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基礎編26.2* 【研究】委員をくじで選ぶときAさんが選ばれる確率
(という問題の現実的解法と、これは中学数学の問題として不適切ではないか、という問題提起)
7人の生徒A,B,C,D,E,F,Gの中から,2人の代表をくじで選ぶとき,生徒Aが代表に選ばれる確率を求めなさい。
超現実的な一瞬で答えが出る解法
下の絵のように、7本のくじのうち2本に「代表」と書いておいて、そのくじをひいた2人が代表、ということにします。
![](https://assets.st-note.com/img/1737289713-dpOyrRTz7ESNgYfoILqtcVbF.png)
Aさんが7本のくじのうち、2本の「代表」くじをひく確率を求めればよいので、答えは簡単。
答 $${\dfrac{2}{7}}$$
一瞬で答えが出ましたね。めでたしめでたし・・・・
でもね、中学数学の問題として適切なの?
こちらでも解説していますが,
この手の問題は,どのようなくじをつくってどのような手順でくじをひいて決めるのかは,問題文には書いていません。上のようなくじが用意されていて,しかもAさんが必ず最初にひくのでしょうか? その確率は,ほかのやり方・手順でやったときと、果たして同じなのでしょうか・・・?
例えば、くじびきの方法が考えられるはずです。
【クジでの決め方 その1】(「超現実的な解法」で考えたように)「代表」「代表」「(無印)」「(無印)」「(無印)」「(無印)」「(無印)」のクジを7本用意して、(ジャンケンかなんかで順番を決めてもらって)、A~Gに1本ずつひいて「元にもどさず」次の人にひいてもらう。もちろん「代表」をひいた2人が代表。
【クジでの決め方 その2】 「A」「B」「C」「D」「E」「F」「G」と書いてあるクジを7本用意して、(7人の中でだれかジャンケンするとか、別のHさんにお願いして)同時に2本ひいてもらう。出てきた名前の人が代表。
【クジでの決め方 その3】(くじを使わなければ,たぶんじゃんけんをして負けた人が代表,とすると思うけど,くじを使えと問題文がいうので)「グー」「チョキ」「パー」と書いた使い回しのできるクジを用意する。最初のターンで、7人が(じゃんけんとかで順番を決めて)くじをひいて、それをもどして次の人がひく、というくじのひき方をする。じゃんけんルールで
●負けの人がちょうど2人:その2人が「代表」確定となり、それで終わり。
●負けた人が1人だけ:その時点でその人は「代表」が確定し,次のターンへ。
●負けの人が3人以上(勝ちの人が4人以下):その時点で勝ちの人は勝ち抜けで「代表じゃない」が確定。負けの人で,次のターンへ。
確定していない人で次のくじびきターンを繰り返す。先に「代表」「代表じゃない」が確定した人を含めて「代表じゃない人が5人」「代表が2人」確定したら、その時点で終了。2人の代表が確定するまでくじびきターンを繰り返す。
中学数学の範囲で言えば,どれでやっても同じ確率になるということは数学的に説明を尽くすことができませんので,「この3つ,どのくじを使っても同じ確率なんだー!」ということを信じてもらうしかありません。
「超現実的解法」はなぜヤバイの?
先ほどの問題、「超現実的解法」で想定したときにAさんの目の前にあったのは、7本のうち2本が「当たり」(ハズレ?)のくじでした。
しかし、Aさんは果たして最初にくじを引く、ということが確実でしょうか? もとに戻さず次々に引いていくやり方で、Aさんが3番目、ということも考えられますよね。
問題点の一つ目としては、くじが何本あっても、それをひく順番によって確率が変化しない、ということが、中学数学の範囲では証明できない、ということです。
たとえ、それが証明(というか不問に)したことにしたとしても、もうひとつの問題点があります。A~Gの人がどのくじを引くのか、すべての場合を数え上げてみましょう。図をかきやすくするために、
【クジでの決め方 その1の改良版】 ①,②,③,④,⑤,⑥,⑦の7本のクジを用意して、(ジャンケンかなんかで順番を決めてもらって),A~Gに1本ずつひいて「元にもどさず」次の人にひいてもらう。①・②をひいた2人が代表。
のようにしておいて,どんな順番でひいても大丈夫なように、すべての場合を数え上げるために樹形図をかくと・・・
![](https://assets.st-note.com/img/1737149276-epUHlvuPVhAy7O0fDkbCS3FM.png)
もうすでに書くのがすでにめんどくさいです。そう、くじを引く順番を考えてしまうと、この「その1」の方法で計算することは、中学数学の範囲では現実的な解き方ではなくなります。そう、中学数学の範囲では。
【その2】の決め方を想定して解く① 表
方法3がめんどくさそうなのはイメージがつくと思うのですが,「限られた時間」の中で「正しく」答えが出るのは「その2」のやり方で考えることです。まずはその2の方法,2本を同時にひく考え方で表をかいて考えていきます。対角線と左下を消した表(C型の表)になります。
![](https://assets.st-note.com/img/1737148812-LI7hVBclZrY3SE8z6TWu1ODe.png)
起こりうるすべての場合は21通りです。そのうち,Aが選ばれる場合は
![](https://assets.st-note.com/img/1737148824-UwM9On1rKWRxVNStgTcXQdEI.png)
6通りですので,求める確率は$${\dfrac{6}{21}=\dfrac{2}{7}}$$。
【その2】の決め方を想定して解く② 樹形図
すべての場合の数を数え上げる方法として,教科書的には樹形図を想定をしていると思います。「2つを同時に」の問題では,{A,B}という取り出し方と{B,A}という取り出し方は同じものと考えると,樹形図で書かないといけない項目が減ります。表をかいたときに左下を消してしまうのと同じ理屈ですね。
樹形図をかくときには,順番に,左側に出たものは,もう右側に出てこないように書いていくことが大切です。
![](https://assets.st-note.com/img/1737149065-8VYjdatMcRiGxsqCA52r39BL.png)
立て長すぎて画面に収まってないかもしれません。答案用紙に書くときもランや余白にかききれませんね。横にしましょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1737149398-jcXdP91YbHfmqSgxKwz20LQ7.png)
もちろん表をかいたときと同じように起こり得るすべての場合は21通りですね。
くじ問題はどうしてやばいのか?
このくじの問題のやばいところは,まさしく「くじで選ぶ」としか書いていなくて,どんなくじを用意して,どのような手続きで決めるのかについては,解答者任せになっているところです。その2のアプローチしかないのであれば,解き方は簡単で,終わりです。そして,高校入試の出題者は上記のAさんが引く順番を考えない「その1」の方法(超現実的解法)か、まあ「その2」の方法で解けるので出題をする、と好意的に考えるとそうなるわけです。
ところが,中学生になり切って同じシチュエーションで2人の代表を決める場面を想像してみましょう。たぶんまず自然に思い浮かぶのは「じゃんけん」なんじゃないかな,と思います。起こることがらを同様に確からしくするためにくじを利用したのが「その3」の方法です。
あ,問題文には「くじで」選ぶと書いてありますから,くじを使わなきゃ,と思ったら,その3の方法になるし,くじで決めようと思ったら,現実世界でやるのは紙にアミダクジをかくんじゃないかな,と思います。「その1」の方法が近いでしょう。(ただし,アミダクジでの決め方が,たとえば端っことそうじゃないところと,ほんとうに「同様に確からしい」のか,数学的にちゃんと説明するのは実は難しいですよ~)
これが,高校で数Aを学べば,その1のアプローチも$${\dfrac{6!×2}{7!}}$$と立式できるので後は計算問題ですし,その2でも$${\dfrac{6}{_2 \mathrm{C}_7}}$$と立式でき,計算量としてはむしろその1の式の方に分があります。アプローチが違っても,考え方が正しければ,ちゃんと答えが出るのは,数学の良さのはずです。
数学的な考え方はあっているのに,中学の学習内容という足かせの中で,アプローチの仕方を間違えると,とんでもなく時間をかけて答えることになります。
結果として,教える側や学ぶ側は「くじ問題は(順序を考えずに)その1の方法で解く(ゴチャゴチャ考えない)」と解法を覚えることになりかねません。現実世界ではこう解決するかな,というアプローチが,数学の解き方として許されないわけです。 しかも,その3でのアプローチに至っては極限を考えないといけないので,数Aの範囲でも解けません。
少なくとも公立高校入試の小問集合として,手続きを定めないくじ問題を出題するのは,ちょっと安易ではないですかねぇ・・・,しかもこの問題はいわゆる「小問集合」の中にあるわけで、1分くらいで答えが出るイメージで解かないとねぇ・・・,そういう問題として数学的にゴチャゴチャあるのに、ゴチャゴチャ考えずにパターンに落とし込んだ解法で解かなきゃいけない問題なんですけど・・・というのが,大人(出題者)に向けたこのnoteの主張です。
類題(というか、ギルティーな問題を出したところ)
新潟県2024 栃木県2023 広島県2023
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