減法の意味(3) 教科書の説明と素朴概念の間
ひき算(テープ図)と減法(ベクトル)の間
ここでは便宜的に、小学校で習うたし算(非負数+非負数)・ひき算(非負数ー非負数=差が非負数)と、中学校で学習する負の数を含めた加法・減法を区別して表現する。
前稿(2)では、減法の意味を羅列してみた。
ひき算と言ったとき、大体イメージするのは「残り・余りはいくつ」であり「どっち がどれだけ多い?」である。小学校1年生の教科書に載っているようにひき算が「インストール」されているのである。
そして、小学校2年生で「たし算とひき算の関係」が裏表の相補関係にあることを学び、テープ図などでそれを視覚的に把握できるようにしている。この相補関係をもとに、3年生では◻︎を使った式から、逆演算で答えを求めるやり方を習い、その後登場する小数・分数の加減でも特段新しい加減の意味づけは登場しないし、6年生で◽︎がxに変わるぐらいである。
中学校教科書は、啓林館と学校図書以外の教科書は「加法の逆演算としての減法」を前面に打ち出し、減法を説明する。この加減の関係は、上記のたし算ひき算の関係を敷衍したものである。
正負の数の加減でも無条件に成り立つものとするのだが、しかし小学校で頼りとされていたテープ図・線分図は、負の数を含めると使い物にならない。これを数直線上の矢印で説明するといいのだよと、話をこっそりと切り替えるのだが、散々テープ図だ、線分図だと言われてきた子ほど加減イメージは頑なに線分図のままであり、有向線分という発想に混乱する。
そして、これらの教科書が数直線上の有向線分を使うのは、向きをを反転した加法と減法とを同一の操作であることを図示するためである。
ひき算(増大後から増大前をひく)と減法(変化後から変化前をひく)の間
一方、有向線分を用いずに数直線上での操作として減法を説明しようとしているのが、学校図書の教科書である。(動いた結果)-(1回目の動き)=(2回目の動き)であるとして、-2-(-5)を数直線上で考えると、-2(2回目が終わった移動の結果)は-5(1回目の移動の結果)からみて、正の方向に3動いた位置にあるのでその答えは3である、と求答する。ベクトルを用いた他の教科書からするとスマートさに欠ける説明なのだが、いきなり有向線分という高級な道具を持ち出さなくて済むメリットもある。
ただし、そのかわり減法の意味づけ方もわざわざ感、恣意的な感じになる。「第2項から第1項を見る」という数直線上の操作が減法であると言うのだが、これまでの学習内容にはないこれまた高級な扱い方であり、説明は余計にややこしい。有向線分と同じで直観的とは言えない。
ひき算(▲から●だけ小さい数を求める)と減法(▲から●だけ小さい数を求める)の間
啓林館のやり方は、数の大小関係をもとに、操作を正の数分だけ大きい・小さい数を、数直線の左右操作に還元する。正の数分の大きい・小さいの操作であるので、直観に訴えやすい。ただし、減法を加法に直す操作の意味づけは苦戦する?
減法の定義と、差の求め方の間
数や記号の操作を、意味を一旦切り離して習熟させるか、まるで指折りをさせるかの如く意味と計算とをペッタリ同一視して、数直線上でいちいち行きつ戻りつして導くか?
計算の仕組みを知っている方がもちろん後々強いのだが、その理屈を自分のものにするまでが長くかかる人にとっては、その仕組みを知り身につける過程はまどろっこしいのも確かである。マニュアル通りであろうと、やると計算ができる、正解する、早く計算できる、という手応えもまた欲しいところで、そこに学習の快感も感じる(感じさせる)ことができるため、悩ましい。
できちゃう子にとっても、たぶん教科書の説明は、まあそうなるのね、で、答えの求め方は? と逆にまどろっこしいだけかもしれない。啓林館の説明が一番抽象的な分、スッキリ感じるかも。
結局は目の前にいる子に応じて、導く戦略は変えていかないといけない。
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