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月桂花に酔う


月の世界には
金木犀に似た、巨大な香木がある

月桂花の樹の下で
毎晩開催される
飲茶会

兎の執事が淹れる桂花茶は
虹の入江産

僕は少し気だるげに
蔓のような金飾が施された
器を口元へと運ぶ

甘く、鼻にツン、と通ってゆく
濃密な香しさが
僕の感覚を麻痺させてゆく

もう、
何年経過したかは忘れてしまった
変わらない風景、変わらない毎日

ここには、僕以外にも
ヒキガエルへと変えられた
罪深き踊り子がいて

とても気まぐれで、お転婆で
自由気ままで
今夜も静かの海で
縦横無尽に魅力を振り撒き
踊り明かしているかも知れない

彼女は
いつの間にか目の前にいて
こう言うんだ

「私と貴方は一心同体、裏と表、鏡の姿、離れ難い運命、離れてもそこに居る」

刹那、無いはずの風が巻き起こり
何かを思い出しそうになる

嗚呼そうだ、彼女の言う通り
呆れながらも一緒に居るのは
彼女が僕の欲望の体現者だから

彼女の自由さに
僕は堪らなく恋焦がれて

桂花茶に酔い
きみの甘い罪深さにも酔わされて

気だるくも愉悦な日々は
延々と続いてゆく




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