(10) Don't look back ! vol.2
プレアデス社の親会社GrayEquipment社の翔子会長と、台湾に本社を構えるプレアデス運輸の志木社長が、北海道・北東北州知事、日本海州知事、九州沖縄州知事の元へ訪問し、フィリピンで導入している核熱エンジン駆動のホバークラフトによる、高速海上移動事業の提案を行っていた。翔子が志木より20近く年齢が高いのだが、衆院議員だった頃と変わらぬ美しさを醸していた。この2人に並んで前に座られただけで、州政府関係者は射抜かれたようになり顔がほころんでいた。
男性知事の州政府ほど、籠絡されやすかった。モリの息の掛かった事業でもある。反対する理由も無かった。逆に経済にはプラスとなるのだから。
函館、稚内、秋田、新潟、富山、舞鶴、境港、北九州、那覇の各港と、ロシア、北朝鮮、韓国、台湾の各国の沿岸港を結んで、航空機よりも安価な移動手段を実現しましょうと時刻表と路線数まで具体的に示して、売上予測を州政府に提示して煽ってゆく。
港湾事業、港湾輸送は各州政府の管轄になり、州政府の判断に委ねられていた。日本政府としてのジャッジは、非核三原則の箇所となる。「核を持ち込まない」への解釈の判断だが、原発の解体撤去が始まり、プルシアンブルー社が核熱エンジン、核熱モジュールを使った戦闘機、モビルスーツの開発製造を行うようになり、世界では核兵器の撤去作業が始まり、核を取り巻く世界的な状況が変化しているのがプラスに作用する。
タイミング的なものもある。フィリピンに於けるホバークラフト輸送事業が、台湾、ベトナム、タイとの国際便就航が決定し、この春から就航する。台湾とベトナム、タイのそれぞれの港の埠頭に護衛用モビルスーツの格納庫を建設して事業を始めようとしている。
バングラデシュ・ダッカでインド・パキスタン・バングラデシュの首脳と会談中のモリは、パキスタン、インドの各港とトルコ、ギリシャ、イタリア、エジプトの主要港をホバークラフトで高速移動、地中海とインド洋の間の中東圏は飛行してしまう提案を打ち出してきた。
「最早、空港だけが国際線輸送を担う時代ではない。港湾事業の活性化を睨んで、港のイミグレーション体制を強化し、国際港同士をもっと繋いでゆこう。港湾都市の経済成長を促す起爆剤として、この海上新幹線を導入しませんか?」と会談の席上訴求し、トルコ、ギリシャ、イタリアは、アジアインド洋圏・北アフリカ地中海圏との新しい輸送路に前向きとなる。
鉄道のようにレールを引く工数は不要だし、航空機保有や整備、空港管理の為の高額な投資は要らない。そもそも各国の国際路線は既に飽和状態となっていて、これ以上路線数は増やせない。海上新幹線はホバークラフトの導入と埠頭の整備と輸送船と護衛モビルスーツの小ドックを用意するだけで直ぐに始められる。
今秋に開催される、エジプト自主五輪にも十分 間に合う。
山下智恵経産大臣も国交大臣と省庁と共に、それぞれの州政府との協議を始めていた。海洋国日本が世界に遅れをとってはならないと、前向きな議論を進める。核燃料による駆動装置は、高速輸送をする上で必要な動力源であり、中南米軍、自衛隊の護衛を伴うことで安全性も担保される。事故時の対応も中南米軍の即座に得られるとして、北朝鮮独立後の憲法内容に触れた議論を国内で始めだした。
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北朝鮮統治後、初の国民投票が3月末に行われる。2月になって北韓総督府は国民投票法案を内外に公開した。
国名を「高麗国」とし、韓国の英語名コレアの元となった「コリョ」を英語名とする。日本の国会議会と道州制を北朝鮮でも踏襲し、高麗軍の設立を打ち出していた。
当面は北韓総督府、越山総督が高麗国首相に、櫻田副総督・首相が外相兼国防相、柳井治郎副総督が官房長官に転じて、高麗政府を束ねてゆく。高麗軍は国内に駐留している中南米軍の在北朝鮮駐留軍が分離独立する。
高麗国憲法は日本国憲法を基準に作成され、高麗軍の条項が明記される。非核三原則の「持ち込まない」の項目に「核兵器を対象とし、戦闘機、ロボット、空母・戦艦、シャトル等の輸送用途の動力源は除外とする」一文が加えられる。
国旗は嘗ての高麗旗と韓国太極旗を模倣して、白地をベースに、簡略化された赤い鳳凰が中央に描かれている。国歌は公募。高麗国議会は日本同様に衆院・参院が設けられ、議員定数をそれぞれ100名とし、対象選挙区を掲げ、10月総選挙実施する。選出された政党、議員から高麗国政府が選出される。議員定数の増減は国会設立後に議論する。
高麗国建国に対する反発は、朝鮮半島統一を求める韓国政府と、独立した軍隊を持つ事に異を唱える中国から来たが、越山総督も櫻田副総督も「ノー・コメント」として黙殺する。元々、現状維持で構わないという声が圧倒的な国だ。法案を提示しても、北朝鮮国内の人々の反応はとても良かった。
ベネズエラで厚労相を努めていた幸乃・カッサンドラと元国交相の志乃・ルーベンスの姉妹が北朝鮮での議員立候補をいち早く表明する。ベネズエラ政府のベネズエラ人大臣経験者も何名か、北朝鮮で立候補する。エクアドル、ウルグアイ、チリの大臣経験者も手を上げた。日本人も含めて、北朝鮮に住民票を有する者は誰でも立候補の資格があると知ると、韓国籍を離脱して北朝鮮に住居を構える韓国人も出始めたらしい。
北朝鮮の大学で学んだインド人、ウイグル人等のイスラム教諸国、モンゴル人、ロシア人、フィリピンから疎開してきた人々、中南米軍兵士のタイ人、ビルマ人等にも広く遍く、立候補の権利が有る。
北朝鮮は、ベネズエラ政府同様に国際政府のモデル国家となる。地球連邦成立へ向けた、第一歩となる。
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モリがバングラデシュで発言した「海上新幹線構想」はEU、NATO内に波紋を引き起こす。日本と経済的に繋がりのあるイタリア、ギリシャとインド洋、北アフリカを繋ぐ構想にスペイン・ポルトガルを除く地中海圏の国々には相談すら無かったからだ。トルコ、イタリア、ギリシャは前のめりで港湾施設の配置変更が始まっている。
原発・核兵器所有で日本連合との間で確執のある英仏に相談があるはずもなく、EU経済圏の切り崩し、アメリカの威信低下を受けたNATOの形骸化の間隙を縫うものだと警戒を強めていた。
EU本部のあるベルギーと、経済トップ、アメリカの次の座を狙うドイツは、EUとして、NATOとしてアメリカ・カナダの国際支援を訴えながら、北米2カ国を両国首脳が訪問する。NATOは北欧が中南米軍の防衛協定を採用し、中核を担う英仏の経済低迷でNATO体制の綻びが見え始めている。肝心要の米軍が殆ど機能していない状況に慌てているのだろう。
そうこうしているうちに、スペイン・バルセロナ港、バレンシア港、イタリア・ナポリ港、ジェノバ港、ギリシャ・アテネ港、エジプト・アレキサンドリア港の地中海でホバークラフトがテスト運用を兼ねて「飛行」し始めたと話題になる。航空料金の2/3の価格がウケていきなり人気路線となる。暫くはホバークラフトとして海上を移動して、湾の外に出ると浮上して航空機と同じ8000mまで浮上する。空までモビルスーツが護衛として帯同するので、「航空路線よりも安心」という評価が付いた。
ドイツのティッセンクルップ社は「空飛ぶホバークラフト」事業への進出を表明し、核熱モジュールの提供を日本のプルシアンブルー社から受け、ベネズエラ製の100人乗り仕様機よりも胴長のホバークラフト、「D1」160人乗りモデルを年内に販売すると表明した。
いつの間にか、兄アユムの企業に執行役員として参加していた、バイエルン・ミュンヘン所属のケイゴ・モリが、ホバークラフト事業部の長として担当すると、CGを使ってエッセン市内のティッセンクルップ本社で発表した。
イタリアのイタル・チェメントの製造業子会社ITAL Industry社のヴェロニカ・柳井会長もベネズエラのGray Equipment社から、核熱モジュールの提供を受けて152人乗りのホバークラフトを年内に販売開始すると表明する。アメリカの後釜を狙っているドイツ政府は歓喜した。ドイツも蚊帳の外になりつつある中でティッセン社がいち早く新市場に打って出たからだ。航空機産業は飽和状態とは言え、PB AIr社の寡占状態となっており、核熱モジュール動力源を日本から供給されるのも、会長が日本人でもあるからだ。
後で、韓国と日本の工場で製造すると知り、落胆してしまう。イタリア政府もイタル社の日本の瀬戸内造船所で製造すると聞いて、やはり肩を落とす。両社にすれば、動力源となる核熱モジュールはセキュリティの観点から、あまり遠くまで運び出せない。
核熱モジュールの移動を見込んで、両社は日本の製造業の工場や造船所を5年前に買収していた。モリ家内では策が密かに講じられていたのだ。
ドイツ仕様もイタリア仕様も、開発と設計はベネズエラのプレアデス社が行う。デザインをヴェロニカがドイツっぽいのと、イタリア人好みの2つを作り、それぞれの製造拠点で製造する。
「アメリカと中国の状況を無視しながら、新事業に邁進し、世界の枠組みを少しづつではあるが、加速度的に変えようとしている」
日本連合の冷徹なまでの姿勢を非難する向きも少なくはなかった。しかし、能力が無い国なら手を差し伸べるが、世界のトップを極めた事もある国だ。それなりに自助努力して貰わねば困る。事実、困窮度合いが高まって、まだSOSを発していない。それもプライドなのだろうが、足掻いて、何度でも足掻いて、自立できたなら最良なのだろうが、今の所は様子見でいい。
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高度10万メートル上空を平行移動している時間は僅かだが、無音無風状態の宇宙空間はモリにとって心地良いモノだった。カーステレオから流れる音楽など比較にならない、充実したオーディオ環境を堪能していた。音量を上げなくとも管弦楽の細かな音まで、時として、ホールの観客の咳やくしゃみまで鮮明に聞こえてくる。目を閉じれば、ホールに居るような錯覚も覚える。眼下に美しい地球を見ながら、美味しいコーヒーを飲み、音楽を聴く・・景観的な効果だろうか、やはりクラッシックが向いているようだ・・。
何気に至福の時間になりつつあった。家族の医師達も移動中の心拍数が、深い睡眠時の状態に近いという。精神科医の幸乃は脳波が非常に安定していると言って、小説でも書いたらどうかと勧めてきた。幸乃のアドバイスを受けて閃いた。モリには小説のセンスはないので、代わりに小型のキーボードを持ち込んだ。地球を眺めていると旋律が浮かぶ経験を何度かしたからだ。軽い機内食やデザートを食していると、正味30分位しかない。浮かんだフレーズをキーボードでナゾってメモリに録音しておく。そのメモリカードをロボットのアンナに差し込んで、作曲用AIに委託する。これで、AIオーケストラが拡大解釈して曲を作ってくれる。フレーズの繰り返しや、転調部のリクエストをして、曲の構成を変えてゆく。これで1週間の移動時間で1つの楽曲が完成した。
早速、家族に転送して聞いてもらう。自信があるから送る。実際、自作曲で生まれて初めて感激したからというのもあるし、オーケストラが演奏してくれるのは、贅沢以外の何者でもない。費用は電気代しか掛っていないのだが。早速、Angle社のアン社長が、PB Motorsのアンモニア・ハイブリッドエンジン搭載車のCMのBGMに「作曲・薯」としてテロップを出し、知らぬ間に登録手続きをして、人の著作権料の権利を封殺してしまう。どうして小遣い稼ぎさえ許してくれないんだ!と、某国大統領は酷く哀しんでいたらしい。
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「ボートピープルが現れた」小型漁船を使って、夜陰に乗じてキューバやジャマイカの沖合まで難民を運ぶ「業者」が現れたと、中南米諸国の海上保安庁に連絡が入った。ベトナム戦争後、カンボジア内戦のインドシナ半島諸国の経済困窮期に、祖国を捨てて海外に渡った人達をボートピープルと呼んだ。1970年代後半、小学生だったモリは母子家庭で食を我慢するような児童だったので、同級生達から「ボートピープル」と揶揄されていたのを思い出して、その言葉に胸が傷んだ。あれも一種のイジメだったのだろうか、と思いながら。
メキシコ国境がアメリカ側で封鎖したので、こうなるのも分かってはいたが、船舶となると纏まった所持金を都合できる人々に限られるので、貧困層には無理だろう。アジア人はナケナシの費用を貯蓄して万が一の出費に備えるが、アメリカ人は「貯蓄」の概念が薄い。
預金ゼロの家庭が圧倒的だと言う。それでもドルが暴落しているので金を求める人々が多いと言うし、実際、北米での金取引量は増加しっぱなしだ。中国とアメリカが傾くと、金の需要は加速度的に上がってゆく。このタイミングで火星の金を市場に投入してゆく。
もし、米中が経済復興して景気が上向くと、金がダブついて相場が下がるかもしれないが、予定ではそれもないだろう。
キューバとジャマイカ政府に支援金を送って、難民救済支援の対応を要請する。
キューバの海上保安庁からの報告に寄ると、フロリダ半島の船舶を持っている金持ちが国外脱出を望む人達を集めて、金を集めてキューバやジャマイカ沖に向かったのがキッカケとなり、漁師たちも商売になると挙って始めているらしい。船舶数は両国で日に3−5隻程度だと言う。個人が船舶を持つアメリカ人ならでは、だろう。ベトナム・カンボジアよりも船の性能も良いだろうし、金持ちは自家用機でビジネスを企てるかもしれない。未だ現れては居ないが、時間の問題だろう。各国の各空港にキューバ、ジャマイカの海上保安庁からの情報と合わせて、注意喚起の旨を連絡徹底しておく。
ベネズエラにいたモリは明日は北朝鮮に向かい、週末も中南米に居ないので、ミランダ空軍基地に向かう。ジャンケンで勝ったパメラ副大臣を、A-1の後部座席に乗せて空に飛び立った。
2022年、ミャンマー侵攻時にモリが僚艦としたタンカー型空母・飛龍が、ビルマからコメを満載して,アルゼンチン・パタゴニア廻りでブラジル沖合までやって来ていた。思い出の船との面会なので、着艦して20年前の建造状態をチェックするつもりでいる。この飛龍を含めたタンカー型空母7隻は、プレアデス運輸が海上自衛隊から格安で譲り受けた。
「プレアデス社の日本工場を日本側に無償提供したのだから、タダにしろ」と要求したのだが、役所は「タダ」で卸すのは流石に不味いらしい。
今回はベネズエラで石油を積み込んで、直ぐに石垣島の石油備蓄基地に向かうので、修繕している時間は無いのだが、エンジンの換装を計画している。艦の建造当時のディーゼルハイブリットエンジンは、10年前に水素ロータリーエンジンに換装しているらしい。プレアデス運輸としてはタンカー・輸送船としての役割の方がメインになるので、「石油」という危険物を積載する関係上、危険物の水素燃料よりもアンモニア・ハイブリッドエンジンに再換装して、より安全な船にするか、もしくは護衛の中南米軍も行動を共にするので、核熱モジュールに換装して、原子力空母化するか、どちらにするか悩んでいた。コスト安ならば燃料費の掛からない後者なのだが・・。
夕方はボートピープルの船を目視できるかもしれないというので、飛龍経由でキューバ沖を目指していた。上空をマッハ1でゆっくりと、後部座席のパメラの為に優しく飛ぶ。
パメラはカメラを回しながらカリブ海の美しさを頻りに褒め称え、自画自賛している。
「パメラ、自分で撮らなくてもアッチに任せても良いんだよ」モリが前を向いたまま、左側を指差す。「アッチって、あの小型機?」
A-1の左右にフライングユニットが2機飛んでいる。A-1内臓のAIがフライングユニットを操縦している。
「そう。いいかい、こんな感じ・・アンナ、左のドローンでパメラを撮ってくれないか? それでっと、そうだな、パメラは左に顔を向けて、手を振ってご覧」
「了解、マスター」AIが返答する。「これでいいのかな?」パメラが手を振っているのを小さなバックミラーで確認する。
「アンナ、録画したのをパメラのモニターに表示して欲しいんだけど」
「了解しました。パメラさん、前のモニターを見てください」
「わっ、こんなこと出来るんだ・・つまり、ユニットに現地に先行してもらって偵察映像を撮ったり、もしくは破損した僚機の具合を近づいて見たり・・出来るって事ですよね?」
「そうだね。敵機を追い掛けて撃ち落とすのがメインだけど、例えばドローンがロックオンした機体を、A-1に搭載しているミサイルで撃ち落とす。相手は予測もしない方角からミサイルを打ち込まれるので、まず逃げられない。モビルスーツのバズーカ砲やマシンガンなら、尚更どこからだって撃てる。だから戦闘機隊はあっという間に撃墜されてしまった・・」
「あー、アタカマ砂漠での演習ですね、凄いなー。 ねぇアンナ、水面の上スレスレを水飛沫上げながら爆走する映像って撮れる?」
「出来ますよ。こないだスーザンさんは、雲をマッハで突き抜ける映像を欲しがりました」
「じゃあ、海面スレスレマッハ飛行映像でお願い!」
「マッハ1から3まで上げますね・・」
「アンナ、周囲に船舶は?」モリが保険を掛ける。
「大丈夫です、マスター。衛星画像でも周辺海域には手漕ぎボートですら ありません」
「じゃあ、パメラのリクエスト聞いてあげて・・」諦め口調で承認する。
「パメラさん、右のユニットが急降下します。ライブでご覧ください」絶対開発してるのは男だと思う。戦闘機に乗るたびに思う。サービス精神が旺盛なのだ・・
「うわー、凄い、スゴイ、一直線って・・ねえ、海に突っ込んじゃうよ!アンナ!」
「行きます!きりもみダウンからの直角ターン!」 旺盛過ぎだってばさ、アンナ・・
「うっわー、何これ・・こんなの出来るんだぁ」
「人間が乗ってたら、速攻で意識失ってるからね・・絶対に真似なんか しないからね」
「あー、そうですよね・・この映像って、軍事機密ですか?」
「いや、いいよ好きに使って。見たら、アマンダもスザンヌも乗せてくれっていうだろうけどね・・」
「あ、あの二人は飛行機嫌いだから・・次は、妹を乗せて下さい。あの子たち、ずっと声を掛けてくれるの待ってますから・・」
「え?」
「3人をセンセイに・・駄目ですか?」 こんな所でなんて話を切り出すのだろう・・
「あのさ、さ来年の秋で70なんだけど・・」
「年齢は問題ありません。私が保証します。こうして戦闘機も、そして・・私たちだって難なく操縦出来ます。8年前よりも断然逞しくなってるし・・」
「なに それ・・」
スカイブルー主体の迷彩色の機体が、フライングユニットの速度に合わせるようにゆっくりと加速してゆく。AIが気を使って勝手に速度を上げている。
「パメラ、これがマッハ3だよ・・」
「はい・・マッハ1も3も、全然変わらないですね。まるでセンセイみたい・・」まだ言ってると思い、暫くダンボになった。
子供はもう作れないと言うのをハッキリ伝えた方が良いだろう。何時まで経ってもキリがないし、塔に若いお嬢さんが人生を掛ける対象ではない。
ブラジル領海内に入って、ブラジル基地管制と交信を行う。飛龍の現在航行情報と座標を入手して設定する。あとはAIに誘導して貰うだけだ。
しかし、目的の飛龍はレーダーに映らない。運搬しているのはビルマ米だが、甲板にモビルスーツが2体居るので、隠密行動中となっているのだろう。変に観光ヘリ等が物珍しさで寄ってくるのを回避している。しかし、天気が良い日で良かった・・。
「あ、あれだ!見えました!」パメラが後部座席で目の良さを見せつける。真正面なのだろうが、老眼の為に正直良く分からない・・。暫く経ってようやく認識する。段々と巨大な船体が見えてくる。AIが飛龍の積載データを送ってくる。ビルマ産のインディカ米だけでなく、タロイモと東南アジアの小粒ニンニクを積んでいるようだ。船の喫水線は石油を積んでいる時程、下がっていない。
「パメラ、降りるよ。舌を噛まないように、機体が止まるまで黙っててね」と言って、返事を待たずに旋回運動に入る。甲板のザクとアトラスガンダムが重なるように移動して、艦橋の後ろに並んで隠れて、頭だけちょこんと出してこちらを見ている。その動きが可愛らしい。パメラが「フフッ、可愛い。仲がいいなぁ」と笑うので、同じような印象を感じたのかもしれない。
モジュールに表示された「セーフティ」の表記を見て、ゆっくりと機首を下げてゆく。タンカーでもあるので、甲板は異様なまでに長い。実際の空母よりも着艦は断然、楽だ。 ワイヤーフックを使うまでも無い。
(つづく)