【内部監査Tips】「事実」を正しく扱う:中立的な記録から公正な解釈へ
はじめに
内部監査において何らかの不備事象を発見した際には、次のステップとして、「なぜそのような事象が生じたか」と、その原因を探ります。
「根本原因分析」に関する他の投稿記事(※)の中で、私は「事実をありのままに表現すること」の重要性に言及しました。しかし、この点については、より深い解説が必要と考え、本稿のテーマとして取り上げます。
1. 内部監査における「事実」の扱い:二段階アプローチ
内部監査プロセスにおける事実の扱いは、以下の二段階に分けて考えることが有効です。
第一段階:事実の中立的な観察と記録
この段階では、観察された事実・事象を解釈や価値判断を加えずに、客観的かつ正確に記録します。
第二段階:記録された事実に基づく公正な解釈と分析
中立的に記録された事実に基づいて、組織の状況を考慮した解釈と分析を行います。
2. 事実の中立的な観察と記録
事実の中立的な観察と記録には、以下のような要素の考慮が重要です。
具体性と正確性の確保
網羅性の確保
客観的な証拠に基づく記録の作成
時間と場所の明記
定量的な情報の提供
感情表現の排除
【中立的な観察と記録(例)】
20XX年1月から6月までの6ヶ月間において、月次の在庫棚卸し時に、以下の通り3度の在庫数量不一致が確認された。
・1月15日に製品A(在庫番号:123)で50個の不一致
・3月20日に製品B(在庫番号:456)で30個の不一致
・5月10日に製品C(在庫番号:789)で20個の不一致
3. 記録された事実に基づく公正な解釈と分析
中立的に記録された事実に基づいて、以下の要素を考慮して解釈と分析を行います。
組織の状況
事実の重要性
潜在的影響/リスク
多角的な視点
【公正な解釈を含む分析(例)】
過去6ヶ月間で3度の在庫不一致が確認された。これは全体の5%未満であるが、金額的重要性と発生頻度を考慮すると、在庫管理プロセスの改善の余地がある。
業界標準や組織のリスク許容度に照らしつつ、根本原因を分析し、費用対効果も考慮に入れた再発防止策を検討する必要がある。
4. 二段階アプローチの重要性
この二段階アプローチを採用することで、以下のようなメリットが得られます。
監査の客観性と有用性の両立
より深い洞察
効果的な再発防止策の提言
ステークホルダーからの信頼性の向上
5. 内部監査プロセスへの影響
根本原因分析への影響
中立的に記録された事実を出発点とすることで、先入観や偏見に基づく分析を避け、より客観的で深い洞察を得ることができます。
再発防止策の提言への影響
中立的な事実と公正な解釈に基づいて策定された再発防止策は、より効果的かつ組織に受け入れられやすいものとなります。
まとめ
内部監査における「事実」の扱いには、以下の重要なポイントがあります。
事実の中立的な観察と記録:
観察された事実・事象は、解釈や価値判断を加えずに、客観的かつ正確に記録します。これが「事実をありのままに表現すること」の本質であり、監査報告書においても事実はこの中立的な形で表現されるべきです。事実に基づく分析と提言:
中立的に記録された事実に基づいて根本原因分析を行い、再発防止策を提言します。この段階では、組織の状況、重要性、潜在的影響などを考慮した解釈を含めることが適切です。
内部監査人は、事実の中立的な記録と、それに基づく公正な分析・提言の区別を明確に理解し、それぞれの段階で適切なアプローチを取ることが求められます。
このバランスを取る能力を磨くことで、内部監査人は組織にとってより価値のある監査結果を提供し、真の改善につなげることができるでしょう。