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オレンジブラウンリップ⑤
外は賑やかだった。
「アゲハチョウのやつだよ!」
「セフレ!」
「やけつく!」
夜は深まり、会話の断片と大きな笑い声が飛び交っていた。無遠慮な雑音、眩いだけで品のないライトと冷たい夜風は、先ほどから二人の間を漂う甘美なそれを剥ぎ取るには充分だった。
「もう少し飲もうよ。」
沙梨の口から淡と語られたその言葉は、それ以外の選択は許さないという重みを孕んでおり、従わなければ、一緒にいることは
オレンジブラウンリップス④
とんとんと会話は続いていた。
二人が窓際のテーブルへ移動する頃には、とっくに終電は終わっていた。けれど、その事実を互いに提示することはなかった。
きっかけ作りのようにも捉えられる発言が、今の二人にとって無粋であることを承知していたからだ。先ほどまで賑わっていた店内が、二人を置き去りにしていった。
「そうだ。大事なこと聞いてなかった。名前。私、中村沙梨って言います。」
外のネオンに沙梨の右頬
オレンジブラウンリップス③
「Rendezvous」はビルの五階に位置し、店内の半分が大きな窓で囲われている。外から蛍光とネオンを取り込み、薄暗さの中に彩りが与えられていた。
佑月と沙梨は、観る映画、聴く音楽、読む本、その他感性にまつわる嗜好がよく似ていた。側からみれば、やたらと弾む会話は不自然に思えるほどだった。
「最近、触れたもので一番はなに?」
実際には殆ど変わりないはずの目が、何だか大きく感じられた。沙梨は子供の
オレンジブラウンリップス②
「どうも。今日はお二人ですか?」
佑月は少し気取って、沙梨に声をかけた。沙梨の隣には、ピンクのドットがあちこちに入ったスーツを着た男が立っていた。
「この人とは今日知り合ったの。」
沙梨はそう言うと小さなグラスを傾けた。
男は佑月に左手を差し出してきた。
三人でしばらく飲むうちに、男にはファッションだけでなく、社交におけるセンスもないことに佑月は気づいた。相手の話や顔色なんかはお構いなしに、男
オレンジブラウンリップス①
一夜。
二人の視線は思い掛けず、結ばれた。
沙梨の刈り上った襟足は、まっさらな項を丸裸にし、薄手の黒いワンピースは全身をなぞって身体を強調しており、スリットからは真っ白な脚が覗けた。
横顔は、これでもかと言うほど凹凸がはっきりしているが、正面から見れば、小さな鼻と大きな黒目は可愛らしさをはらんでいた。
控えめなファンデーションの中に、オレンジブラウンのリップがうまく溶け込んでいた。
その姿に