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【内部監査Tips】発見事項の統合がもたらす問題:明確性と実効性の両立を目指して

はじめに


内部監査で複数の発見事項を識別した際に、これらを一つにまとめた経験はありませんか?

発見事項を統合する背景には、監査対象部門が抱える「経営陣からの過剰な反応を避けたい」という思いに対する配慮があるでしょう。

しかし、安易な統合は監査の本質的な価値を損なうリスクもはらんでいます。本稿では、このリスクの構造を分析し、実務的な解決策を提案します。




1. 発見事項を統合する背景と動機

1.1 経営陣および組織内での政治的要因

  • 経営陣の反応への懸念

    • 発見事項の数が多いと、否定的な評価や過剰な反応を引き起こす可能性があるため、これを回避する

    • 発見事項が業績評価に影響を与えることへの懸念がある

    • 組織内の力関係や政治的な配慮が必要となる場合がある

  • 監査対象部門との関係性の維持

    • 対立的な関係を回避し、協力的な姿勢を維持する

    • 将来の監査活動への協力を得るために、適度な柔軟性を示す

1.2 実務的な要因

  • 報告書の簡素化

    • 文書のボリュームを減らし、読みやすく簡潔に説明する

    • 部門内のレビューや理解を容易にするため、過度に複雑な内容を避ける


2. 発見事項の統合がもたらす問題点

2.1 監査品質への影響

  • 問題の本質の曖昧化

    • 異なる性質の問題が統合されると、各問題の重要度が不明確になり、適切な対策が講じられないリスクがある

    • 根本原因の分析が困難になり、効果的な改善が行われない可能性がある

  • 改善活動への悪影響

    • 問題の改善に際して、責任の所在が曖昧になる

    • 再発防止策の実施による改善効果の測定が困難になる

2.2 具体的な問題(例)

  • 異なる性質の問題が混在するケース

    • 以下3つの発見事項を「業務プロセスに不備がある」に統合した場合

      • チェックリストに必要な項目が含まれていない(網羅性)

      • 規程・手続に違反している(準拠性)

      • 期限までの報告が遅延している(適時性)

→ 問題の異なる性質が混在しているため、各発見事項への対応が不十分になるリスクがある

  • 再発防止策の優先順位が不明確になるケース

    • 以下3つの発見事項を「在庫管理に不備がある」に統合した場合

      • システムログを日時で確認していない(適時性・日次コントロール)

      • 棚卸に不備がある(適時性・月次コントロール)

      • 顧客マスターの更新が適宜行われていない(適時性・都度コントロール)

→ 時間軸が異なる項目が混在することで、再発防止策の優先順位付けが困難になり、効果的な対応につながらないリスクがある

2.3 長期的な影響

  • 組織の改善能力の低下

    • 問題の真の理解が得られないことで、表面的な対応に留まるリスクがある

    • 根本原因が究明されず、再発防止策が機能しない可能性がある


3. 解決のアプローチ

3.1 発見事項の適切な構造化

  • 問題の性質ごとの分類(例)

    • 分類基準(監査要点): 網羅性、準拠性、適時性、正確性、有効性

→異なる性質の問題を一つにまとめるリスクを回避し、各発見事項が持つ重要性を明確化することができる

  • 重要度/優先度ごとの分類(例)

    • 分類基準:

      • 最重要:即時の対応が必須

      • 重要:計画的な改善が必要

      • その他:継続的なモニタリングを実施

→時間軸(短期・中期・長期)や再発リスクの観点を基準にして、各発見事項に優先度を設定する
(例)日次で重要なものは即時の対応を求め、月次や都度での確認が求められるものには中長期的な対応の要否を踏まえて、組織全体の効果的なリソース配分を検討する

3.2 コミュニケーション戦略

  • 経営陣との対話

    • 発見事項の件数よりも実質的な影響を説明する

    • リスクベースでの優先順位付けを行う

    • 改善効果を見える化する

    • 問題点の相互の関連性を提示する

  • 監査対象部門との協働

    • 問題を性質ごとに整理し、共通の理解を持つ

    • 実行可能な再発防止策を策定する

    • 段階的な改善アプローチを合意する


まとめ

発見事項を安易に統合すると、本質的な問題解決が妨げられるリスクがあります。

監査の真の価値を提供するためには、発見事項を性質ごとに分類し、優先度を考慮して適切な改善の方向性を示すことが重要です。これは、内部監査人の専門性と勇気が試される場面でもあります。

組織の健全な成長に向けて建設的な関係を維持しつつ、問題の本質に迫る監査アプローチを確立することが求められています。


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