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(8) 家庭内権力闘争? 実は単に信奉してるだけ、まるで宗教であるかの様に。

4週間、ほぼ休みなく中南米とアジアを行き来して「何とかこなせそうだ」と自身の体調管理も含めて、自信を深めていた。常に周囲に医療関係者がいて、家族中の監視網下に置かれているのもあるのかもしれない。日々、口にするものをモリが写真に撮ると、AIが自動的に摂取した栄養素とカロリーの計算を始める。

昨今では、食品会社は販売する商品のデータと、日々の製造生産ラインの情報も含めて厚労省に提出する義務が課せられるようになっている。菓子一つ食すだけでも、詳細の摂取栄養素とカロリー情報が加算されてゆく。スマートウォッチが心拍数と血圧を24時間記録し、AIに情報を提供し続ける。運転手、助手、パイロット、護衛としての人型ロボットと常に接しているので、ロボットの目線でも大統領の状態を常に監視している。モリと居る家族が体重を図り、ロボットの診察、聴診器によるデータ採取、眼球検索、舌下の状態、歯科検診を20分ほど毎日行う。それらデータが日々集約され、AIが分析、記録するのと同時に、家族中が分析結果を共有しているらしい。

「らしい」と他人事になるのは、本人は分析結果を見ることが出来ない。「ベッドの上でこんな事された」というような細かな描写が、まるで俗な小説のように加筆されているらしい。我が家の医師団が総合監修し、女性陣で情報をシェアし合ってニヤニヤしている。ヘンな部分で女性陣の公平性が保たれているのかもしれない・・。 

この大統領向けのメニューの全てではないが、ベネズエラ、日本、北朝鮮の介護施設に入居している老人達にもメニューが適用され、老人達や介護が必要な方々の健康管理が徹底されている。介護施設、学校、企業の食堂や給食では「月間オススメ献立表」がAIによって作成され、適切なメニューが提供される。ロボットが調理自体を請け負う施設も少くない。これもモリ家のAI献立表がベースとなった。栄養士の資格を持つ翔子の発案が採用されている。健康管理が国家レベルで確立されるようになると、数値や状態が日常から変化しただけで、即座に医療チームが詳細の検査に動き出す。「突然死」「孤独死」と言った老人に顕著に見られた死亡例は殆ど聞かなくなった。同時に膨大なデータが日々蓄積されていくのでBlue Star製薬、Blue Star医療機器のようなベネズエラ国営企業は、製薬、医療器の開発に参考にしてゆく。先進的な医薬品やメディカル製品はライセンス契約を結んで、日本の製薬会社や医療機器メーカーに生産委託されてゆく。           

また、老人達や大臣や州知事だけでなく、市町村レベルの政治家や3カ国の企業の管理職まで、この検診体制を浸透させるべきではないかと、厚労大臣経験者の越山と幸乃や、医師でもある櫻田を始めとする議員達が日本の国会に提案している。年配者の医療費も年々減少傾向に有るので、「日常の習慣的な検査体制の確立」という方向に進んでいる。医療と医薬品の向上で、大抵の病気が治療されるようになると、予防体制の構築が主流となってゆくのも当然なのかもしれない。   

北前社会党が政権を担ってから、政治家の女性比率が7割近くとなり、経済界の役員もほぼ5割が女性となった。女性の社会進出による効果なのか、刺激だったのかは分からないが、社会全般に健康に留意する傾向が浸透し、昭和平成の定番のような、小柄で太った大臣や議員、企業の役員は殆ど見当たらなくなった。G7サミット等の国際社会の場でもチンチクリンな日本人は過去のものとなった。                

きっかけは、家族がモリの体調管理の徹底を始めた事から始まった。日々集計するデータ量もさる事ながら、質的な内容も含めて管理されている状態に、感謝していいものか、俄に判断できなかった。「見守られている」感覚は強く感じる。地球の裏側を短時間とは言え、週に2往復するので、どうしても睡眠のバランスが崩れる。昼寝や仮眠を強いる事で補われるが、蓄積されたモリのデータを常に分析しているAIは4週間おきに「完全休息」を3日間過ごすように指示してきた。年間休日数は2桁台なので、ブラックな労働環境という実態は以前と変わらないのだが。

大統領に再任されて最初の休日は、日本人家族とパラオ共和国で過ごす。ハノイでの会談を終えてパラオへ直行する。2021年にラオス国境エリアにモリが建てたホテルへ宿泊するとベトナム政府が報じたので、記者たちは陣取って待機していたらしいが、騙された格好となってしまう。こんな経緯が本人達の預かり知らぬ所で積み重なって行き、「素性を一切明かさない政治家」と評され、認知されてしまうようになる。       

2月の乾季にベストシーズンを向かえる、東南アジア・東部太平洋諸島で過ごすのがいいだろうと、「完全休業」の意向を無視した休日計画が決まってゆく。妻達も政治家であり、長年連れ添っているので、「まぁ、いいだろう」と仕事を兼ねたリゾート地域が選ばれてしまうのが何気に哀しい。明日月曜日は昼食と会談、夜は晩餐会と政府との間で公式ではないが、会談が予定されている。実質的に休みは本日一日だけとなる。時々、家族の存在を苦痛に感じることがあるのも口にはしないが、仕方がない部分もあると受け止めていた。 

ビーチで子どもたちが人を怖れないイルカ達と触れ合ってはしゃいでいるのを見ると、ササクレだった心がほぐれてゆく。分裂した世界は混沌の芽を育み続けている。その混沌を最小限度に押し留めるのが、政治家の仕事なのだと気負っていた自分に気が付き、背負った大きな荷物をヤシの樹の下へ降ろす。一時半、身軽になった体で我が子達とじゃれ合い、語り合っていると小さな子の姿が自分にとっては何気に特効薬なのかもしれないと感じ始める。この日は精神科医でもある幸乃が常に隣に居て、モリを分析しまくって居る。  

不思議な事に気が付いた。「キリンさん、キリンさん、どうして〜おくびが長いのぉ〜」と動物以外におよそ接点のない歌詞を翠がイルカに向かって歌い出すと、翠の元にワヤワヤとイルカが集まって来た。他の子にすれば、単純に羨ましいと思ったのだろう。同じ歌をイルカに向かって歌うのだが、翠の様にまでは集まって来ない。姉の蒼や異母兄達が歌っても、なぜ駄目なのか?イルカにもヒトの好みがあるのだろうか?と思った。翠と同じアプローチを真似て、唯一結果が出たのは里子と翔子のアラフィフペアだった。驚いたことに、2人がハモるとイルカが更に寄って来る。2人の娘の杏と玲子が、母親達の真似をしたのだがイルカは寄ってこない。 

「声ですかね?何が原因なんだろう?」と幸乃と話していたら、股の間をイルカが通り抜けて遊んでいるのに気づかず、内股に突然触れて飛び跳ねてしまう。「このイタズラものめ・・」と睨みつけてみるのだが、そんなヒトの威嚇を物ともせずに、3匹のイルカが誂うように何度も近寄ってくる。「何だ、このイルカは・・」と逃げ回っていると、「きっと、メスだね」「ウン、賭けてもいい。メスだよ」と樹里とサチが後ろで話しているのが聞こえた。   

休日が少ないので、家族サービスはその分頑張らねければならない。苦ではないので調子に乗って頑張ると、その後の疲労度もソレナリとなる。完全休養と言っても、休養の意味が果たしてあるのか?甚だ疑問を感じていた。仕事を完全に忘れているとも言えない。新聞やニュースは習慣なので見てしまうし、空いた時間でアレコレ考えるのも習慣になってしまっている。仕方がないと割り切る。「頭を空っぽにする」なら、農作業や釣り位だろうか?と自分が無になれるケースを想像する。母親たちには「休日=リゾート地でのんびり過ごす」という漠然としたイメージがあるのだろうし、南国は子供にもウケが良いので万能ツールのよう採用しがちだ。しかしモリのように、実業家、資本家、政治家等の複数の顔を持つ人物だと、宿泊したホテルの造りや提供されるサービスに目を留めて、マリンアクティビティの数々を検証し、どんな船がいいのかな?どんな魚が美味しいのだろう?料理だ、酒だ!とアレコレ考え続けてしまう。そんな自分に時折気がついて、座禅でもするかと足を組めもしないのに考えてしまう。

夕飯前にニュースを見ていると、昨日解体が始まった、福井の敦賀原発の部品をロボット達がガントレーボックスに積み込みんで、ボックスごと腹に抱えるようにして、福島の宇宙基地に輸送しているミディア輸送機の映像が流れた。25Mの長さのボックスの中には核廃棄物が収まっているので、腫れ物を運ぶかのように護衛のモビルスーツ3機がミディアの下部を飛ぶ。福島までの飛行ルートも極力住宅地を避けている。一基の原発でこのボックスが7−8個必要になるらしい。   「地球にあっちゃいけないものなの?」キャスターのコメントの一部を理解して、娘の蒼が訊ねてくる。5才にもなると、こんな感じだっけなと思いながら微笑む。兄弟達が蒼と父親の顔を交互に見る。相手のやり取りを黙って見ているのも学習になる。子供達にも分かるように説明しないと、この場面が褪せたものになってしまう。子供と接する時間が少ないだけに、この数少ないやり取りに力を注ぐ。上の子達にもそうして来たし、間違っていないと捉えていた。         

「放射能ってね、そこにあるだけで「汚染された」「汚れてる」と言われるようなものなんだ。このカッコ・・Tシャツなんかじゃ、人間にはとても耐えられない。蒼の目にも、父さんの目にも放射能は見えない。コロナウイルスと同じだね。コロナと放射能が違うのは、コロナはバイキンマンだから熱や咳が出て病気みたいになるけど、放射能はもっと強くて、そこに居るだけで死んでしまう。だからテレビの中にはロボットしかいないんだ。普通の格好をしたヒトは、とても この場所に居られない。放射能は爆弾にもなる位、大きなエネルギーを生み出す。ドッカーンって、強い爆発であらゆるものを壊して、爆発した後も空気中に放射能を撒き散らして、生き残った人達を酷い目に合わせる。                この爆弾にも使われる程の強い力を使って、人間は電気を作ろうと考えた。それで出来たのがこの原子力発電所だ。ベネズエラには無いし、富山にも無い。でも富山のお隣の新潟と福井には発電所がいっぱいある。里子ママと翔子ママの宮城にもあるよ。富山も金沢もお隣りにあるから、他人事じゃない。今は福井にある発電所を分解している。日本にはね、動いていない原子力発電所が54基もあるんだ。もう古いから壊しているんだけど、電気を作る材料が最後にゴミとして残こってしまうんだ。このゴミが強い放射能をいつまでも持ち続けるんだよ。人間にとってはとっても危ないゴミだから、ジュリア達に壊して貰って、掃除して、ゴミをガントレーボックスまで運んで貰っている。それでサンダーバードに乗せて、月まで運ぼうとしているんだ。54機の発電所の殆どが、父さんよりも年寄りで80歳とか、70歳だ。それでも放射能はまだまだ強くて、とっても危ない。まだ何百年もずっと先まで危険なままなんだ。だから、この危ないゴミをいつまでも地球に置いておくのイケナイと日本は考えた。何しろ、日本は小さな国だから、ゴミを置いておく場所が無いんだ。キレイな自然も壊したくはないからね」 子供達の顔を見て、分かってくれただろうか?と 少し間を置く。         

「火星や月なら大丈夫なの?ロボットは「ほうしゃのう」の中でも平気なの?」ソファの隣に居る肇がこちらを見上げている。         

「ロボットは大丈夫なんだ。ただ、ジュリアがゴミを触った手で、肇と握手は出来ない。肇の手が火傷しちゃうかもしれない。放射能は人間には触れないものなんだ。まだ火星にも月にも人が住んでいないから、地球よりも安心だ。暫くの間は月にゴミを置いておいて、いずれ火星の基地に送る予定だよ」と言って、肇の頭を撫でた。    ーーー                 

首相官邸、作戦室のモニター画面に福井敦賀原発と、事故を起こした福島第一原発の解体、撤去作業の2元中継がネットで公開されていた。原発の解体工事という日本初の取り組みを24時間体制で世界中に公表して、膨大な作業手順の工数を知ってもらい、AIロボット達の役割分担と個々の能力を知らしめようとしていた。         解体作業を担当するプルシアンブルー社、PB Enagy社への賞賛が集まるのは当然だが、エネルギー省を始めとする政府関係者がプロジェクトに数多く加わっている事を人々は知る。山場となるのは、事故を起こした福島原発でも行われた、敦賀原発の原子炉内の汚染水除去、燃料棒の摘出だ。この手順が思惑通りに進むのか、時間を掛けて慎重に行われた。福島原発で注目されたのは事故で破損した圧力隔壁の撤去作業だ。度々できる事ではないので、爆発が生じたプロセスを再度確認、検証しながら原因を特定しながらの作業となった。複数の専門家、技術担当者が議論し、報告書に纏めるのと同時に記者会見に臨む。 当時の事故の凄まじさを映像で理解するのと同時に、まだ解体に着手していない52基体の原発にも地震・紛争等で倒壊・破壊の可能性が残っていると訴えて、全基の撤去までの10年近い時間の中で都度予防策や対策の見直しをしている旨を国民に、世界中に公表する。今取り掛かっている敦賀原発の解体作業を検証しながら、安全で確実な作業内容に修正し、新たな手順を探し、予防策を練り続けていた。この10年に及ぶ作業に費やす金額は、推測値でしかなく、増えることはあっても減ることは無いと国民は理解する。2029年のフクイチのデブリ撤去作業時の核物質も含めて、順次運び出されてゆく様を映像で見て、原発が如何にコスト効率の悪い発電か、認識して貰う。平成までの政府も電力会社も、建設してから発電までの費用しか開示していなかった事実を改めて知って貰う。核廃棄物管理や解体作業といった最も費用が掛かる部分に全く触れずに居たからだ。挙句の果てに、敵基地攻撃能力を求めようとしながら、停止している原発が攻撃され、防御する体制を全く講じていなかった。日本を破壊する最も効率的な方法は核兵器ではなく、54基の原発を破壊すれば良い。ミサイルでも、人工地震でもいい、原子炉に穴を開ければ自沈してしまう。ベネズエラならば隕石を落とすのが最安の破壊方法となる。原発を攻撃するのは国際法で禁止されているが、戦争や紛争になれば勝った方が官軍だ。最有力の手段として検討しているだろう。電力会社の利権に執着した自民党が、如何に国防意識に欠落していたかが再認識され、後のコスト問題に全く触れずにエネルギー政策を仕切っていた事実を改めて断罪される。

この「過去の失策」を追求する日本の姿勢に、原発に依存している米国、仏英、中国の人々は自国の姿勢を憂いてゆく。政府は日本の自民党のように、国民に事実を知られないようにしていたと、目覚めてしまう。             「日本の核廃棄物」とカテゴライズされ、産廃物専用のコンテナに積み込まれ、ブースターを付けた輸送機・サンダーバードによって地球上から搬出されてゆく。平成の日本政府が海洋投棄すると主張していた汚染水は、溶剤と特殊フィルターによって完全に純水となった。この元「汚染水」も、太陽光発電による電気を利用して冷凍保存されており、凍った状態のまま月面基地の食堂キッチン下の配管や小用便所等の下水管の洗浄用途で使われる。汚染水以外の核産廃物は最終的に火星に持ち込まれるが、新型の大型輸送船が完成するまで、月面基地の倉庫で暫定的に保管する。今後10年を掛けて、日本の核物質・産廃物、原発解体を進めてゆくと報じられると、また日本の株価が上昇する。               

一方で、新たに原子炉解体や核廃棄物管理で莫大な費用が見込まれる原発推進国の株価はダダ下がりとなる。それぞれの国の電力会社の社長とエネルギー担当大臣が釈明会見をして、辞任してゆく。国は原発解体費用を予算化する動きを始めて、電力会社は更なる電力料金の値上げの検討を始めてゆく。まだ2月になったばかりだというのに。             

非公表には出来ない話題なので、仕方がないとこの日も演題に立つ。集まった記者達に報告するモリ・ホタル官房長官(金森鮎 元首相)は、発言の度に株価へ反映する状況に、日々苦笑いするしかなかった。                「敦賀原発と福島原発の解体作業は、日本のエネルギー政策の歴史的な転換点となります。昭和・平成の日本政府が残した、最後の負債の清算事業が始まりました。安価な電力と呼ばれていた原子力発電が、結果的には最もコストの掛かる発電であると改めて立証されました。核廃棄物が生じる現在の発電方法では、廃棄物の保全コストが伸し掛る実態も世界中の人々にご理解いただけたかと思います。54機にも及ぶ原発の解体と撤去が完了すれば、十年後の電気は更に安いものになっているでしょう。段階的な試みとして、非常時用途に限定して、現在は休眠、待機発電施設となっている北海道と横須賀の火力発電所を再稼働して、フィリピンで製造された「環境アンモニア」をガスと7対3の割合で燃焼して、アンモニア利用量の配分率毎のCO2排出量や、燃焼効率の検証作業を始めています。適切な運用方法が確定しましたら、本格稼働させて、全国の休眠火力発電所を随時稼働して参ります。水素発電、太陽光発電の2本柱に、更にアンモニア発電を加えて、我が国は電力価格を更に下げて、電力に関してだけは「省エネ」「エコ」という概念を払拭してまいります。産業界も家庭も遠慮すること無く、ふんだんに電気を利用して頂けるように致します。率先して、電力消費社会への転換を訴求して参ります」鮎は、最後にドヤ顔で笑った。        

会見を終えて、自室に戻って工程表に印を付ける。ベネズエラが4カ国の軍事力を麻痺させて、軍事予算の浪費を促進させた。日本は原発撤去作業を始めて、原発の実態、事実を世間に公表し、原発を推進している4カ国の暗部に光を当てていった。これで4カ国のエネルギー政策を間接的に攻撃してゆく。軍事とエネルギー、この2つの分野で混乱状態に陥れて、国力を削いでゆく。5年前に世界に仕掛けたモリのプランを、更に昇華させている。あの時はエネルギーに水素を使い、軍事にも適用させながら、AI兵器を進化させて軍事力の差を見せつけた。         

宇宙というフィールドを得たベネズエラと日本は、更に多角的な展開を実現してゆく。宇宙資源を獲得し、アンモニア駆動車とアンモニア発電をメニューに加える。そしてそれを支えるモビルスーツに代表されるロボット工学の進化・・   台湾の独立支援策を相談しただけなのに、世界全体を揺るがすプランが策定されて実施されてしまう。今回の作戦を練ったのは、正妻の蛍の座に並びつつあるベネズエラ元官房長官の翔子によるものだ。軍事面や経済面で、越山ベネズエラ前大統領と櫻田前首相の支援を得て、プランを纏めてみせた。                 

「パーツを組み合わせただけです」と本人は謙遜するが、感嘆すべきレベルにまで昇華している。この驚愕のプランを考えうる能力があると判断したのも、策定を命じたのもモリだ。2人が日頃どんな話をしているのか、鮎としては嫉妬の目で見てしまう。ここまで壮大なプランを描けるとは思っても見なかった。実際に、日本、ベネズエラ、北朝鮮の政府内で翔子の株が上昇しっぱなしだ。各国の大使館がショウコ・イグレシアスの今の職責の調査に乗り出しているとの報告も増え始めている。              

「あの人の子を3人以上産むって、こういうことなのかしらね・・」と鮎は思う。3人以上産んだのは、蛍に翔子、玲子にパメラ、そしてアユミだ・・この鮎なりに判断した方程式が確かならば、この5人が今後モリの駒となりうる可能性がある・・。確かに、この5人に共通しているのはモリに対する飽くなき執着心だろう。他の女性陣以上に鬼気的なものを感じてしまう・・。  

「いや、そんなことないか。全員だな、やっぱり・・」鮎はそう思い直して、外相の里子にランチに行こうと電話を掛けた。里子だって、娘のアンも樹里も2人づつ産んだ。翔子と玲子の母娘で6人だから、家ごとで換算すると一応バランスは取っているのかもしれない・・「実は、単なる種馬野郎ではないのかも・・」と考えて、思わずお茶を吹き出してしまった。

ーーー
「貯蓄大国ニッポン、個人貯蓄総額4000兆円へ」 昼のトップニュースを見て、ランチ中の阪本首相がほくそ笑む。「遂に4倍にまでなったのか・・」と感慨深い想いに囚われる。    

20年前、神奈川の小さな港に大型漁船の基地を構えた。大型漁船をレンタル船として各漁港に貸し出す事業を党が始めていたのだが、党の幹事長だったモリがこのレンタル事業の管理・運営を地場の信用金庫に任せた。事業として軌道に乗っていた、このレンタル漁船事業に、信用金庫の資産管理部門が飛びついた。漁船の管理を与党から委託された過程で、この信用金庫は与党第一党の資金力が県内のどの企業も及ばないレベルにあることを知る。当然ながら、この党の資金源は何なのか、信金側も疑問に思ったようだ。当時、党の幹事長だったモリは、与党の資金源は海外投資なのだと明かして、金融資産額と運用成績の一端を見せて、相手を感心させた。モリが自分で運用しているのに、相手は凄腕のファンドマネージャーを抱えていると考えてしまう。そこでモリは預金利率を上げて、貯金額を増やさないかと持ちかける。20年前の定期預金の年間の利率は0.002%と史上最低金利の時代だ。「これを3倍にしましょう」と言っても、僅か0.006%に過ぎない。それでも貯金信奉者の日本人はこの預金金利に飛びついた。少しでも高い利率の預金に預けたいと考えたのだ。この信金は今では関東圏最大の地方銀行に成長したが、地銀と信用金庫で規模は違えど、地銀基準で敢えて比較すると、当時は下位行の部類となる。その信金が正にこの時をきっかけに化けていった。直ぐに預金額が倍々と膨れ上がる。当時のこの行の預託金が500億円だった。やがて地銀全体から預託金を与党のファイナンス部、のちのプルシアンブルー銀行が預かり、1年間で預託金総額が300兆円近くにまでなった。銀行の預金の3割を預託金としていたので、20年前の銀行預金総額は1000兆円位はあった計算となる。   嘗ての与党政権は不動産や株なども含めて2000兆円あると公言していた。国民の所有物である資産額をあちこちで振れ回って、日本の唯一の信用材料として世界にアピールしていた。 国の借金を2000兆円以上まで膨らませてしまったので、国家破綻となったら、国民から収奪して相殺すると陰口を叩いていた。その為に改憲手続きにしゃかりきになって取り組んでいた事実が後に露呈し、他の犯罪行為の数々と合わせて、国を任せられない政党だと断定され、消滅に至った。政権の晩年期に、前政権与党は この国民資産2000兆円を投資に向けるとほざき出した。欧米の子供たちは授業で投資を学ぶが、日本では一切教えない。株や債券はリスクがあるので手を出してはいけない。貯金が一番だ、と親が子供に教えるような国なのに、、。 同時に国と日銀が率先して投資に乗り出していた。国民の年金を投資へ投入し、日銀が株を買い、バクチ体制に転じた。カジノだ、オリンピックだと危ういものへ次々と手を出し、モノの見事に全てスッてしまう、お粗末な敗者確定・マルボウズ国家だった。           海外の投資のプロに任せずに、国内のオツムの悪い連中に任せるから、こうなる。ファンドマネージメントの能力のカケラもない万年補欠のクセに、無能な首相の意向に恭順の姿勢を保ち、ただ従うだけで日銀総裁の座に居座り続けた頓珍漢だけではない。国や企業のトップ連中全員がイカれていた。円の価値が下って20年ぶりの円安と言っている最中に、「国民資産を、今後は投資に向ける」と、時の首相が国民の資産をまるで自在に使えるかのように平然と言い放った。しかも、凋落していたとは言え、ロンドンの金融街シティーでの会見の場での話だ。見事なまでの経済オンチっぷりを晒して「お前はバカか?」とイギリスのメディアに笑われる。こんなオカシナ首長の居る国に投資をするヤツ等一人も居ない、と当然、笑いの対象となった。     

「日本の首相の周辺に居る連中は、所詮この程度なのか」と、笑うに笑えない過去の話で満ち溢れている。なので、財政再建策自体は練る必要がなく、単に頓珍漢と真逆のことをすれば、「大失敗の逆になるので、成功の方向」に転ずる。そう、「借金を減らして、預金金利を上げる」たったこれだけの話だ。その為の手段を国家を上げて取り組んでいった。         

日陰の道を歩み続けていた一部の無能に組織を任せると、組織そのものを管理する事すら出来ないらしい。コロナ後の国の使途不明金が11兆円とも16兆円にも達したと言うのだから、驚きだ。この国家的犯罪行為を、この国は当然の様に握り潰す。4000万円の振り込みを使い込んだ人物は逮捕され、使い道まで詳細が明らかになるが、国が政府が自民党は使途不明だと言えば、エセ・マスコミは問題として取り上げようとしない。野党も国会の場で追求しない。誰も咎めようともしない国、避け続ける国、易々と逃げられる、そんなお粗末な国だった。税金という認識がないのだろう、政治家が勝手に使って、国民の負担になるだけなのに誰も咎めない。所詮、年金を投資にブチ込まれ、日銀が日本企業の株を買おうがお構いなしの国だ。海外からは「愚かな日本人、政治が何をしても無関心」と見られている。当然ながら、訪問先のイギリスで、時の首相が日本への投資を呼びかけたところで、検討する者など一人も居ない。使った金の管理も出来ないような国だ。国際ルールを無視した金融政策を取って、マヤカシの株価を維持しようとするような国に投資するバカは一人も居ない。GW後に「海外、取り分けイギリスからの投資が急増した」と報じられる事も一切ない。マスコミも野党も誰も首相の発言の検証すらしない。国が傾き、30年間経済成長できないG7唯一の国だ。そしてそれを受け入れる日本人・・

嘗ての政権がズル賢かったのか、当時の野党と日本人の民度が低かったのか、どちらも国際基準で見れば、無能な集団でしか無かった。政権の有り様を憂う人物もそれなりに居たが、所詮がなり立てるのが関の山で、誰も何も変えられず、ズルズルと暗黒の平成が30年間経過していった。国が傾いているのに、泥船に乗っているのに脱出しようともしない。アメリカ・カナダは移民国家なので泥舟から脱する遺伝子を持つ、しかし、島国日本人には「脱出の遺伝子」が無いのだろう。人々が島を捨てるのに、気軽に出てゆく船や飛行機を持っていない。周辺環境にも恵まれず、近隣にベネズエラのような逃げ込みたくなるような国家がある訳でも無い。その種の危機意識が遺伝子的にも欠落した民族が、「生存をするため」に、「より良い暮らしをするため」に投資などに熱中しないというのは薄々分かっていた。実際、投資信託や株を購入する平成の日本人は今でも限られている。株はギャンブルの扱いと然程変わらず、日本人にとって、最強の資産運用は昔も今も「定期預金」なのだ・・・。             

当時、幹事長だったモリが打ち出したのが、やはり「預金」「貯金」強化だった。前の与党が国の信用の為に偽造した日本人の個人資産を、形を変えて活用しようと考えた。但し、国民に投資を促してはいけない。役所から4000万誤送金された人が、カジノで全額スッてしまう事件が前政権の末期にあったが、こんな発想をする人達が居るような国だ。日本人が「投資」を理解するために証券会社も金融機関も、適切なアドバイスが出来る人材を配置しなければならないが、当時も今も、昔からある日本の金融機関にはそんなノウハウを持つ人材は居ない。「カモがまた来た」と個人資産を分捕る事ばかり考えていたのかもしれない。株で成功するのはインサイダーすれすれの特権情報にアクセス出来る層だけだった。      

貯金信奉者の日本人に対して、モリは特定の信金の市中金利を上げる提案を始めて行った。州政府ができる前、今の神奈川県三浦半島で始めるとモリのマジックが神奈川から東京へ伝播してゆく。自分達与党の基盤を首都圏で固めると、日本全国を政権に任せて、モリは海外へ飛び出していった。手法は与党が所有する金融資産を利用した、援助活動、見返りの資源獲得、そして農地獲得だった・・。                 

「資源獲得」は火星と月の資源で安泰となった。この「モリ3点定番セット」の残り2つ、援助と農地獲得が、いよいよ始まる・・。

このプランを組んだのは、モリが寵愛する女性の一人なのだ・・阪本は輪の外に居るような寂しさを感じた。

(つづく) 

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