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(8) オリノコタールの呪縛


グアムの米軍基地から北朝鮮までの飛行時間は僅か2時間。2機のB1B爆撃機が装備を満載して長津基地へ降り立った。
元事務総長と航空自衛隊へのプレゼントだと言うので、司令はありがたく受け取った。早速、地上スタッフが整備マニュアルで手順を把握し、パイロット達は米軍からレクチャーを受け始めた。直に分かった。さすがはボーイング製、思いっきり航空機だった・・

「これ、イーグルワンも操縦できるぞ・・」誰もが思った。イーグルワンはモリの自衛隊名だった。本人はそう呼ばれている事すら知らなかった。
それに、航空機のAIでそのままイケる事も直に分かった。B1を輸送してくれた米軍クルーとスタッフをC2輸送機に乗せて、在韓米軍の基地まで向かったのを見送ると、早速AIの設置作業に入った。小松基地での作業は要らなくなった。ここ長津基地で完成してしまおう。

整備士は2機のB1から兵器をすべて降ろし、自衛隊が採用している兵器との検討に入った。どうせなら自衛隊の兵器の方が良かった。米軍の兵器は、どれもこれも劣る。
発射装置の交換作業に取り掛かって行った。

プルシアンブルー社ではサチがチーフとなって、あゆみと彩乃の3人で、北米に展開している衛星を幾つか引っ剥がして、中米・南米へと移動させた。北米のサービスレベルを最低限にして中南米をマックスに引き上げた。特に、ベネズエラのAI能力は日本と日本統治領並のレベルに設定された。
サミアは衛星の配置が完了した事を受けて、手薄になった箇所に最新の衛星を配置する計画を立てていった。今回便乗するのは、アメリカ大陸では皆無だった監視衛星だ。モリが利用するための、最適な環境をサイジングしていった。

Red Star Bank北京本店は、役職者会議で満場一致で採決すると即座にカラカス支店のモリ大統領の個人口座に、5000億ドルを入金した。従業員総意の判断だった。モリ頭取への返却不要の特別融資だ。後で、怒られようが構うものかと社員達は思った。私達にはこんな形でしか、応援するしか方法がなかった。

阿里・巴集団は香港のEver航空の輸送機にA/ipayのシステム一式を積み込むと、チームと共にベネズエラに向かった。モリへのせめてもの恩返しだった。ベネズエラ都市部の店舗向けに、キャッシュレスサービスを設置しに、向かった。

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カラカス周辺に居る軍の視察を終えて、大統領府に帰ってくると、「大統領就任祝い」がごっそりと届いていた。どの国も「大統領」と書いてあるので頭に来た。何が大統領だ、話が違うではないか。事務総長に文句を言おうとして止めた。そんなのは何時でも出来る・・それより、これからどうしよう・・と、大統領執務室でビールを飲み始めた。

翌朝、この数日見ていなかった個人メールを見て驚いた。
とんでもない事になっていた。それぞれが勝手に動き出している・・ロシア軍が総大将になって国連軍を結成? 空母サンクトペテルブルクが5日後に到着、それに合わせて各国から輸送機が到着するとある。「え?なにそれ?」だった。お借りできるなら有難く使わせていただくとしよう。国連軍ならば費用の心配は要らない。

そしてB1爆撃機が2機 こちらに向かっていた。テスト飛行を兼ねており、一機は置いていきます。一機はベネズエラ軍の武器や兵器を貰って、積んで帰りますとある。自衛隊として、しっかりと分析してくれるという事だろう。しかも操縦はジェット機と全く同じらしい。また自家用機が増えた。

なんだ、今日は良い日じゃないかと思った。しかも、お小遣いまで貰った。
「倍返しって事だろうな・・」朝から湿っぽくなった。

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軍司令官に、ロシアの国防長官から連絡が入り、各国の部隊が到着するので、兵舎の確保をして欲しいと要請を受けたと言う。ベネズエラ軍に緊張が走った。ロシア軍は全く予想していなかったからだ。
自衛隊だと思っていた矢先のまさかのロシア軍、しかも陸海空軍の揃い踏みでやってくる。原子力空母に、原潜に、巡洋艦まで・・恐怖以外の何者でも無かった。優しいと評判の自衛隊、その対極にある軍隊がやってくる。各部隊は騒然としていた。しかも、通訳のミスなのか伝達ミスなのか、内容が間違っていた。やってくるのはロシア軍だけでは無かった。

大西洋をロシア艦隊を筆頭に各国の艦船の南下をキャッチした米軍は、何事が起きたのかと思いながら監視を続けていた。そこにイギリス、フランス、スペイン、ポルトガル、ノルウェー、フィンランド、スウェーデンの艦船がロシア艦隊が南下するにつれ、次々と加わっていた。ロシアとNATO軍が艦隊を組むという前代未聞の絵柄が目の前に展開されている。これにマスコミが飛びついた。「最強チーム、ベネズエラへ向けて進撃中」と報じられた。

「やはり、君の親父さんは凄い人だ・・」北韓 日本代表理事の堺が呟く。

「驚きです。なんですかね、この映像は」歩が啞然とした顔をしている。

ベネズエラに一人の男が赴任しただけの話。それでもこれだけの軍隊が動く。元国連事務総長の移動だから、という話ではないだろう、音頭取りが居なければ、こうはならないと歩は思った。

「今回の首謀者はこの国だよ。間違いない・・」上司の堺が空母を指差すが、歩にはその空母がどこの国のものなのか、分からない。境は海上自衛隊の元海幕長だった。

「この空母は、どこの国の艦なんですか?」

「ロシア、ウリヤノフスク級原子力空母 サンクトペテルブルク。この空母を動かせるのは・・大統領だけだ」堺がくっと言ってから泣いた。

歩は驚いた。ロシア軍が国連軍を統率するだって?そんな事があるのか?

ロシア原子力空母が先陣を切っているのは意思表示に他ならない。ロシアは黙っていないという、暗黙のメッセージだった。
ペンタゴンは震撼していた。マイアミ沖のソナーがタイフーン型原子力潜水艦2隻を感知し、その後追走するフランス原潜、イギリスのディーゼル艦を確認した。どの艦も存在を誇示するように、航行していた。米軍には声すら掛けなかったのは、ロシアの怒りを知らしめていた。しかも怒っているのは、大統領その人だ・・

「これはマズイ!」国防長官はアメリカが矢面に立っているのを大統領へ説明しようと部屋を出た。しかし既に国務長官が部屋にいた・・

「なぜ、撤回できない!一言、間違っていたと言えばいいだけのことだ!」

「あなた、誰に向かって言ってるの!」

「あんただ! これ以上、世界を混乱させないでくれ。もうこれ以上、アメリカを壊さないでくれ!」

「どこが混乱しているのよ!こんなに平和な世界なのに!」

「この分からず屋の、メルヘン女め!もう勘弁ならん、辞めてやる!今すぐクビにしろ!」

国防長官が国務長官の口を慌てて抑えようとしたが間に合わなかった。この一件で国務長官の解任が決まってしまった。

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初めての閣僚会議で皆が緊張しているのが分かる。「どうしたんだろう」と思う。昨日は一人一人とそれぞれ会談して、いい雰囲気だったのに・・
会議の途中で、国防長官の所にメモが届けられた。
「大統領、会議の途中で申し訳ありません。日本の航空自衛隊がミランダ空軍基地に着陸許可を求めています。それが、米軍のB1爆撃機2機なのですが・・」

「ああ、それは私の専用機になります。着陸許可を出してください」どっと場が喚いた。

「専用機なのですか? 爆撃機が?」

「ええ、なんでもボーイング製で、私でも操縦できるそうです」
また、慌てた雰囲気になった。

「分かりました。では、着陸許可を出します・・」 

大臣は何を動揺しているのだろう、とモリは思った。

空軍基地は大騒ぎになっていた。退役間近とはいえ爆撃機2機が、滑走路に降りてきたからだ。しかも着陸した状況から、相当の「荷物」を積んでいるのが分かる。機体は案の定、かなりの距離を走って止まった。
その機体から、にこやかやな顔をした東洋人が出てきたので驚いた。フライトスーツには日の丸がついていた。それに全員、全く疲れたようには見えなかった。ベネズエラ海軍と空軍は震撼していた。明日は、陸軍もおののくことになる。

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通貨がハイパーインフレによって意味を成さなくなり、ドルを流通させることで強引に物価を安定させた。経済が何も改善せず、悪化の一途を辿っていた。自国通貨のインフレーション自体は依然進行したままインフレ率も天文学的なものとなり、何年も前から政府もIMFも、公表するのをやめていた。
IMFや国連が関与していても抜本的な手段が何も打ち出せず、単にドルに通貨スイッチして、その場にフタをしただけで終わっていた。
何故 策を講じる事が出来なかったのか、

事の発端は1992年軍部によるクーデターに始まる。以降、現在の政権まで続いている。このクーデターを許容出来ない米国が、CIAが暗躍して更なるクーデターで民生化しようとしたのだが失敗、軍部が実権を握ったまま40年が過ぎた。誰も彼もがお手上げになったのは、ベネズエラが世界最大量の石油を保有しながらも、その石油の質がネックとなっていた。石油は液体で土壌中にあるので、様々な物質が溶け込みやすい。その含有物質を取り除いて、始めて価値が出る。採取できた石油はそのまま利用出来ない。
最も良質な石油はサウジのような中東諸国で、石油を掘り出して製品とするコストは、1バレルあたり5ドルと言われている。イランはそこまで安くはない。ベネズエラの石油は採取されたオリノコ川流域の地名がついた特殊な油質で、オリノコタールと呼ばれる。地球上の石油で最も多くの不純物を含む。不純物を取り除くためにナフサを取り入れて付着させるなど、化学処理が必要な為に最も石油生産コストが高い。1バレルあたり60-70ドル掛かると言われている。

中東戦争、湾岸戦争と続き、石油の価格自体が高かった頃はそれでも、利益が生まれた。埋蔵量自体はあるので我が世の春と軍事政権が金を国民にバラ撒いた。働かずとも金が分配され、石油輸出だけでGDPを上昇させた。
やがてアメリカでシェール革命が起きて、アメリカが石油を輸入に頼る必要がなくなると、ベネズエラは最大の顧客を失った。ここが最初の躓きとなる。中東各国もアメリカへの輸出が途絶えた。アメリカが輸入を止めると、石油の価格が一気に下がった。これが2つめの躓きとなる。ベネズエラには逆ザヤ現象となった。石油の価格が1バレル20ドルになると、オリノコタールから不純物を取り除いて輸出すると、1バレルあたり40-50ドル以上の大幅な赤字となる。ここに至り八方塞がりとなった。石油価格は暫く安値のまま推移した。自然エネルギーへの転換で、石油需要そのものが減少し、急激な価格上昇は最早ありえなくなった。今でも石油価格は50ドル台、故に使うに使えない石油となっている。
そして最大の躓きはベネズエラの国内産業にある。輸出を石油に頼りきり、放漫財政で浪費癖が染み付いた政治と、労働しないでも食えた自堕落な国民が居るという状況にある。
その石油が使えなくなったのだがら、インフレーションが加速していった。経済悪化の為の条件が、ベネズエラには見事なまでに揃っていた。
経済制裁を解除しろとベネズエラ軍事政府は叫び続けた。経済制裁の解除をしたところで、石油を売れば大赤字だ。石油を安価に生産できるノウハウでも用意されない限り、もしくは、中東で戦争が起きる確率は・・前事務総長の活躍でそんなものは100%無くなったが、そんなことでも生じて、石油価格が高騰するかの何れかしか道はなかった。

こんな粗悪な油質の石油も含めて、一切合切を埋蔵量にカウントして、世界一の埋蔵量があると喜んでいたのが、粗忽な軍事政権だった

ドル紙幣の絶対数も足りなかった。銀行には連日のように、ドル紙幣を求める人が並び、ガソリンスタンド前には既にガス欠でエンジンが掛からなくなった自動車の列が並んでいた。産油国でありながらガソリンを精製するプラントをこの国は持っていなかった。
隣国コロンビア国境を目指す人々は経済破綻が始まってから留まる事はなく、国境の街には巨大な難民キャンプが出来ていた。

モリが事務総長時代は、現事務総長がウルグアイ人で、彼がアメリカ大陸を担当していた。ベネズエラ問題の専門家のような顔をして、対処していた。しかし、インフレ率が天文学的な数値になるにつれ感覚が麻痺していった。モリはアフリカ、中東、アジアと獅子奮迅の働きをしていたので、中南米まで、対応する余裕は全くなかった。
その中南米担当者が国連加盟国によって選出されて事務総長になった。これでベネズエラを含めて中南米の諸問題は変わるだろうと言われていた。だからこそ、彼が抜擢されたと聞いていたのだが・・駄目だったようだ。

ベネゼエラを改めて俯瞰すると、この国には3点の救いがあると見ていた。
まず一つが、南国なので凍死は皆無であること。餓死の可能性も極めて低い。バナナや木の実は広大なジャングルや山へ行けば、手に入る。サバイバル生活に戻れば、生きては行けるはずだ。しかし、この国の人々はバラマキ政策で都市型住民となり、オコボレ頂戴グセが身についている。9割近い国民が都市にへばり付く様に生活しており、今は国連の食料配給を待つ日々を過ごしている。長年に渡るバラマキ政策で勤労意欲を失っているため、サバイバルな生活には不向きな人々でもある。
この「都市に人口が集中している」点は、光明となると見ていた。理由はベネズエラの地図を見れば一目瞭然。広大な土地がありながら、都市は海岸線に沿って作られていた。内陸部は手付かずの大自然が広がる。さながら日本の太平洋ベルト地帯に人が集中して居住しており、日本海側は人が全く住んでいないというイメージに近い。
最後の救いは国民が2000万人足らずだった。経済が困窮しているので、人口増加も生じていなかった。

これらの状況を踏まえてモリが始めたのは、極めてシンプルなものだった。
まず、都市型住民の国なので、戸籍制度は極めてしっかりしたものだった。公務員の給料が安く、ほとんど働かないという問題はあるにせよ。情報はしっかりと管理されていた。
そこで役所が機能していない現状を打破するために、デジタル行政化を推進する。この登録作業の為に「公務員にお金を払ってアルバイトのように働いて貰った」公務員の月給がたったの5ドルだった。「実費が貰えなければ何もできない」と言われると何も言えなかった。副業に勤しみ、役所に殆ど出社しないのが当たり前になっていた。

全国500万世帯にAIタブレット支給する決断を下した。ネットワーク自体はプルシアンブルーの衛星ネットワークを開放するので、無料だ。
「タブレットを各家庭に配布するので、市役所まで来て下さい」と、各市役所から市民にアナウンスしてもらう。
市役所にはAIロボットが居て、家長のIDと戸籍を見比べて「その家庭用のタブレット」を渡す。その際に所得証明や納税の有無の他に、「拳銃持ってませんか?」と聞く。
新しい大統領令が出ていて、拳銃による事件を起こした者は重罪となります。拳銃を所有しているのが発覚すると逮捕します、と説明する。
「いいえ、持ってません」と住民が言うと、「今の発言内容は映像で確認、録画されました。では最後に拳銃を持っていない、タブレットは受領したとして、ココにサインして下さい」と告げる。これで6割の銃が回収できた。

そもそも、職が無いので住民票発行業務も無い。引っ越しによる移動など行政サービスも皆無に等しい。では、何故タブレットを渡したのか? 理由は幾つもあるのだが、最大の理由はデジタル通貨だ。このタブレットにはRed Star Bankのデジタル通貨機能を持たせている。富裕層を除く450万世帯向けに、ベーシックインカムを始める。一人あたり1週間5ドル支給という極めて低いものだが、国家財政破綻後は公務員の月収が月5ドルにまで下がっていた。この国では高額なものとなる。
ドル紙幣がタンス預金されており、ほとんど流通していないので、デジタル通貨を利用した。阿里巴・集団が中国から持って来てくれたキャッシュレスサービスの為のリーダー装着などを、レジと接続、設定して貰うことで、各都市の主要な商店に配置することが出来た。物資は国連の援助があり、モノは少ないなりに店舗にあった。商品の拡充が次の一手となるが、とりあえず、貰うことに慣れている住民生活を繋ぐ事が出来た。

このベーシックインカムとデジタル行政サービス開始にあたり、Red Star Bankは担保として石油、鉱物などの国家資産を接収した。表向きは社会主義を表明している国だったので、企業は全て国有企業で、極めて簡単に大統領管理下に置けた。採掘事業そのものを停止、会社自体も一斉休業とした。ベーシックインカムで頑張って下さいと伝える。何しろ給料よりもそちらの方が高いのだから誰も文句を言わなかった。

次は商店に最低限の商品を用意しようと各大臣に作業を分配してみたものの、この大臣達もまた全く使えなかった。各省庁の役人も月5ドルの給料だったので、働く意欲を逸していた。指示を出しても動こうとしない。早々にこの国の人々に頼るのは諦めた。
懇意にしているインド財閥と、梁振英から事前に紹介されていた中国の食料会社にコンタクトした。

産油国でありながら、ガソリンは輸入に頼るというとんでもない国なので、まずは調達しなければならない。ガソリンですら、国連からの援助に頼っている国だった。その為、メキシコでガソリンを積んでタンカーで配送する契約をインド財閥企業との間で取り交わし、運搬して貰うようにした。中南米にはイギリスが植民地だった国々があり、労働者としてインド人が住み、印僑として生活している方々がいる。ベネズエラのお隣の国ガイアナも人口の4割がインド人だ。それ故に、インド財閥企業がカリブ海へ進出していた。
食料調達は中国の会社にお願いした。彼らはブラジル、アルゼンチンに契約農場を持っていた。梁振英から紹介して貰った企業なのだが、買い付け能力も高く、食料調達はお手の物だった。大いに安堵した。こうして他国の企業に頼るしか無かったのも、日本企業はどこも冷淡だった。元々、進出していないというのもあるのだが、ベネズエラ自体が失墜しているので、信用調査が通らず、取引自体が出来なかった。
モリが着任したのだからと、インドと中国の企業が気前よく助けてくれたのは、殊の外、有り難いことだった。彼らが請け負ってくれなければ先に進むことは出来なかったかもしれない。

暫くしてガソリンがメキシコから到着すると、給油待ちの車が動いた。小麦、トウモロコシ、豆、鶏肉の物価が落ち着いていくとホッとした。難民の方々、国外へ出た方もいるので人口は推定でしかないが、2000万人未満と人口も少なく、北部の海岸都市に集中しているのは助かった。物資供給後の回復への反応は極めて早い。嘗てのイランと北朝鮮の援助活動と比して、即効性が高いのは不幸中の幸いだった。

ここまでの費用は全てモリの持ち出しだ。鉱物資源を大統領令で接収したとは言え、掘り出さなければ無用の長物に過ぎない。しかし、石油は今の状態では売っても赤字だ。それに30年以上施しに慣れてしまった国民は働こうとしない。口を開けて食料が運ばれるのを待っていた。やはり、彼らに頼るのはやめようと決心した。

1ヶ月経つと、鉄道でヨーロッパまで運ばれ、積み替えられた輸送船団が次々と港へ到着する。石油・ガス依存のインフラの改善をしようと、太陽光パネル、電気を生産する水素発電と水素ステーション、水素発電列車の輸入した。それから、石油精製プラント建設だ。ガソリンで買うよりも、石油の価格が安い時期なので、仕入れて自分達で精製すれば、日本のガソリン価格より安く販売出来る。日本のようにガソリンに税金を加えていない。

全く稼働していなかった数々の工場の設備をベネズエラ軍に外に運び出して貰い、伽藍堂となった建屋で発電機や水素ステーションを組み立ててゆく。
水素発電列車は、点検と試運転が早速始まった。港に石油精製プラントの組み立てを始めてゆく。これらの施設の着工と運用に、日本企業の皆さんにご活躍いただく。

更なる食料調達のために隣国のコロンビア政府に土下座して供給をお願いする。契約と運送は先の中国企業と,香港の海運企業に依頼した。

ベネズエラの農業はコーヒーとカカオの生産に特化していた。広大な農地も無かった。
日本の2.5倍の広大な面積はジャングルとギニア高知とパンパのような草原地帯で、農地が絶対的に不足していた。それに9割の都市部住民は働かない。農業なんてと絶対にやろうとしなかった。モノが出揃うまで、何も出来ないもどかしさがあった。救いは熱帯の国という環境面だった。ラテンの乗りはこの国にもあった。底抜けの笑顔と、「何とかなるさ」という超楽観主義はイランと北朝鮮には無い物だった。

AI工場に働いて貰うのが手っ取り早かった。反則級の一手だが、最初からこれに頼ると決めていた。工場の建屋のパーツから、太陽光パネル、工場内の生産ライン、AIロボット全てを日本から取り寄せた。
パンパのような草原地帯を工業団地にして、ロシア軍の指揮のもと、ベネズエラ兵が工場の基礎工事に取り組んでいた。

(つづく)


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