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もしや毒は自分のほうか

 幼少期からの親との想い出辿って整理した結果、ああ、毒親というやつなのかと確信したのが30歳の頃。それからしばらく絶縁して40歳の時祖母が逝ったタイミングで連絡取るようになった。

 帰郷移住してから4ヶ月半、壮絶なバトルや親の入院退院、また壮絶なバトル。精根尽きた自分がここ2週間逃げ込んでいたのは3食の健康食献立作りと調理だった。

 ということで、その逃げ込んだ世界から、ちらりほらりと見えてくるのは、自分の帰郷の本来の目的である。足腰立たなくなった親を、診るためじゃなかったのか。

 帰郷直後からバトってしまったもんだから、相手から身を守るために、大上段から振りかぶってねじ伏せることがいつか目的に変わっていた。イイ歳して情け無いが、無意識にそうなってしまう程度には相手を手ごわいと感じていた。

 目の前にいるのは、足腰たたない老女じゃないか、と、あれ?オレはとんでもない鬼畜なのではないかと我に帰ることが何度となくあったこの2週間。

 なんか、ちっさい年寄りがオレの作ったごはんを食べている。食べ物に文句は言わずにいただきますとご馳走様を言う。気に入ったものは夢中になって平らげる。食後はヨーグルトかカフェオレどちらにするか聞くと大人しくどちらかを選ぶ。
食後はしばらくテレビを観て床に入る。
 しっかり栄養とってぐっすりと眠れればいいな、明日また目を覚ませよ、とわりと素直に思える瞬間ではある。

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 彼女は基本的にひょうきんで面白いことが好きだ。でも、わけわかんないタイミングで急に怒り出す。何に怒っているかわからないが。

 先月までは、その変な不機嫌スイッチに過剰反応して、その度に心から疎ましく思ってたのだが、三食メシの世話をするようになって、頭の中のメモリの大部分がそっちに支配されているせいか、笑って受け流すようになった。

 考えてみれば、彼女は自由を奪われるとか他人に入り込まれるとか、そういうことに並の人の数倍激しく抵抗を示すわけで、特に日常的に僕に刃を向けていたわけではなかった気もする。

 僕は彼女に、(病院や介護系公的機関について)聞き分けのいい老人であることを期待しすぎていたのだ。それも性急に。

 まあ、自分もベストを尽くそうとしていたのだが、あまりに理詰めで即応を要求してた感もあり、高齢の彼女はここ数ヶ月環境の大きな変化と情報量に頭がパンクしかけていたのかもしれない。むしろ毒なのは自分の方か??

 ともあれ、僕は支配するために帰ってきたのではなく、少なくとも守るために帰ってきたはずだ。どうも途中から、昔からちらほらと抱いてた憎悪の部分が熱を持ち、大きくそれが立ちはだかって、目的を見失っていたのだと思う。

 それどころか、あんたのせいで職を失い自由を奪われた、という、至極恰好の悪いセリフが頭をグルグルしていた。オレは至極恰好が悪い。そんなの予見して覚悟していなかったのかいい歳して。

 と、ひとしきり省みて、もう少しソフトに接しようとさっき話しかけたら、これがまあ何とも小憎たらしいことを言われて憤慨しているところです笑。



 以上、良くも悪くもこれからこの人とやっていかなきゃいけないんだ。ちゃんとサポートしてやろう、という気持ちと、クソむかつくどうにかなっちまえという気持ちと、めっちゃ交互にやってくるんだ。冷水と温水交互に浴びせられて鍛えられていくのとか、玉袋じゃねえんだぞオレは、という気持ちになってます。


〈FINE〉

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