(6)国より練られたプランの数々 (2023.9改)
富山県議会はドローンのレベル4の承認を行った。
富山より先行した飛騨市、高山市、白河町の岐阜の3自治体の承認に続いた形となり、これで3自治体と富山の県境を跨いで、物を積んだドローンが相互に飛び交うことが可能となる。
富山市に本社のあるプルシアンブルージャパンはドローン2モデルをレベル4に該当する機体として申請し、国土交通省の認可待ちとなった。
遠隔医療サービスで使われているドローンは、岐阜3自治体の申請時に承認を得ているので直ぐ承認されたが、もう1機は新型なので少々時間が掛かる。
認可待ちのドローンはロジスティクス専用機となる。1機あたり50kgまでの荷物を運搬する。トラックの積載量には敵わないが、ドローンは渋滞と無縁なので、何度往復しても複数台飛ばしても構わない。今はエリア限定の運搬手段となるが、各都道府県で承認されると、将来的にはトラック輸送への依存率が下がり、渋滞緩和・排ガス抑止に繋がる。
因みにプルシアンブルー社はドローンの販売と提供を現在は行っていない。
理由は無人飛行を可能にしているAI部のテクノロジー保護のためであり、自治体向け遠隔医療ソリューションと共々、運送子会社のPBロジスティクスの資産として保護されているからだ。
PBロジスティクス社のドローンの利用用途は限られており、プルシアンブルー社が提携しているスーパーと、同社経営のミニスーパーへの物質搬入、富山空港、新湊港と同社倉庫間の運搬に限定されている。近い将来、プルシアンブルー社がネットスーパー事業に参入すれば、各家庭までのドローン配送が実現し、宅配サービスへの事業参入も実現可能となる。
但し、ネットスーパーと宅配サービスに参入している企業のビジネスを奪いかねないので、参入は見送っている。コロナ感染が広がり、再度 非常事態宣言が発令されたら、参入する可能性はある。
17日から11日間、東京都都議会が開催されるのだが、補選で当選したモリ都議の初めての議会審議案が、都内でのドローン飛行レベル4の承認申請となる。
富山同様にPBロジスティクス社の単独利用となるのと、遠隔医療サービスも含めて都内では利用に制限が加わる可能性がある。例えば、ネットスーパーや宅配便でのサービスを実施すると、ドローンの着陸場所が無いお宅はサービスの利用が出来ない。地方都市とは住宅事情が異なるので仕方がないのだが。
市町村レベルで、ドローン専用の離発着地を用意するなどの環境を整える必要が生じるが、この冬に再度、非常事態宣言が発令されたり、救急車両の迅速な稼動のために都内の渋滞緩和を急務とする、などの外的要因が加わると遠隔医療も含めて、都内でのドローン導入が現実的なものとなるかもしれない。
いずれにせよ、富山と岐阜の3自治体のドローン承認のニュースは、全国の自治体に検討を促す材料となった。
最も優先されるのは、コロナ感染者の増大に伴う医療機関の逼迫の抑止、遠隔医療ソリューションの導入となる筈だ。
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富山県議会が他県の議会と比べてユニークなのは、金森知事の選挙時に掲げた公約を与党の県議が討議申請していることだろう。県議会の議席の半数以上を与党が占めるために、法案審議がスムーズに行われる。ドローンのレベル4承認に引き続き、新たな法案の審議が始まっていた。
コロナ感染者の隔離施設を新湊港の港湾地区に用意する。既存の倉庫を隔離施設として利用するというものだった。
コロナの影響で新湊港の物流量も減少傾向にある。プルシアンブルー社だけが頑張っていても、日本経済の中心である太平洋側の大都市が大停滞しているので、富山も影響を受けている状況は変わらない。
そこで、空き倉庫を富山県が短期に借りる契約を結び、テントメーカーから4人用テント200式とテント内で利用するベッド200台と小型の冷暖房機200機、小型テレビ200機を調達。倉庫内電源工事とトイレ、入浴施設の設置をコロナ対策特別予算として計上する、といった内容の審議を始めると、先行した遠隔医療サービスと共に、波紋が全国に及んでゆく。
国のコロナ対策はホテルの借り上げが前提となっているので、どうしても収容人数に限界がある。また、医療逼迫の問題は何も講じられていないので、富山県議会での審議の模様が全国に紹介されるように報じられるので、政府と与党本部は困ってしまう。富山で議案を提案し、主導しているのは再度登場の与党の県会議員だった。
「今は感染者がまだ少ないので、施設としての稼働時期を明言することができませんが、日で数人、週で10人と感染者が増え始めた時点で、医療チームと専門家チームと協議の上、治療施設としてスタートさせたいと考えております」
「倉庫の数を増やして大きな隔離施設にすると、他県の感染者の受け入れというのも考えられると思うのですが、議員はその辺りをどのようにお考えでしょうか?」
「基本的に倉庫を使いますので、空いている倉庫であればどこでも実現可能です。
富山の海岸部に限らず、倉庫は全国各地にありますので、各都道府県でも実現は可能だと考えます。ですので、他県の感染者の受け入れを積極的に行う事は考えておりません。
今回の施設に興味がある各県のご担当者には喜んで情報提供致しますので、富山県までお気軽にお問い合わせ下さい。万が一近隣県で感染者が激増した場合ですが、北陸4県と岐阜、長野県に関しては、感染者の受け入れも想定しております。勿論、症状等の条件、それぞれの県同士との費用の負担など、各県の担当部門で決めなければならないことは多々あるとは思いますが」
「この倉庫施設との比較なのですが、感染者が入退院した場合の清掃コストはどの程度になりますでしょうか?ホテル等の施設を利用した場合の清掃費と比較した場合ですが」
「ホテルの清掃費用は部屋の規模や室数で金額もマチマチだと聞いております。この倉庫治療施設の場合の洗浄殺菌ですが、お手持ちの資料の末尾の参考ページに費用を載せております。ええ、この参考資料の5ページですね。
手順ですが、倉庫内部でテント毎に区切られておりますので、まずテント自体をカバーで覆いまして、そこで一度殺菌処理をしてから、テントを解体して倉庫の外へ運び出します。解体後は天日干し致します。ベッド等の寝具ですが、シーツ・枕類は焼却しますが、ベッド本体はテントと同じように袋で覆って倉庫から出して殺菌処理をして、天日干しです。先程も申し上げましたが、テントとベッドは今後何度も使い廻します。今後の防災品としても使いますので。いずれにしてもホテルの清掃よりは随分安価となります。
富山県がホテルを医療施設として使わない選択を取りましたのは、ホテル自体を営業停止にしないと言うことが一つ。倉庫を使えば市中から離れた所で治療出来ることが一つ。そして感染者の治癒後の消毒・殺菌が容易に出来るという3点です。
尚、殺菌作業は保健所もしくは保健所が委託する業者での対応を予定しております。今後数が増える場合は民間の業者様に対応をお願いするという意味です」
「どうしてこのようなものを国は考えないんでしょう?」
「それは私も知りたいです。きっと首都圏にはホテルを使う潤沢な費用と、十分な医療体制があるのでしょう」県議が皮肉ると、議会に笑いの渦が巻き起こっていた。
金森知事は、審議を笑顔で見守るだけだった。
そして議会が終わると記者会見に臨み、プランを纏めたのは知事のスタッフだと明かす。
「来月8月中に倉庫内に取り敢えず50のテントを立てて、感染者の受け入れ体制を整えます。感染者入居前に、マスコミの皆さんと周辺県の担当者にご覧いただく場を設けます」と
与党の県会議員は満面の笑みを浮かべていた。
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各家庭に10万円支給が始まろうとしている頃、政府与党は「Go toトラベル、Go toイートだ。お肉券、お魚券だ」とクソ真面目に議論をしていたらしい。自滅党と言われるだけのことはあって、低迷している経済のテコ入れ策ばかりに議論を集中して、肝心のコロナ対策は何も考えていないように見えた。
47都道府県の首長がネット参加する7月の全国首長者会議では、観光地を抱える首長は観光産業のテコ入れになると政府のキャンペーン受け入れに賛同し、政府を持ち上げていた。今回初参加となった富山県の金森知事は、Go to キャンペーンはコロナ拡大策になりかねないと、スパコンで作成したシュミレーション予測を提示して警鐘を鳴らした。メディアにも公表され、感染者数が増加して来月の盆休みは移動困難な状況になると示した。
「政府は何らかのシュミレーションした上で、キャンペーン推進を決定したのでしょう。我々はこのシュミレーション結果に自信を持っていますが、政府与党がキャンペーンを推進する理由を、この場で示して欲しい」と首相に突きつけた。
「勿論、様々な情報から問題ないと判断したので、実施を決めた」と首相が応えたものの、データをこの場には用意していないので改めて情報を提示する、と終始 歯切れが悪かった。政府はシュミレーションをせずに見切り発車したのだが、理化学研究所が所有する世界一の処理能力を誇る「富嶽」を用いていないのは理研に確認すればわかる話だし、今から取り掛かったとしても来月の首長者会議には間に合わないだろう。つまり、科学的な根拠も無しに政府はキャンペーン実施に踏み切ろうとしているのだ。
シュミレーション結果を信頼している富山県はキャンペーン反対を表明し、富山県は県民以外の観光客は受け入れない方針を掲げた。県外からの宿泊客はお断りし、県外ナンバーの乗用車の乗り入れを拒むとまで知事が表明する。コロナ禍での鎖国を視野に入れているだけに、来たるべき冬への牽制となる。
富山のドローンを使った遠隔医療と倉庫療養について周辺県から問い合わせを受けると、コロナが終わっても医療サービスは続けるし、テントやテレビもポータブル冷暖房機も捨てないで大事に保管すると金森知事は言及した。地震や水害などの災害で、避難場所に滞在する際に利用し、プライバシーの無いダンボール生活を富山は提供しないと述べた。
「テレビと空調のある生活するテントと、ベッドを並べた寝室用のテント2式を1家族に提供する避難所を用意します」と金森知事が応えると、沸き返った。
日本海側の県は「富山モデル」といつの間にか呼ばれるようになった対策の検討に、一斉に踏み込んでゆく。人口が多い県や与党寄りの首長たちは、会議が富山にジャックされたのを思い知らされた。
厚生労働大臣はデータを集めても来月までに用意できないと官僚たちに言われて曖昧な対応に終始し、金森知事から新型ドローンの認可時期を問われた国土交通大臣は来月の会議で改めて回答すると言うと、「コロナが蔓延して自由に移動できなくなってからでは遅いですよ。あなたもシュミレーション結果を見たでしょう?悠長に待てる状況ではないんですよ」と全国会議の場で切り捨てられた。
会議の状況を見かねた東京都の職員が
「東京都が率先して、事を起こすべきではないでしょうか?同じ事態を義理の息子が引き起こすでしょう。来週の都議会も荒れますよ」と都知事に告げる。
国も県も無為無策だった事実が、極めて簡単に露呈してしまい。会議は何も決まらずに政府の宿題だけが溜まっただけで終わった。いつもは発言を求められていた都知事が埋没し、代わりに富山の新知事に主導権が移ってしまった事実に呆然としていた。
今度は自分が吊るし上げられる番なのだと、今頃理解したようだ。
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データなど見もしない老いた幹事長がキャンペーンを強行すると、沖縄と北海道でコロナ感染者が増大し、富山県のシュミレーション通りの事態となるとキャンペーンは中止となり、政府は盆休みの帰省に自粛を要請することになる。
この顛末に至ってから「国会も開かずに与党だけで考えようとするからだ」と野党は騒ぐのだが、シュミレーション結果も、コロナ対策の案を出しもしない野党も、与党と同じ穴のムジナだった。慌てて富山県に視察要請を出した時には、コロナが都内でも広がり出していたので「来んな!」と一刀両断されて、終わってしまった。
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モリがベトナムのメコンデルタを視察している頃、プルシアンブルーの自社農地を買い増し、ホーチミン市郊外にバギーとドローンの組み立て工場を建設すると現地に滞在中のゴードン次期会長が述べた。モリ会長が都の議員に転じるのに伴う人事変更だという。
ベトナム国内はコロナ対策が取られていたが、工業は世界中の停滞の煽りを受けて芳しくない中での、プルシアンブルーの工場進出と750名の雇用創出なので、ニュースとして大きく取り上げられる。
会見自体はゴードンに任せて、部品メーカーやホーチミン市との交渉はモリが主導するスタイルで、議員になっても事実上経営に携わるとベトナム側に存在感を知らしめていた。
勿論モリは無給なのだが、事実婚とも言える翔子と里子が高給取りになるので杜家内では結果オーライとなる。
地方議員といえどもカネ周りは全てオープンとなるのだが、モリにとって2人の存在は経済面でも重要なパートナーとなる。
タンソンニャット国際空港のラウンジで台湾に向かう便を待っていた時だ。
「しかし、良くできたプランだ。憎らしい位に良く出来てる・・」とモリが言うと
「幸乃と志乃さんの姉妹も加わると、更に資産分散できますよ。そうだ、先生のファンでもある志木佑香と数名の子も纏めてどうです?」
志木さんと杏はデザートのおかわりを取りに行っている。
「あの・・志乃さんと元フライトアテンダントの皆さんとの間には養女という物理的な存在が伴わないんですけど・・」
「そこは佑香とも相談しておりましてですね・・」
「ちょっと。なにを相談してるんですか。やめましょうよ、そんなの・・」
「ちょっとだけ聞いてください、お願いですから・・。ありがとうございます・・。要は現地妻です。客室乗務員は海外住まいを苦にしません。台北とバンコクにも物流センター構える計画ですし、そこに日本人所長、副所長として彼女たちを送り込みます。
都議会の休会中には台北、バンコク、ホーチミンを移動されるんですから、その滞在先を彼女たちのマンションにすればいいだけの話です。勿論私も ご一緒します」
「少し現実的な話をしましょう。これ以上は無理です。幸乃さんだって、まだどうしていいのか分からないんですから」
「あ、彩乃ちゃんですが、志乃さんの養女になるんだそうです。彩乃ちゃんが成人してから、杜家の養女になって、蛍さんと志乃さんは共に養母として戸籍に記載される」
「里子さん、さっきから話のポイントがズレてます。容赦なくグイグイ来ますよね・・」
・・慣れたら、娘たちと同じで積極的だし・・
「すみません・・でも、私も翔子も周りの子たちもなんですけど、元は一人で居るのを苦痛にしないタイプだったんです。客室乗務員の中にも結婚願望がある子も勿論居ますけど、ひとりで自由に生きる子が増えて来たように思います。結婚も子育ても大変な時代に変わってしまったし、相手も作らずに気ままに過ごす方が楽でいいと考えるようになった。
彼女たちは日本での生活にもこだわりません。日本食は海外の主要都市であれば、どこでも食べられます。そんな30人を連れて来たつもりでしたが、ほぼ全員が先生にお会いしてから混乱しているのです」
「は?」
「ご兄弟は居ないのか?」「息子さんは幾つ?」と言い出して、中には精子提供してくれないだろうかと、まぁさすがに冗談でしょうが、口にする子も出始めるようになったんです」
「空を飛ばなくなって、地に足をつけた環境の変化、なのでしょうか。まぁ些細な話でしょう・・」
「翔子も私も再婚願望はゼロでした」・・里子さん、また会話になってないですよ・・
「(過去形?)そうですか・・」
「そんな私達ですが、先生は別格でした。翔子が舞い上がっていた理由もよく分かりましたし、娘達が溺れている理由もようやく分かりました。
恐らくですが、鮎先生も蛍さんも先生を独占しては行けないと思われたのではないでしょうか、今回改めてそう思ったんです。こんな方が本当に居るんだなって・・」
「独占していいんですよ。国が法律でそう決めてるんですから」
・・とはいえ、スタートの段階から母娘と3人の間柄になっているので説得力はないのだが・・
今回の旅で新たにお気に入りとなったビア・サイゴンをモリは飲み干す。
「私たちの心境の変化をお伝えいたします。翔子も幸乃も娘の中高生時代の先生に憧れてました。アイドルみたいな存在だったんだと思います。周りにはそんな母親が大勢いましたし、今もそうなんだと思います。先生の復帰を求めたのは母親たちでしたし」
・・確かに感謝するしかない。アイドルではなく、教員として認められていたのだと思いたいが・・
「幸乃が蛍さんと仲良くなって、そこに翔子と私が加わりました。年齢が近いというだけで集まった4人です。私達3人に夫がいないというのは偶然でしかなく、下心の類は全くありませんでした。蛍さんを羨やんではいましたが、その先までは当時は考えてもいませんでした」
・・これも翔子から聞いた話と同じだ・・
「それでコロナが起こって、娘たちも外出できませんから、今になって思い起こせば先生に会えなくてフラストレーションが溜まってたんでしょう。2人とも終始イライラしていたんです。玲子もサチも同じような状態だと聞いたものですから、じゃあ、3世帯で集まろうと共同生活を始めたんです」
「ある晩のことです。幸乃が子どもたちが先生と養子縁組を考えているようだと聞いたんです。翔子も私も驚いてしまって。先生がおっしゃっている話なのか、本人たちの一方的な思いなのか、問いただそうと母娘同士で話し合いをしました」・・養子縁組を考えたのは玲子、幸のいずれかだろう・・
そこで志木さんと杏がフルーツの山盛りと、モリ用のビア・サイゴンを持ってきてくれたので、話が終わってしまった。
(つづく)