鑑賞ゲリラ Vol.50『満ちてゆく』アーティストトーク 2024/10/6開催
開催情報
【開催日】2024 年 10 月 6 日(日)
【会場】Gallery Laura
【展覧会】中谷ゆうこ個展「そのぬくもり」
会期:2024 年 9 月 28 日(土)ー10 月 12 日(土)
【出品作家】
中谷 ゆうこ (NAKAYA Yuko)
内容
車座になって作家さんへの質問形式で行いました。
▶光そのものを描いているようですけれども、それはどんな意味があるのですか?
中谷ゆうこさん(以下、中谷):確かにそうです。少し前までは輪郭のしっかりしたものを描いていましたが、輪郭をあえて消そうとして、それからは輪郭を目の敵にしていました。どうしてそうなったかと言うと、自分で描ける端と端を描いてみようと思って、その時は、端っこや輪郭をしっかり描いて色を重ねて構図も考えて、私はこういうのも描ける、こういう絵も描けると硬い硬い絵を描いていて、一方では、ある意味、対極の何も考えずに感覚の方だけで描く、無限と有限という、私の中では別の絵だと思われるようなものを描きました。
すると、自分が今までやっていたコンセプトを考えて構図を考えてと色々な事を考えてやった絵より、感覚だけで描いた絵が楽で楽しかった。その時からコンセプトとか構図を重要視しなくなって、光とか色々と囲われていたものを解放して、自由にして、輪郭も消していきました。輪郭というのは境界で境界を超える、いろんな意味の境界です。抽象なのか具象なのかそういう境界だったり、立体なのか平面なのかという境界だったり、色んな意味で境界を超えて行けるといいなというコンセプトを連動させて、いまはこんな絵を描いています。
▶明るい光の部分と暗い所のコントラストがはっきり描かれているのと、描くときは色を重ねられていると思うのですが、明暗の描き方をお聞きしたいです。
中谷::明暗は難しいなと思います。光とか、あるものだけで作品を成立させたい気はするのですが、光というのは陰陽というか、コントラストで暗闇とペアになっていています。世の中は全般的そうだと思います。
▶絵の中で光が広がっていく感じがします。意識しておられますか?
中谷::シャボン玉を膨らませて、ボンと弾ける瞬間を描きたい。色は重ねます。最初はすごくリアルで、消していって消していって分からないようにします。
▶白い所がパールのようですが、何かモデルがあるのですか?
中谷::白っぽく見えますけれど、たくさん色を使っています。黒のところなどほぼ全色が混ざり合っています。黒い所も何かのグラテーションになっています。色をすべて解放した結果です。キューっとなって、ボンみたいな感覚です。今回は絵を横に描かずに前後に描こう、出てくる様にとか掘っている様にと意識しました。
▶対話型鑑賞の中で、向こうにいく感じとか、出てくる感じとかの意見がありました。絵の中のモワモワとしたものは何なのですか?
感想なのですが、波のような所もおどろおどろしい感じがせずに、毛布に包まれているような波に包まれているような安心感があります。
中谷::ずいぶん前なのですが、穴の絵を描いていたことがあります。心にぽっかり開いた穴を描こうと思って、それはちょっと怖いと言われました。その時、その穴は何ですかと聞かれた時に、意識を通り抜ける入口を描いていますと言っていました。意識下の虫の知らせのような、みんなが心の奥に持っている世界に通じる穴を描いていました。
▶絵のモチーフになっているお子さんの絵と、それ以外の絵はどんな関係があるのですか?
中谷::今年のお正月に絵の展示の仕事が決まっていなくて、スケジュールが空いていて、私のアイデンティティは何かと考えて、誰々風じゃないのは 30 年前に描いた自分の子供、赤ちゃんを変わった角度からみた頭部の絵だなと思って、それを今描いてみようと思いました。螺旋状に上がっていってそこから俯瞰的に見て、そこに焦点を当ててみようと思ったのがきっかけです。赤ちゃんを描いているのですが、赤ちゃんからでる空気や光、出る粒子のようなポワンとしたものを描きたい、抽象的な絵も最初は具体的なものがあったのですが空気のようなものを描いています。
▶具体的に見えないものも、赤ちゃんの気配や存在感が描かれているのですか?
中谷::赤ちゃんだけではないですが、様々なもののベースから出てきているものを描きたいです。
▶先ほど、赤ちゃんの鼻の下から口元、あごのあたりがちょっと長くて、今そこから動いてくる感じあるという発言がありましたが、そこから全部動いて細かい粒になる感覚を抱くのですが。
中谷::私もすごくそう思います。私たちが細かい粒であることはみんな全てものが共通していて、たまたま人間になっただけと感じています。
▶授乳の経験はありますが、幸せな光の感情の反面、生んでしまった責任感のような重い感情も抱いたのですが、絵に反映されていますか?
中谷::私は男の人でも、全員の人が、お母さんの産道を通った経験を持っていて、覚えていないけれど感じる場所が作りたいし、感じて欲しいと思っています。そういうテーマで描きました。
▶絵に生死のイメージがあるのですが、そういう側面もありますか?
中谷::輪廻転生はイメージのベースにあって、地面の塵になった後でオタマジャクシになって戻ってこられるだろうといった、くるくると回って循環している感覚はベースにあります。フワフワとしているイメージにもそれがあります。
でも、今回の展示はもうちょっとはっきりしていて、生まれる前と後、直前直後みたいなものをイメージしました。赤ちゃんなのか胎児なのか分からないけど、私の中ではそこは幅広く思っていました。
母子像は昔から描かれてきたモチーフの一つです。
まず、最初にこの作品を見た時は、男の人目線の母子像ではなくて、母親目線の母子像であり、母の慈愛のようなものを勝手に感じていました。でも、アーティストトークで、中谷さんのお話を伺ううちに、生きているもの、生きてはいないけれどそこにあるものへの慈愛に満ちた作品群であると気づかされました。
ふわっと膨らんでボンと弾ける瞬間、私も感じて生きていきたいです。
【レポート】野中美佳
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