(小説)笈の花かご #6
1章 長崎への旅⑵
飛行機までは、バスによる移動で、杖をついて歩くことは避けられた。
しかし、イチョウは、バスの乗り降りに難儀した。
乗る時はスイデンがイチョウの腰を押した。
バスから降りる時は、スイデンが先に降りて待ち受けた。
これがつらい旅の始まりとなった。
小松空港の出発からしてモタモタであった。
福岡国際空港に到着してからのイチョウは、さらに難渋した。
スイデンがイチョウの旅行鞄を引き受けてガラガラと引っ張った。
イチョウとスイデンは、やっとの思いで見学を予約しているケアホームに
到着した。
ホームは、長崎市の西の外れの丘陵に、ひっそりと建っていた。
入り口に、イチョウの妹、弟の2人が待っていた。
面談で、ケアホームの入居者希望者は、現在10人待ちと告げられた。
職員は気の毒そうな表情で、
「申込みの書類はお預かりします。まずは、脚のお手当をされたらどうですか」と、ヤンワリと断りを入れて来た。
(アア、駄目か。疲れた……)
イチョウには長崎の地で他の施設を探す気力も体力もなかった。
ケアホームからは、弟の車で、実家に移動した。
久し振りに、イチョウは、仏壇に線香をあげた。
スイデンもリンを鳴らして手を合わせた。
程なく、娘一家も東京から到着した。
隣接する弟の2男一家が、
「こんにちは!」と揃って玄関から入って来た。小さい子達が3人いる。
座敷は、ヒト、ヒト、ヒト、で溢れかえった。
弟夫婦は歓迎の宴を用意していた。
居間と続きの和室の仕切りが取り外されて、卓が2つ並ベられている。
タイミングよく出前の声、
「毎度、ありがとうございます」
皿うどん2皿が、配達された。
卓の上には既に、刺し身、茶碗蒸し、野菜サラダなどのっている。
その真ん中に、皿うどんの大皿がデンと置かれた。
スイデンが、「ホホー!」と、喜びの声を上げた。
イチョウは、端っこのソファに身を沈めた。
懐かしい長崎の話はまだまだ続きます
→(小説)笈の花かご #7
1章 長崎への旅⑶ へ続く
(小説)笈の花かご #6 1章 長崎への旅⑵
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2023年10月21日#1 連載開始
著:田嶋 静 Tajima Shizuka
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