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(3) 発覚 〜狸同士のばかし合い (2025.2改訂)
気象庁が「沖縄地方が梅雨入りした」と発表した。
とはいえ、小さな島が多いので雲が流れるのも早く、終日雨が降るわけでもない。 東南アジアの雨季を経験された方なら分かるだろうか、スコールの様な強い雨がざっと降る。
農業を生業とするビルマの山岳民族にとって、雨季の訪れは別格のモノのようで、皆、高揚した顔をしている。
しかし、日本の梅雨は雨季ではないので長くても精々1ヶ月しか続かないと知ると残念な顔をする。
この辺の感覚に未だに違和感を感じるのは、雨季の東南アジアを旅する際はプランを立てずにダラダラと旅していたからだ。
雨季の間は比較的大きな都市間を移動し、地方へ向かわない様にしていた。その日のスコールがやって来たら、大きな建物の中に逃げて止むのを待つ。道路が十分に舗装されておらず、大きな建物がない地方では、雨宿りする場所があったらラッキーで、傘を持っていたとしてもずぶ濡れで足はドロドロになる。
それでも、子ども達はそんな雨が降るのを歓迎していたし、率先して雨に濡れ、時には数人で踊っていた。最初の頃は理解できなかったが、合点がいったのは農耕民族の彼等にとって「恵みの雨」なのだ。
もう一つ、東南アジアの雨季の旅が素晴らしいのは、果物の種類が一気に増え、且つどれもこれも美味しい点だ。梅雨明けに高校野球の全国大会を見ながらスイカやメロンを食べている際の美味さと一緒で、秘訣は潤沢な水分量なのかもしれない。
中国訪問後、沖縄事務所に全国各地の農家さんから野菜や果物、そして工芸品をお手紙と共に送っていただいた。各種宅急便と郵便物がドカドカと段ボールとお手紙を午前と午後に毎日届くようになったので、元ホテルのロビーは段ボールだらけとなった。
「絶対に食べきれない」と悟った事務所所長で第二秘書の源 由紀子は、沖縄南部の幼稚園と保育園と孤児院と老人ホームをピックアップすると、幼稚園、保育園に積み上がった段ボールの写真を添えて「果物は要りませんか?」孤児院と老人ホームには「米、野菜、果物は要りませんか?」とメールを送った。
小中学校は献立の決まった給食があるので、調理メニューを変更する必要が生じてしまうと由紀子は考えた。
工芸品は事務所主催でバザーを開こうと考えた。各地方の名産品はホームページを見れば価格感が分かる。職人さんには申し訳ないが、それより3から4割引き位での販売をイメージしていた。
モリが豊見城市の事務所に帰って来た時には、夕方に届いた段ボールがロビーを席巻していた。事務所が大所帯とは言っても、1日1箱消費するのが関の山だ。午前に到着した分は各施設、各所に届けたというので、久々の再会でもあるので、由紀子所長を抱きしめながら耳元で謝意を伝える。しかし、昭和30年代生まれの女性は人目を憚る。「旦那様、困ります・・」と言って逃げようとするので、放さないでいると周囲の冷やかす声も相まって真っ赤になっていった。暫く剥れていたので、やり過ぎたかもしれない。
翌日、由紀子所長と平泉里子副所長と、由紀子の娘の翔子と岩国空港から乗ってきた屋崎真麻議員の4人の妊婦さんと、第一秘書の屋崎由真を電話番兼留守番として事務所に残し、モリを含めた事務所のスタッフが、全国各地から送られた農業生産物を軽トラや軽バンに載せて沖縄南部の保育園、幼稚園、孤児院に手分けして配送した。八重山諸島の各島の幼稚園送付分は、フェリー乗り場に届けて、各島に向かうフェリーに運んで貰い、幼稚園に島のフェリー乗り場まで取り来ていただいた。
モリは、所長の孫娘の源玲子と共に、お隣の南城市の保育園と幼稚園の4箇所へリンゴやサクランボ等の果物を届けた。4軒目の幼稚園では実際に15時のおやつに捧げ物を食す児童の映像を撮って、事務所のホームページにリンクを貼って動画を投稿した。
玲子にタブレットを持たせて、バックでお子様達がお召し上がりになられている中で喋り始める。
「皆様より多くの農作物と地方の工芸品をお送り頂きました。
この場をお借りして熱く御礼申し上げます。しかし、かなりの物量が午前午後に届き、事務所のスタッフ一同驚いています。しかし、皆さんが手間を掛けて育てた作物であり、工芸品です。無駄にする訳には参りません。
それで沖縄南部と諸島部の幼稚園、保育園へは果物を。老人ホームと孤児院には米・野菜・果物を分配する様にいたしました。陶器や漆器などの工芸品は、後日バザーを開催して換金して、孤児院に幾ばくか寄付し、残額をユネスコに寄付することに致しました。
ええと、皆様は善意のお積もりで私めの事務所にお送りいただいたのだと解釈しておりますが、これらの食材は沖縄県では輸送費が加味されるので、一般的なスーパーに陳列されると、高額商品に化けます。八重山諸島なら尚高くなります。北海道、本州、四国、九州では高級品が、超高級品の扱いとなるのです。
一方で沖縄県県民の給与所得は47都道府県で現在最下位です。生活に余裕の有る方が購入する対象となります。間もなく6月になりますがリンゴやサクランボは沖縄では栽培しておりませんので、子ども達の口に入る機会は極めて少ないのです。あり得るなら、比較的安価なアメリカンチェリーかカナダ産かニュージーランド産のリンゴ位でしょうか。
給与所得最下位のポジションから、沖縄を脱却させるのが私のミッションでもあります。さて、ここから私事となりますが、私自身は議員収入も頂戴していますし、それとは別に作曲もしたりするのでバンドが生み出す収益もございます。県内では比較的豊かな労働者に属するのだろうと思っています。
ここ沖縄でどんな物を私が食べているか簡単に紹介しておきますと、ビルマ・タイ・ベトナムの自前の農場の米・野菜を主な糧としています。栽培しているのは、皆様にもご利用いただいているAIバギーなんですけどね。
これから沖縄の諸島部で、牧場と農場を開拓しようともしています。また、PBマートというスーパーが沖縄にも有りますので、東南アジアと沖縄の果物も簡単に手に入ります。 私自身、決して贅沢三昧をしているつもりは有りませんが、論より証拠で、今後の私の体型の変化に皆様ご注目頂ければと思います。必要最低限のカロリー摂取と栄養バランスの維持を常に心がけております。 なぜ節制しなければならないのか白状しますと、岐阜県知事もやってる我が家の主治医さんがあーだこーだ煩いからです。そういう状況ですのでこの様に、子ども達に皆様が手塩に掛けて育てた果物を提供させて頂きました。
みんな、美味しそうにって・・あれえ、もう食べ終わってましたね・・ではこの辺でやめときましょうか。全国のお父さん、お母さん、皆様の善意をこのように使わせて頂きました。 本当にありがとうございました」
子ども達が足に纏わりついた状態で手を振るモリを映しながら、動画が終わった。
蛇足だが、日本の地方同様に沖縄のラブホはめちゃくちゃ安い。気がついた時には空荷となった軽トラがラブホの暖簾をくぐっていた。
2度目の蛇足だが、ハンドルを握っていたのは高校時代はクラスの委員長だった源 翔子だ。「ちょっと寄ってこっか?」なんて、元担任教師は口が裂けても口にしていない。教師時代は運転していたので立場は今とは真逆だが。
ーーーー
在日中国人のネットワーク網は日に日に整備され、内容を向上させてきた。
日本の出産補助金が貰えると知れば、国の妊婦に声を掛けて訪日させる。
留学中の学生が大病に掛かったとして、医療費をふんだくった事例を踏襲するなどの悪質なケースが増えていった。
日本人の年金や医療費、税金が、公称値では80万人、100万人以上実際は居るのではないかと言われるようになった在日中国人に、勝手に使われたのだ。2度目の表記となるが山梨県の人口は80万人、富山県の人口は100万人だ。流入規模が既に県民単位にまで拡大しているのだ。
それでは飽き足らないのか、簡単な2択テストだけで日本で国際免許証を発行する検討をしていたりする。中国は右側車線左ハンドルと日本の逆なのだが、公道に日本の交通ルールを認識できていないドライバーを解き放とうとしているので、中国人が日本にやって来る風潮が続いていた。
中国人を受け入れてきたのは、日本だけでなくカナダやオーストラリア等の国も同様なのだが、中国の人々の厄介な箇所が同和政策的にウイグル自治区やチベット自治区でも漢族を増やし、ウイグル人とチベット人を圧迫してゆく手法が確立してしまっている点だと、しらさぎ会派は中国政府の首席を始めとする国の代表者たちの前で述べた。同和政策が当然の様に行われ、元々その土地に居る民族を軽んじ、漢族が主義主張、そして己の習慣を押し通してしまう。個々の中国人がそれぞれに支配者意識を抱いていると表現したほうが良いかもしれないとまで、モリは国家主席を見据えながら言った。
日本に居る中国人が中国のSNSで投稿した動画を幾つか見せる。飲酒しながらの運転や速度超過で人を轢き殺した映像、飲食店内で店員を殴り、日本人を罵る等の映像を投影した。
「これは一部分に過ぎません。こんな事件が毎週の様に起きています。私達日本人にも我慢の限界がございます。これ以上の増加を抑制する上で、国にお帰り頂くのが最善と考えたのです」
元よりウイグルやチベットでの鬼畜行為を容認してきた政府だ。この程度の映像で悔い改めるワケが無いだろうとは思っていた。ウイグル・チベットの方がもっと残虐だからだ。
この前段で、中国政府の失政を覆い隠せる「餌」をバラ撒いていた。
イラン産石油の中国提供の道へ導いたのはモリだと中国政府も知っている。更に、与那国島沖合での石油備蓄基地建設案の公表と同時に、効率的な運搬方法も開示している。中国が真似すれば安い原油の運搬費もセーブできる。
異常な額面の補正予算が、中国内のEV車価格の競争を煽ったのは周知の事実だ。しかし、技術的に最高位にあるメーカーが価格競争に対応できずに操業を止め、自動車業界の全体のビジネスモデルをおかしくし、収益の上がらない業界に変えたのは、明らかに政府の責任だった。共産党の幹部達が失政を認めないのは百も承知していたので、倒産した企業を買うと宣言した。
米国と台湾から半導体が入ってこなくなり、中国製IT機器は汎用機で安価な製品しか製造できなくなった。
そこへCPUやキャッシュメモリ、光学カメラ、センサー等の主要部品以外の、微細サイズの汎用半導体の提供を申し入れた。スマホ等のモバイル機器の小型化と省電力化に繋がるので、従来製品との違いが訴求出来るはずだ。
これら3種の「餌」で、80万人中半分の40万人を日本から追い出す策を中国政府に同意させた。たとえ追い出せなくとも、中国政府に対峙して、目前で頷かせるのが今回の訪中の「大義」だった。
ーーー
中国側の事情である、「一つの中国」を理解しようとせず、自治省内の少数民族への支援を「国際法違反、国連憲章違反だ」と罵り、天安門広場で献花を許せば、子飼いの放送局に「愛すべき中国が憎悪の対象に転じた事件」と報じさせる始末。誰もが怒りを鎮めて、モリの話を聞いていた。
当然ながら、日本に於ける中国人比率を下げるつもりは元から考えていなかった。
「民間人が観光したがるので、政府が抑制するには難がありました、申し訳無い」と頭を下げれば済む話だ。
自然豊かな日本列島を同胞の居住圏とする方針は何一つ変更しない。日本人の人口が下がる一方なのだから、その代役を同邦人が担えばいいだけの話なのだ。
とはいえ、しらさぎ会派の議員達の政策によって、人口減少に本当に歯止めがかかるのかどうかは、暫く経ってみなければ分からない。
また、冬季・春節期間中の訪日を中止するだけで良いのだから、それ以外季節での観光客数を増やして、何割かが日本に留まるようになれば良いと考えた。そして、現時点では与党である日本政府に、訪中を促す。
全てはしらさぎ会派の提案以上の成果を得る為、少しでも日本からむしり取る為だ。
崩れ落ち始めているとはいえ、腐っても与党だ。金蔓の経団連も与党側だ。しらさぎ会派以上の貢物を持って来るだろうと中国政府は考えた。
例えば、台湾海峡での軍事演習費用に匹敵する相当額を日本からの「投資」で賄う等。
とにかく両天秤にかけて、取れるだけ取るのが中国政府の腕の見せ所だった。
ーーー
唯一日本に留まった屋崎真麻議員が、7月の出産の為に沖縄入りしたのは、モリ一行の帰国時、岩国空港で前田外相が降りた際に、搭乗してきた。
直近の出産対象者で沖縄入りしていないのは、岐阜県知事の村井幸乃を残すのみとなった。
7月まで4人の女が5人の子を産む・・屋崎真麻議員と姉の由真はそんな話の後、中国でのしらさぎ会派と中国の大臣達との会談録を元に語り合っていた。真麻のお腹がもう少し小さければ、姉妹で一緒に中国に行けたのだが。
真麻議員は訪中前のしらさぎ会派の会議には出席しているので、中国側が要求を飲んだとしても、約束は守らないであろうと議論していたのは知っている。
そもそも、国内の経済指数を平気で改竄する様な国だ。約束など簡単に反故にしてしまうのは真麻議員も認識していた。
真麻議員の選挙区でもある出雲市でレッドスター社の工業団地が建設中だが、その一角で優先的に進めてきたモバイル工場とカーナビ工場での製造が始まっていた。真麻も毎日の様に出社してアリア社長とリタと共に、事務処理を手伝い、製造工程を見守った。あとは品質保証部門が認定すれば、晴れて順次出荷となる。
北海道には梅雨がないので、既に旅行のハイシーズンを迎えている。
先行してAIタブレットを石狩、トマム、小樽のホテルと飲食店、そしてタクシードライバーに配送する。タブレットにはAI翻訳と端末決済機能のアプリが入っており、世界の主要言語の翻訳により旅行者との会話を支え、各種カードと各種PayPay払いに対応する。
AIナビは亮磨議員の選挙区である前出3地域に展開しているレンタカーに搭載する。運転に不慣れだったり、日本の道路標識が判別できない旅行者を母国語で支え、危険運転と判断するとブレーキとハンドル操作をAIが奪ってしまう。
AIナビは設定する必要があるので、トレーニングを終えた100名の山岳民族のレッドスター社女性社員が北海道へ渡る。
亮磨議員の事務所にも各地から段ボールが届いていると聞くが、大変なのを承知で端末の配布と、AIナビと女性社員のレンタカー会社への送迎を要請していた。
北海道が終わったら、沖縄4区と那覇市のホテルと飲食店とタクシードライバーへの端末送付、そしてレンタカー会社へのAIナビの設置をこの梅雨の間に済ませねばならない。
「無償でいいって先生が言ったら、亮磨さんが駄目ですって怒った顔で言うの。 でもその後の先生の説明で息子も黙っちゃった。ええっとね、AIが宿泊料や飲食費の正規料金を把握して10%チャージした金額を観光客に伝えるの、サービス費加算合計として。そのチャージ分がレッドスター社の収益となる。当然ながら日本人にはチャージしない」
妹の真麻議員がベランダに向かいながら言う。姉の由真の部屋に妹が転がり込んだ状況だ。
「ええっ?でもホテル予約時に先払いでカード決済したら?」
「日本人ってホテル内であんまり消費しないけど、ホテルの中で完結するのよね。マッサージとか風呂上がりのビールとか、ホテル内のレストランとかサービス使いまくるわけ、チェックアウトの精算時に総金額の10%をオンするの。AIの計算に間違いは無いもの」
「あ、じゃあさ、タクシー料金を表示するメーターは?あれにはチャージ額10%を表記できないでしょ?」
「AIには簡単なんだって、タクシー料金が丁度千円だったとするでしょ?「乗車料金は千円で、サービス費込みで千百円になります」ってAIが国の言葉でいうと、料金メーターの数値を修正するの。そういうプログラムを勝手にAIが組み込んじゃう。賢いよねえ」
「何か、出来ないものはないの?」
「魔法かなぁ?」と真麻が言うので、「🎵マハリーク、マハラーヤラ、ヤンバラヤンヤンヤン」と歌いながら由真は妹の尻を叩いた。
「お姉ちゃん、しらさぎ会派が中国向けの投資を取り消す可能性は知ってるよね?」
「うん。上海の街を散歩してる時に内緒だぞって先生から聞いた。ホテルは盗聴されてる可能性があるからね」
「盗聴って・・ひょっとして、先生は誰とも寝てないの?」
「あー・・私が我慢できなかったから、録音されてても共産党にバレても構いません、抱いて下さいってお願いした。映像が撮られるのは流石に不味いから、布団の中で重なり合って、ね。あぁ、ワタシだけじゃないよ護衛のモン族の2人も順番に・・」
「どうせ、毎晩でしょ?」妹のマッタリとした視線に、姉が剥れるので、妹が同意して見せる。
「先生だもん、仕方ないよ。それに、可愛い姪っ子が彼を襲ってる最中だろうし」
「それは違いないじゃろうて・・どうせ、直ぐに逆転して征服されちゃうんだけどね・・チッ、玲子に任せず、自分で行けばよかったな〜」
と言いながら姉が部屋に戻ってベッドに倒れ込んだので、妹も歩いていってその隣に倒れて、姉を抱きしめた。
ーーー
中国情報局は昨日から騒ぎとなっていた。迷宮入り確実とまで言われた重大事件が、大きく前進するかもしれないからだ。重大事件で検出された様々なDNAの中の一つが、北京のホテルで検出されたモリの髪の毛と、布団に僅かに付着した精液が一致した。
時間をおいて3度の検査を経て、それぞれの結果を再度確認すると、情報局の王敏部長は中国の外務省に当たる外交部へ向かった。
(つづく)
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