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(6) 善行を積み上げ、功徳を増やす貴方を誰かが見ている(2024. 1改)

内閣府が纏めた、社会党の新知事が就任した栃木県と岡山県のレポートが 首相補佐官・新井の手元にも届いた。与党の基盤とも言える両県で、圧倒的な大差で敗れたが、勝敗は選挙結果だけでは無い。新知事の手腕がどれほどのものか、県庁内にいる与党寄りの職員、与党の県会議員にヒアリングし、社会党知事の弱点を付いて知事の弱体化を図り、あわよくば失職に追い込めればと考えていた。

民進党政権を下野させ、与党に返り咲いた時と同じ手法だ。官僚と議員で反旗を掲げて一切の協力を拒む。実際、東日本震災でも「悪夢の民〇党政権」と文句を言い続けてからは、震災の責任を全て政府に押し付け、民衆の怒りの鉾先を逸らす事に成功した。支持率を失った後は弱体化の一途を辿り、分裂し再分裂するほど凋落し、拮抗する力も無くなった。
最近になり分裂した形となった左寄りの党に、旧政権の閣僚だったメンバーが加わってからは、完全に党の勢いを失ってしまった。
実績が無いのを自ら痛感しているのだろう。旧態依然としたメンバーばかりを重用し、強力な打線を並べたと勘違いしている様だ。
国民からノーを突き付けられた戦犯、税金泥棒達が、ドラスティックに過去を分析し、土下座して過去を悔い改めて謝罪せねば、1ミリたりとも前には進めないし、飛躍はあり得ない。過去には触れずに蓋をして、昔の顔が党の幹部として我が物顔でテレビに出続け、与党の批判に終始するので有権者は離れていく。説得力ゼロの税金泥棒に加えて、実績、貫禄共にゼロの党首が勝手に右往左往している姿を晒しているので、楽勝だ。与党の相手にすらならない。
まぁ何をしようが、民進党に期待と希望を踏みにじられた有権者は二度と戻らない。
それを承知で踏ん反り返っているのなら、与党議員同様に引導を渡すしかない。明らかに無用・無駄な存在であり、税金が勿体ないからだ。

後進が一向に育たないのは与党2党も同じだ。万年同じメンバーが顔を占め我が物顔で居続ける。弱い野党が一枚岩にならず、自爆し自滅、分裂し続けているだけで党勢は持続できるので、与党で居られただけだ。

国民の期待は新勢力を加えた社会党に移った。新勢力を生み出せない既存の政党に加えて、新たに生まれた新党もあるが、政策実行力に乏しく、何一つ実現できていない。
与党批判に終始しているようにしか見えず、結果的に野党第ー党と同じ穴の連中と見做されてしまっている。
一方で社会党の新人達の実行力は人々の意に反して期待を集めている。起業したばかりの会社との両輪で事を為し、成果を上げ続けているからだ。

社会党が唯一未知数なのは、党の勢力を何処まで拡大出来るのか、政権与党となりうる政党に成長できるのか?と言う点で、その途中経過として、新知事や新市長の力量が問われている最中でもある。
県議会も市議会にも社会党議員が居ない中で、たった一人の新首長に一体何が出来るというのか?と、県議も市会議員も手揉みしながら待ち構えていた。
県庁登庁初日から、携えてきた助っ人30人を役所の各部署に配置して、各部門の仕事を力技で一掃してしまう。
助っ人と副知事は富山県庁と富山市役所で実践を積んで来たエキスパートで、プルシアンブルー社の社員達でもあり、人件費は知事が個人負担しているらしい。
AIと二人三脚でお役所仕事を次々と片付けてゆくので、元の職員だけでなく上司までもが形無しとなる。
所代われど日本の県庁、市役所の業務は同じだ。社会党は役所の各部門の業務をAIに覚え込ませて、助っ人はAIにアドバイスを受けながら業務を粛々と進めればよい。
助っ人は元フライトアテンダントで構成されており、全員プルシアンブルー製のスーツや衣服を纏っているので「見てくれの圧」が栃木県と岡山県の県職員や政令市の職員に掛かった。助っ人の所有する非売品のノートPCとタブレットにAIが組み込まれており、助っ人の座席には360℃卓上カメラが置かれている。
AIは助っ人の業務をサポートしながら、部門全員の仕事内容を見て、個人個人を評価し、部門の週報を纏めて県知事・市長に報告する。そんな報告をAIがしているのを、各部門の長は知らない。 

役所内の幹部会議の場で各部門長が部門の報告をする場で、エース級の助っ人が2人も加わったので、仕事があっと言う間に終わり残業時間が無くなったと謝意を社交辞令の様に告げた後で部門の報告をするのだが、既に知事と市長はAIから聞いているので、報告を聞いて頷いているだけだ。
当然ながら新知事・新市長に取り入ろうと作文し、過大評価し、夢物語も散りばめられているのだが、知事と市長はAIから報告を受け取り実態を知っているので聞き流しながら、次の一手を模索し、伝家の宝刀「富山県の実績の数々」で切り込んでゆく。
「ところで市バスの運転手の採用はどうなっている?」
「県立図書館の蔵書が県民のニーズと合っているだろうか?老人の寄り合い施設になってないか?」等と、AIが並べた数多くの問題点の中から、「早期に是正可能なもの」を知事と市長が訊ねてゆく。

新知事と新市長は「油断のならないヤツ」「妙に詳しい」と職員たちの間で評判となる。
トドメに富山県と富山市における県庁改革、市役所改革をベースにして、知事と市長が改革プランを提案すると「出来る奴」と言われるようになる。

与党の県議も市会議員も仕事をしない。
与党の国会議員が官僚に仕事を指示して、パーティー三昧、企業と懇親会して私腹を肥やしているように、県の職員と市の職員に仕事を投げて、議会では資料を読んでいるだけに過ぎない。
ある日、資料のレベルが高い事実に議員たちは気付く。急に職員のレベルが上がったと喜んでいるのも束の間、県議と市会議員がどの職員を利用しているか、議員との間で職員がどのような関係にあるか、知事と市長が役所内の勢力図を詳細に把握しているのは・・・ご愛嬌だ。

当初議会の場では、新人の知事と市長としてお客様状態で聞いているが、知事と市長はこっそりとAIと協議しながら役所内の力関係の組織図「マップ」を完成させてゆく。
その上で知事と市長としての改革案を出し、担当議員と担当職員を抜擢する。
「県内各所のPCR検査場の新設」
「市バスの運行管理のAI導入」
「県警の防災システム刷新、県内交通情報管理センターへのAI導入」
など、富山県で実績があるのでバカでも出来る仕事を担わせて、抜擢した様に見せかけた議員と職員の実績とする。
知事と市長は「指示しただけだ」と嘯いていればいい。
そのようにして若手の伸び盛りを育て、重鎮を適度に喜ばせ恩を売っていくと、着任間もないながらも「さすが社会党知事」「新市長は凄い」といった内外の評価となる。
何より一番喜ばれているのは、日々の仕事が終われば各部門長も職員も定時上がりせざるを得ず、残業をする人々が居ない事だろう。
知事も副知事もとっとと帰宅するようになる。

***

「何故、議会と役所の職員も手懐けているのだ?」
「この県内の交通改革はなんだ?完璧ではないか?」
「市営バスの待ち時間が減った。運転手も楽になったと言っている。バスの利用者も上昇に転じたようだ」
と、プラスの話ばかりで マイナスどころか、弱点が一つも見当たらない。
ガソリンスタンド、低価格スーパー、安価な小麦、トウモロコシ等の穀物供給で県民と市民は喜んでいる。何しろコロナ対策が万全となり、感染者数は週毎に減少している。
逆に、周辺県と周辺市の住民の不満の方が高く、政府の支持率低下に繋がっているとレポートに纏められている。
来年2021年に行われる各県の知事選で、社会党の攻略ポイントを探るのが目的だったのだが、違った。社会党首長の短期間の実績だけで敗れてしまう。現職の知事・市長はなんの実績も上げていないからだ。

「社会党が擁立し、推薦する候補者には当面勝てない」とレポートに結論付けられ、内閣府は項垂れ、与党の閣僚達は絶望していた。     

首相補佐官の新井は笑っていた。
「拉致被害者の開放となったら、終わりだな」と。 
ーー

樹里が引率する格好で高校生4名を富山県庁に連れてきた。勝手知ったるかのように購買に顔を出し、そこで働く三男で高1の海斗を見て、食堂の厨房に居る次男で高2の歩を、皆で眺める。
「B定食とかじゃなくて、カレーなんだ・・」
「そんくらいしか出来ないでしょ、短期バイトの男子には」
と、樹里が想定していた通りのコメントを聞きながら、モリ兄弟の元を去り、副知事室へ向かう。約束の時間より早かったが、村井幸乃副知事と副知事秘書の志乃の姉妹が一行を出迎える。

高校生の先輩でありOBの大学生4人から、
「高校生らしく表敬訪問して、富山県庁について学んで来なさい。知事の家に泊まらせて貰って、ブルネイでもモリ邸に居候するんだからね」と命じられ、樹里を道先案内人にしてやって来た。
引率の樹里にしてみれば、大抵自分に廻ってくる類の話だ。養女の中で年功序列の最下層に位置し、同学年のサチの方が養女カースト的には上位なので、お約束の様にお鉢が廻ってきた。それに、母親と叔母の話をサチが聞きたいと思う筈がない・・   

「県職員の方々の意識改革が徹底されたと伺っていますが、具体的にはどのようにされたのでしょうか?」  
あゆみが連れてきた姉妹の姉が質問する。確か、高校の生徒会長さんだったっけ?と樹里は昨年の高校時代を回想する。     

「まず、富山県庁の各部門にムービーカメラを設置して、県の職員の皆さんの仕事内容を1週間づつ記録を取らせていただいたの。部屋全体をカメラで撮るのではなくて、例えば、総務部のエース格的存在と他薦された職員さんのPCのモニター横にカメラを設置して、つぶさにエースの仕事っぷりを記録に撮っていったの。
その撮った映像を、週ごとにAIに見てもらいました。AIが分からない点、理解できなかった点などの質問を項目として纏めて、エース職員に提出し、質問内容に応えて貰った内容をAIが再学習してゆく。そうして、県庁内・市長内の仕事をAIが完全にマスターしました。
AIが役所仕事を理解するのと並行して、富山県庁と市役所の職員を講師に招いて、プルシアンブルー社が雇用した60名の社員に研修会を行いました。内容的には新人の公務員が役所の配属された際に受ける研修と同じものね」
ここまで、実際に使ったマニュアルや資料を使いながら説明していた。

「30人づつに分かれて、社員にAIのインストールされたPCをもたせました。こちらで配属部署を決めていて、2名づつ、県庁と市役所の各部門に配置したの。
エース級の新人が各部署に2名現れたら、その日から仕事が次々と片付けられていった。
エース級以外の職員はびっくりするわよね、突然現れた新人2人の方が役所の仕事を知ってるし、自分達よりも仕事が出来るんだもの」

「なるほど。エースが3人に増えたから、周りの職員も仕事の相談が今まで以上にできますね」

「そうね。新人がタブレットAIの方を職員に貸して繁忙期を乗り切った事もあったみたい」

「すみません。元々いらっしゃった職員だけでは仕事がこなせない状況だったと聞こえました。残業が当たり前の風潮が状態化していたということでしょうか?」  
今度は玲子が推薦した高2の娘が質問する。
「風潮が状態化って、あなた17くらいでしょ?」まだ18の樹里が、さすが玲ちゃんのお気に入りだね、と2人目も警戒する。

「えっと、ご両親が公務員の方はいらっしゃるかしら?そう、居ないのね・・背景には日本各地の役所で公務員削減が始まったの、公務員の給与が高いっていう作為的なキャンペーンが始まっていた。同時に、役所は出費を抑えるべきだ。消費税が上がるのはゴメンだって感じ。
それで役所は、定年になった方の補充を十分に行わないまま人員を減らし続けた。でもいつかは限界が来る。役所内で人事異動で切った貼ったをしたって、出来ないものは出来ない。
当時、一番分かりやすいのが、郵便局と郵便貯金を民営化したの。えっと、阿東さんは横須賀にお住まいだったわね?あなたのお住まいの土地の議員さんの父親が首相だった頃、民営化すればコストが下がる。郵便料金も下がるし、何より税金が浮くって。塩とタバコの専売公社が無くなったのは誰のときだっけ?
まぁいいわ。でも、公共放送は残したのよ、あれは国民が視聴料を払ってるから財務省の負担にはなってなかったからね。何でもかんでも民営化すればみんなハッピーっていう風潮が蔓延していて、役所も公立の学校も大変だったの。なぜか目の敵にされてね、でもコストを下げるには別の方法がありますって、非正規雇用っていう概念を突然持ち出した民間の大臣がいたのよ。で、あれよあれよと法案が通ってしまった。
皆さんの学校の先生の中にも非正規雇用の先生って、いらっしゃるでしょう?モリ先生よりも安いお給料で教壇に立っている先生が」

「はい、モリ先生が率先して先生方を手助けされていました。定期的に食事や宴会を開いて、全部費用負担されて。社会科と英語の教師にはご自分の授業マニュアルまで提供されて、数学の先生には教えるものが何もないので、別の学校の数学の先生のマニュアルを借りてこられて・・」

「え?そうなの?」樹里も知らなかったので思わず口にした。

「はい。今でもお金を送ってくれるそうです。都内の学校の教員の空きも、都の教育委員会に掛け合って探しているようです。
先生が解雇される際に、職員室でおかしい、変だって声を上げられた先生方で、こんな生徒たちから慕われている教師は居ない、取り消せって最後まで頑張ってました」

「知らなかったよ、・・教えてくれてありがとう」その笑顔に、樹里は参りましたと胸の中で謝った。

幸乃副知事の後を志乃が補足し始める。
法制が整うのと同時に人材派遣会社が派遣労働者を役所、学校だけでなく、民間企業にも送り込むようになる。   
役所は公務員よりも安く、企業も正社員よりも安く人材を獲得し、人材派遣会社は派遣労働者から上前をはねて搾取し、非正規雇用者として安い賃金を提供して来た。

「富山の役所からこのサイクルを無くすのが先生の狙いだった。実花ちゃんから話を聞いて漸く分かったよ。信念から出て来た制度なんだね。
で、プルシアンブルーから優秀な人材がやって来ると、人材派遣会社からやって来た人達は一時的に浮いてしまうでしょ?
プルシアンブルー社はそんな彼等に声を掛けて、我が社に来ないかって転職を促したの。
役所にいたから教育は最低限に留めて、AIを新たに提供して富山県の他部署に配属していった。
それで富山県庁と市役所の非正規雇用の労働者は居なくなった。今は、栃木県と岡山県と政令市3市でも同じ用に非正規雇用者を減らし始めている。来年の知事選、政令市の市長選に向けて150人が新たに研修中なんだ」

「大学を出たら、その研修を受けてもいいですか?」姉が推薦した娘が手を上げながら立ち上がった。樹里はウチら姉妹の考えそうな話だと思って頭を抱える・・・「類は友を呼ぶ」だ。

「いいけど、大学卒業はまだ先の話でしょう?」

「47都道府県と47の政令市は、5年後には全て社会党知事と社会党市長になっています。つまり社員になる枠が急激に減っているはずです。私、プルシアンブルー社の社員になりたいんです!」 

「ともちん、それ、みんな思ってるから。抜け駆けはダメだよ」
姉妹の妹さんに言われて、ともちんと呼ばれた娘は落ち込み、皆が声を出して笑った。

(つづく)


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