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【内部監査Tips】内部監査のジレンマ:「集団の知恵」が機能しない理由~監査品質の向上に向けた意思決定プロセスの再考~

はじめに

「三人寄れば文殊の知恵」という諺が示すように、「多くの人が集まれば、より賢明な判断ができる」と私たちは考えがちです。実際に、複数人で考えることでアイディアが浮かびやすくなる場面は多々あるでしょう。

しかし、内部監査の実務では、集団の意思決定が必ずしも最善ではない場面があると私は考えています。



1. 集団的意思決定における一般的な利点

一般的に、集団での意思決定には以下のような利点(例)があると言われています。

  • 多様な視点からの検討
    ・専門知識や業務経験の違い
    ・世代や性別の違い

  • 思い込みや固定観念の指摘
    ・個人の偏見やバイアスを相互にチェック
    ・異なる立場からの検証

  • 意思決定に係るリスクの分担
    ・重要な意思決定における責任の分担

  • 創造的なアイディアの創出
    ・アイディアの掛け合わせによる新しい発想

しかし、内部監査の実務では、必ずしもこれらの利点が十分に活かされていない場面があると考えています。


2. 事例検討:監査結果の報告ミーティングの課題

(※以下の考察は、内部監査部門の構成員が約30名~の組織を想定)
監査実施の終了直後で監査報告書の発行直前に開催される、監査結果の報告ミーティング(通常1.5~2時間程度)を例に考えてみます。

1)     ミーティングの目的
・監査報告書の発行に向けた監査結果の共有
・発見事項等の内容確認と合意形成

2)     出席者の構成(合計5-8名程度)
◎監査マネジメント:2-3名
・内部監査部門長:最終承認者
・副部門長:監査の実効性・効率性の観点
◎監査チーム:2-3名
・監査主任:監査実施責任者としての監査結果の報告
・監査メンバー:担当者としての監査結果の詳細説明
◎品質評価チーム:1-2名
・品質評価者:品質評価の観点(内部監査マニュアル・手続の準拠性確認)

課題1:集団思考/集団浅慮(Groupthink)のリスク

◎部門内の上下関係による影響
・部門長の意見に他のメンバーが同調する傾向
・監査経験の浅いメンバーからの率直な意見表明を躊躇
◎集団同調性バイアス
・監査経験や価値観の類似性による視野の狭さ
・「前例踏襲」への過度な依存

(参考文献)
Janis, Irving. (1982) Groupthink. Second Edition. Boston: Houghton Mifflin.
細江達郎訳『集団浅慮ー政策決定と大失敗の心理学的研究』新曜社, 2022 )

課題2:合意形成の複雑化

◎意見調整の負担増
・出席者が多いほど、全員の意見調整に時間を要する
・本質的な議論よりも表現の調整に時間を費やす
◎議論の混乱
・多様な意見の取り込みによる論点の拡散
・重要度の異なる意見の混在

課題3:責任の希薄化

◎当事者意識の低下
・「組織での意思決定」という形式による個人の責任感の低下
・「他の出席者が意見を表明するだろう」という依存思考
◎フォローアップの不足
・決定事項の実行責任の不明確さ
・進捗管理の形骸化


3. より効果的な意思決定プロセスの整備

3.1プロセスの改善

◎意思決定プロセスの構造化
・事前の論点整理と共有
・決定事項と保留事項の明確な区分
◎事前準備の充実
・「監査結果(案)」の事前共有
・参加者からの意見の事前確認と一覧化

3.2出席者に関する対応

◎出席者の最適化
・必要最小限の参加者への絞り込み
・各参加者の役割と責任の明確化
◎発言機会の確保
・役割に応じた発言順序の設定
・全出席者からの意見を確認

3.3環境の整備

◎心理的安全性の確保
・反対意見や少数意見を歓迎する姿勢を継続
・建設的な議論のためのグランドルールの設定
◎効率的な運営
・時間配分の明確化
・議論の優先順位付け


まとめ:実効性のある改善に向けて

このように、質の高い意思決定を行うためには、以下の点に留意する必要があります。
・出席者の役割と責任の明確化
・事前準備プロセスの確立
・心理的安全性を確保する環境の整備

次の監査報告ミーティングでは、以下のようなステップを取り入れてみてはいかがでしょうか。
事前に論点を整理して共有する
少人数での効率的な議論を試みる

これらの取り組みによって、監査品質が向上し、より効果的な意思決定につながるでしょう。


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