく耳にする「日本では皆長時間、英語教育を受けているのに何故英語力が身に付かないか?」という課題に対し、良く言われるのが「日常的に英語を話さない教員から学ぶのが殆どである教育環境の課題」で、私も基本的にはそれも大きな一因だろうと思います。
教わる環境の問題でそれが身に付かない、もっと酷い場合は特定の科目や分野を嫌いになってしまったりする。これはとても不幸なことです。一方でそれを恐れるが余り、教えることを避けるというのも間違っている。自分の経験を元に、人に伝えて役立てる技術やノウハウがあるなら、もっと気軽に、どんどん伝えていくべきと思います。伴う責任の重さを常に感じながらも軽やかに適切に教える。今の時代であれば、それが教師と生徒のような上下の関係でなくもっとフラットに、相互に行われるのが理想的とも思います。
「魅力」を伝え「効果」を発揮して初めて教えたことになる
では適切に教えるとは何か。私は「知識」を「知識」として伝えるだけでは教えたことにならないと思っています。例えば数学の数式の解き方でも、単純に方法論を示すのと、自分がその式を初めて解けた時の感動を添えて伝えるのとでは浸透力も説得力も格段に変わってきます。増してや英語のように「使えるようになって初めて価値を成す」ような“技術”は、自分の経験と共に「魅力」を伝え「効果」が発揮されるよう伝えなくては意味がありません。ですので私がデザイン思考を伝える際には必ずその点を最大に留意して、伴う大きな責任を全うするよう心掛けています。
私のワークショッププログラムにビジネスモデルキャンバス(BMC)の使い方を解説するプログラムがあります。このBMCについては既に多くの書籍も存在し、多くの企業で使われたりもしていますが良く聞かれるのが「キャンバスを完成させて終わってしまう」という問題。BMCは事業戦略ツールですから、実事業に反映されなければ意味がない。私のワークショップでは弊社の経営事情をキャンバス上に生々しくプロットしながらBMC上の各要素の相関関係をどう整理したら、どういう課題が解決できたか?を赤裸々に説明していきます。実話に基づくスリリングなドキュメンタリーとして伝えていくことで興味が尽きず、体験的に理解できるよう工夫しています。
スタンスと視点の海抜を常に最適化する
今まで大学でのワークショップでは教員の方にもチームに入って頂いてディスカッションに参加して頂くやり方を採用してきました。そうして階層の隔たりを無くした新鮮な議論の場はいつも概ね良好に機能しますが、時々発生する課題として、教員の方が時に職責を全うせんとする余りどうしても「上から目線」になり、自ら”答えを示そう”としてしまうという現象があります。デザイン思考のディスカッションは答えの無い白紙のキャンバス上で衆知を集めながら答えを見出していく作業ですから、常に議論のレベルに発言のスタンスや視点を合わせておく必要があります。
ディスカッションのスタート時点ではこの衆知の海抜はとても低い。この時点では自らこの高さに自分のスタンスを合わせながら、議論の進展と深化と共に少しずつ上昇する海抜に適切に自分の位置を調整していく。また教育者というよりもファシリテータとして視野の拡大と集約を心掛けることも重要です。全体がミクロにフォーカスし過ぎていればマクロに、十分に俯瞰がされたら集約に向けて、議論に少しだけ方向付けをしてやれれば、答えの無いキャンバスの上に、少ずつ、魔法のように答えが像を結んでいく様子を全員が目撃することになるでしょう。
創造的幸福脳(Happier Brain)を彫塑(Sculpt)する
年々、少しずつ増加し、最近では年に20回以上実施しているこうしたデザイン思考のワークショップですが、やればやるほど私自身も楽しくなってくる。それは自分のやっていることが彫刻や彫塑のようだと、つまり人の思考の型を造形するBrain Sculptor だと感じるから。毎回アンケートを取っていますが「WSの前後ではモノの見え方が変わった」と言ってくださる参加者が多くいます。それは言わば「見えなかったモノが見えるように、目が良くなった」と言えなくもありません。
拡大解釈や逆説思考、アナロガスインスピレーションの生成、ロジックとユーモアの相乗効果など私の経験に基づく独自の方法論を用いて、普通は人があまりやらない思考の仕方を参加者の脳に「クセ付け」をしながら脳内で生成される思考パターンを変形させること。PTSDやトラウマが起こるように脳は傷つき易い。ということは逆により良く変化する柔軟な可塑性もあるはず。そしてデザイン思考を癖にすることは幸福に直結するとも確信します。ですから今後も、私は可能な限り持ち前の予見性と楽観志向、そしてユーモアを用いて少しでも多くの創造的な幸福脳を造形していきたいと思っています。