(4) Rules the world(2024.3改)
マレーシアで開催されていた4カ国会議から戻ったマイゲル・ボルドン元大統領補佐官を中心にして、大統領と国務長官、国防長官、CIA長官、外交担当が集まり、ホワイトハウスの会議室で北朝鮮での今後の方向性について協議していた。
米国側も事前に想定していたが、中国とロシアが農業・漁業の一次産業分野ではプルシアンブルー社の援助が必要だと再三に渡って言及したという。
政治的な制約によりプルシアンブルー社の技術提携が望めない中露が、人道的な支援を受ける北朝鮮という環境下で農耕バギーや運搬用ドローン等の無人化テクノロジーを検証したい意欲をあからさまにしてきた。
駐日中国大使とロシア大使は、日本の外務大臣に再三接触し、プルシアンブルー社の北朝鮮援助参入を促しているとも聞く。
一次産業だけではなく富山県内のトラム・路線電車・巡回バスで導入が決まった 運転・車掌ロボットを、北朝鮮内でも適用してはどうかと提案を持ちかけているらしい。
半島の当事者である北朝鮮と韓国は「日本人技術の浸透」に嫌悪感を滲ませていたという。テクノロジーに依存するのではなく、豊富な朝鮮族の人的資源を最大限に活用する手段を唱えていた様だ。
しかし資金を出す米中露にとって見れば、今更ながらの人海戦術はビジュアル的に受けが悪い。「先端技術」を取り入れた方が、説得力のある映像となり好ましい。プルシアンブルー社の参加要請は継続されるとボルドン特使は見ていた。
4カ国協議の話題から、プルシアンブルー社の「囲い込み」に議論が集中していった。
シンガポール政府がプルシアンブルー社との協議に動き出したとCIAが情報を掴んでいた。
プルシアンブルー社がミャンマー軍部のクーデターを防いだので一企業の枠を逸脱し、政治組織的な集合体と見做される風潮になってきた。
米国は同社を準国家的なものとして既に扱っている。政治と経済に明るいリーダーと、軍事転用技術を有する企業で構成された、今まで例に無い「組織」として。
プルシアンブルー社が関与した国家や組織が、何かしらの経済的な恩恵を得たり、防衛力が強化する可能性があると誰もが想像する様になった。同じASEAN内のミャンマーという「国の軍隊」を制圧可能な「組織」だと立証されたので、プルシアンブルー本社が現存するシンガポールが、同社の政治利用を目論むのも当然だろう。
プルシアンブルー社は各種製造業、サービス業が中心の企業だが金融機関を持っていない。
同社の海外進出が噂されている中で、M&Aや信用調査などマーケティングを生業とする企業や、ローン・クレジット機能を持つ金融サービス業等のシンガポール企業とのタイアップや協業パッケージによる展開を、プルシアンブルー社に提案を持ち掛けているという。
外交とは無縁の地方議員でありながら、縦横無尽にアジア各国で活動し、各国でのコネクションを深め続ける行動力と活動による成果を上げ続けているので誰もが欲しがる。急成長を遂げて拡大しているプルシアンブルー社の隙間を埋める提言・コンサルディングをシンガポールが施し始めた。客観的な立場で同社の健全な成長を促すプロの助言で企業経営を行い、モリと同社幹部の負荷を軽減出来ると囁く。不要だ、余計なお世話だと思いながら、程よく断っているかもしれないが。
日本政府と日本経済がプルシアンブルー社とモリを手中に収められず、一企業と地方議員を自由に活動させているのが、今の状況を招いているとボルドン元政務官は事の本質を突いてゆく。
「日本政府と日本経済の力量と能力の限界点をプルシアンブルー社とモリが熟知して行動しているので、日本の政府も企業は全てが後手後手となり振り回され続けています。今度は政党を立ち上げて、政治的に主役になる野心を顕にしました。
経済面では、シンガポール企業の看板を最大限に活用しています。武器輸出三原則や経団連といった日本ならではの柵を最初から無視する為です。日本に対して安保条約や非核三原則、憲法などの成長抑止のトラップを課したのは我々アメリカ合衆国ですが、プルシアンブルー社とモリは、最初からトラップの枠の外で自由に暴る事が出来るのです。
ご覧ください、現在も野党の体を取りながら日本政府を脅かし続けています。懇意な学者達を大臣として送り込み、日本政府を事実上操っている状態にあります。実に狡猾な男です。
我々の力を部分的に利用して拉致被害者を奪還し、金正思を自分は関与していない体を装って排除し、北朝鮮には関与しないと宣言して後の処理を我々に丸投げしてきました。モリの知能と能力なら、北朝鮮のあるべき未来を描いて プランを実行できるのですが、ビルマの方が重要だとして無視したのです。
正直に申し上げますが、無責任な奴だと私は憤慨しておりました。しかし、ミャンマーでクーデターを阻止してみせた後になって、モリの判断は的確で、私の方が間違っていたと反省しました。
モリはもっと先を見据えて、ビルマを分捕ろうとしていたのです。
我々の意に反してモリが表舞台に立った理由は、中国の進出抑止、拡大の防波堤となるのが目的だと察したのです。
ビルマが再興するのは確実です。タイと同じ農業国ですから、本格的な漁業農業支援を施せば軍事政権以上のGDPは簡単に達成できます。農作業を無人化して、あぶれた農民達を工場で雇用すれば、戦後復興期の日本と同じように成長するでしょう。
ビルマ経済が成長を始めると、周辺国は困ります。タイやカンボジアの軍事独裁政権をAIによる無人化軍事力で脅して追いやってしまえば、中国製兵器で固めたASEANの軍隊は軒並み降参するでしょう。ASEANの民衆は、自由を手にしたスーチーと、スーチーの背後で彼女を操るモリに靡いてしまう。そうなると最も困惑するのが中国です。
南シナ海は我々のものだと中国は2度と言えなくなるでしょう。AIで無人武装されたASEAN軍の方が、有人兵器で構成された人民解放軍より圧倒的に部があるからです。
断言しますが、台湾と香港、そしてオージーとニュージーランドもASEANの準加盟国になると私は見ています。
ミャンマーでモリが旗頭となったのは実は大きな意味があると気づいたのです。我々の要望に反して、スーチーという偶像を守った理由はASEANの拡大を睨んでいるからだと見ています。
毛沢東信奉者の習近々平とインド洋と南シナ海で正面から対峙する相手が、民主化を実現した将軍の娘の女性リーダーで、そんな彼女をモリが操るのです。皆さんはアジアの民衆がどちらに付くと思いますか?」
ボルドンがそこで周囲を眺めて反応を見る。紅茶を舐めて口と喉を潤わせると続けた。
「我々アメリカサイドが彼らを手中に収めようとしても、今回の北朝鮮・ビルマでの一件の様に、「結果」は成功しても、当初の計画とは異なるプロセスを取ろうとするので、手中に収めるどころか逆に下働きをしただけで同社の株価が上がり、モリ個人の名声を高めただけで終わりました。
我々米国ですら手玉に取ってみせる彼らを、最早認めざるを得ないだろうと考えています。
特定の国に属さず中立的なポジションを取りつつ、要人暗殺と武力制圧を立案し、実現出来る能力があるのです。実にとんでもない話ですが、そんな彼らの殺傷能力を知っているのが、ここに居る我々だけだと言う状況にも驚愕しています。
金正思と軍のトップを殺害したのは、金正男の存在しない息子だという茶番を、世界中が信じてしまっているのですから。
我々は、彼らを準国家的な存在と見做さざるを得ません。近い将来、いえ、次の総選挙で日本の政治と経済も牛耳っているでしょう。
要人暗殺はさて置き、ミャンマーでモリがフロントマン、計画の実行役として表に出た現況は極めて重要です。今後、アジアの情勢は大きく変わるでしょう」
大統領も国務長官も面と向かって協議をしてきただけに、モリの潜在能力の高さは認識していた。大統領の親類のアジア担当責任者と、駐日大使の強力な推薦に乗ったら、大統領選で勝利を収めたのだから。
マイゲル・ボルドンが言う様に、世界が注視する米中露EU3カ国プラス1連合の動静に加えて、モリと同社の動静情報がほぼ対等に扱われる様になった。
アメリカの関与の痕跡を上手く隠蔽してしまうモリの狡猾さにより、フリーの立場に見えてしまうプルシアンブルー社を、取り込もうと考えるのは当然とも言える。
最も有利なのは、同社の本社のあるシンガポールであるのも頷ける。
元々法人に対して有利な税制を敷いている国家だが、何らかの個人への特別特権をモリと企業幹部に与えて、シンガポール政府の外交戦略にプルシアンブルー社を活用しようと考える。諸島国で国土面積が小さな国が、大国からの関与や影響を受けずに成長し続けるには格好の相手となる。
シンガポールが未来の大国と呼ばれる日が来るかもしれない・・ボルドン元政務官が話を再開していた。
「・・同社の株価が急騰したので、既にシンガポールは利益を得ています。法人税の優遇措置やモリを含めた幹部の納税額優遇、遺産相続税の破棄等を提案するのは当然でしょう。
税の対象を家族まで広げたら、モリには好都合でしょうね。養女と寡婦が何人も居るそうですから。それに、シンガポールには可能でも、日本では絶対に出来ませんからね」
「我々にも出来ない・・」ボルドン元補佐官の発言を受けて、ライシャワー国務長官が呟く。国務長官の手元には、モリがシンガポール首相と握手を交わしている写真が一面に掲載された、ニュ〇ヨークタイムズがあった。
「長官、決して不可能ではありません。我々には様々な同盟国があるではありませんか。
中にはマネーロンダリングが得意な島もあれば、シンガポールよりも広い土地を持つ植民地のような国もあります」
ボルドンが笑うと、ボルドンの右目の端で大統領が体を起こすのが目に入った。
「北朝鮮を上手く使えないだろうか。朝鮮半島内に経済特別区を作って、そこの税制管理を我が国が行う。参加したモリの会社は特別会計とするんだ」
「それは少々難しいですね。北朝鮮市場に参加する企業には公正であるべきです。
北朝鮮が社会主義国なので、賄賂ありき、依怙贔屓が常態化しているので世間の監視の目は徹底するでしょう。それに、プルシアンブルー社にも負担になります。裏帳簿作りや不正会計処理を求める事になるのですから」
「それはシンガポールでも同じだろう?」ライシャワー長官がボルドンを見る。
「彼らは帳簿も含めた不正会計処理を政府内で代行するでしょうね。長官、お忘れですか?シンガポールは先進的な北朝鮮という名称がある独裁国家なのですよ」
「それでは・・敵わないでないか」
「モリの存在を忘れてはなりません。彼は政治家でもあります。統制力もある。少数民族を瞬時に纏め上げるカリスマ性はCIAのレポートにも有りましたよね。
羨ましい事に多才で、おまけに見栄えも良い。例えばですが、中南米の何処かの国をビルマの様に彼に預けて見てはどうでしょうか?プルシアンブルー社をアメリカ大陸にも進出させるのです」
「パナマか?」大統領が食らいつく。
「それも良いでしょう。ですが、日本人にパナマ運河を譲りたくはないのが私の本音です。
そうそう、こんな話も耳にしました。東南アジアで論文を書いた学生時代のモリは、中米のみならず南米にも訪れています。同じモンゴロイドが居るエリアは彼の琴線に触れるのかもしれません。彼が好きなサッカーとコーヒー文化圏でもあります。豊かで広大な土壌のある大陸で農業支援が大々的に可能で、工業製品製造の資源国なんていうのも良いかもしれません」
「君はどの国をイメージしているんだね?」国務長官も前のめりになってきた。
「債務問題を抱えるアルゼンチン、我が国と相性の悪いベネズエラ・ボリビアなんていうのを彼に解決して貰いたいのが本音ですが、いきなり大仕事を課すのも可哀想です。
パラグアイ、ウルグアイ、チリ、コロンビア辺りはどうだろうか?と考えております。ブラジルは日系人も多いですが、少々人種的にも複雑で手間になるでしょうし」
「APECと漁業繋がりでチリ、麻薬さえなければコロンビアなのだが・・パラグアイ、ウルグアイは日本との繋がりが希薄だな・・」
国務長官の俗物的な発言を嫌悪しながら、ボルドンはターゲットを一点突破に絞る。
「少々気になっているのですが、ビルマ産のヘロインはアフガン産に押されて市場流通量が少なくなっていますが、生産は維持されていると聞きます。恐らく中国向けに流通し、華僑のネットワークで世界中に拡散していると推測しています。
ボンぺオ長官、東南アジアのチームに情報提供を求めたいのですが、ワ族と言う部族がビルマに居ます。中国との結び付きが強い部族で、中国製のヘリや装甲車を持っている金回りの良い一族で、麻薬王クンサーの部下達が合流しています。モリはそんな彼らまで手なづけたのです。私は彼の製薬会社向けの需要ではないかと見ています。麻薬を使った新薬作り・・アフガニスタンのヘロインも、彼は視野に入れているのではないか?と見ています。
それが正解なら、コロンビアは彼の関心を引くでしょう。我々にとっても都合が良い、基地もあって米軍が駐留していますので」
「了解した。直ぐに調べさせよう」CIA長官がメモをしながら即答した。
ボルドンはトレードマークの白鬚を触る。慣れ親しいCIA長官に「コロンビアが私の本命だ」と伝えるサインだった。
土地の無いシンガポールを引きずり下ろす為には、広い農場と海、そして石油資源でも十分だろうとボルドンは見ていたが、コカ畑とケシ畑がもし有効活用されるのであれば、北米マーケットへの麻薬流入量を大幅に下げるだろうと期待していた。
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7日の夜、6市の市長選の結果が出た。最も注目されていたのは沖縄・浦添市長選だったが、現職候補を破って、浦添初の女性市長が誕生。6市長は共栄党推薦者となった。
14日と21日、28日投開票の市長選でも共栄党旋風が吹き荒れそうで注目が集まっていたが、浦添市長選では日米両政府が取り決めた、米軍那覇軍港の浦添市沖への移設問題が主な争点となっていた。
浦添市の隣、宜野湾市の普天間基地の撤退を米軍が表明した後を受けていたのもあって、反対派である野党候補が勢いを増していた。
投票日前日の6日は与野党の代表が浦添市入りして主要メディアも取り上げていた。
共栄党の杜 亮磨代表は、男性優位な沖縄での女性市長候補と、軟禁生活や投獄を経験して漸く真のリーダーとなったビルマのスーチーを讃える様なスローバラードを作曲し、ドラム抜きで演奏、曲を初披露するという暴挙に出る。
クーデター阻止後のメッセージソングの扱いを海外ではされ、動画の再生回数は世界中で跳ね上がっていった。
反響を受けて慌てた亮磨が「シングルカットにするとお約束します!イッセイさん、早く日本に帰って太鼓叩いて」と日本語と英語で書き込む始末となった。
それもあったからなのか、過去最高の投票率70.4%となり5万票の大差で新人市長が誕生した。
選挙結果を受けて、8日になって一斉に物事が動き出す。
旧社会党で無所属の民間大臣の3人、前田外相と阪本総務相、越山厚労相は前首相、前幹事長、前官房長官の選挙区だった山口、和歌山、神奈川の4月の衆議員補選に立候補を表明した。立候補をする上での大臣職の進退は任命権者の首相に一任したという。
共栄党の杜 亮磨代表は、自身と副代表のモリを含めた6名が、山口、和歌山、神奈川以外の6箇所での4月の補選に立候補すると表明した。
杜 亮磨代表は東京衆院補選での立候補を表明したが、モリ副代表を含めた5人は候補地を思案中だと言う。
9箇所の補選で旧社会党候補者が勝つと与党と政権には厳しいが、3大臣を大臣職のまま議員にすると政権にとってはプラスとなると見做して、不戦敗として9選挙区に候補者を立てないのも有りだろうという声も上がっていた。
また、異例だが、米国国防総省長官が記者会見の場で沖縄の浦添市新市長の当選について言及した。市長の当選を祝うと共に、米国は米日政府間で定めた「那覇軍港の浦添ふ頭地区北側移設」を撤回すると表明した。
浦添市の皆さんの民意に配慮したと長官が言うので、これも騒ぎとなった。
普天間基地撤退・辺野古に続いての方針転換なので、当事者だけでなく周辺国も驚いた。
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男女2人組がシンガポールの大統領官邸「Istana」の玄関で国の代表者の首相と大統領の見送りに頭を下げて別れを告げると、背を向けて歩き出す。左右の記者たちが待ち構えているので意を決した。「走れ!」と日本語で男が言って走り出し、慌てて女が追い掛ける。
あまりの展開なので記者たちは呆然と見送るしかなかった。ドン引きしていたかもしれない、実際、そんな訪問客は見たことがないからだ。追跡者が居ないので速度を落として2人で手を取り合って笑いながらの助走状態となった。
最寄りのDhoby Ghaut駅で発車直前の地下鉄に飛び乗ったので、集まった記者達は完全に巻けた、格好だ。
「なんで私にスパイの真似事させるかなぁ?」と、シンガポール本社 社長の志木佑香が薄手のブラウンレンズを掛けながら、上目を残して睨みつけてくる。
様になっていたと後で褒めて上げようと決める。それに、ダッシュしたのに息は上がっていないし、汗もかいていない。ジムで鍛えているのだろう。身ぐるみ剥がすのが楽しみだ。
車両の中は程々に混み合っており、佑香は腕を絡めて男をコーナーに追い詰めてゆく。
「10億シンガポールドルの商談に成功したんだから、乾杯は私の部屋じゃ嫌よ。勢いで仕方なく地下鉄に乗っちゃったけど」
「予約は取り付けてございます。ご安心下さいませ、お嬢様」そう言って黙り込むと揺れるたびに胸を押し付けてくる。佑香を社長にしたのは誰だと訝しむ。
MRT CityHall駅で地下鉄を下車する。どこに向かおうとしているか察したのだろう。地上に上がるエスカレーターに乗ると、佑果が「Woman in chains, Woman in chains~(#)」と亮磨の最新作のコーラス部を歌い始めた。
佑果のビブラートを聞いていて、学生時代にそんなタイトルのヒット曲があったっけな?と思い出した。好きな英国ユニットの曲だった。南米の長距離バスに乗ってる時に、繰り返す様に聞いていたのを思い出す。このタイトル曲の時は相方が脱退してソロ活動だったと思ったが・・
共にサングラス姿の2人が並んで歩き出すと、1887年に建設された、コロニアルホテルが視界に入ってくる。モリは表を何度か通り過ぎただけで、入ったことはない。30年前の宿泊は定番の安宿だった・・
「ま、今日はのんびりしましょ」と腕の輪っかを作ると、佑果が嬉しそうに腕を組んでくる。英国統治時代の雰囲気に感化されたのか、こっ恥ずかしい動作をさり気なくやってしまう。絶対に日本ではしない・・
ロビーに入ると、佑果が舌打ちする。レディらしからぬ失態を咎めようとすると、佑果の部下達がスックと立ち上がるのが目に入る。
格式の高いホテルを何件か当たろうと考えたのだろう。このホテルに真っ先にアプローチしたに違いないと、モリはコロニアル造りのロビーの天井を眺めて苦笑いを浮かべた。
(#)Woman In Chains
(Tears For Fears ft. Oleta Adams)
(つづく)