【2023年最新版】テレビ業界図鑑~業界の仕組みからキー局の動向を全部まとめてみた~
近年、「テレビ離れ」というワードを聞くことが増えました。若者はテレビを見ないと言われ、テレビ局のプロデューサーやアナウンサー独立のニュースも多くなっている気がします。
テレビは本当に終わってしまったメディアなのでしょうか?
実は日本のコンテンツ市場規模11兆8,275億円のうち、地上テレビ番組が21.9%、衛星・CATV番組が7.0%、合わせると市場の全体の約3割(3兆4199億円/28.9%)を占めています。
円グラフを見るとテレビの力が依然として巨大で、存在感があることが分かります。テレビの影響力がいまだに大きいことは、皆さんも何となく実感としてあるのではないでしょうか。
そんなテレビ業界の現況、各局の現状と動向を見ていくのが本noteの趣旨です。「テレビはオワコン」という文脈でテレビのコンテンツ作りに関する議論は多いですが、テレビ業界の仕組み、成り立ち、数字の話については意外と知られてないことも多いかと思います。
もしかすると、読者の方にとって興味のないトピックもあるかもしれません。基本的には大見出しごとに独立した章になっているので、興味のある箇所だけ読んでも問題ありません。また、目次も設けいますので、ご興味のある箇所だけでも読んで頂けると幸いです。
1.放送の種類:送信方法で大きくわけると4つある
そもそも、テレビは電波を私たちがテレビやスマホなど何かの端末で受信することで観ているのですが、電波の送信方法や違いについて見ていきたいと思います。
「地上波」「BS」「CS」という単語は1度は聞いたことがあるかと思いますが、どのように違うのかと聞かれるときちんと説明できる人は多くはないはずです。
この章ではテレビ放送の送信方法について説明します。放送は送信方法別に分けると、以下の4つに大きく分けると考えられています。
1-1.地上放送
いわゆる地上波こと、地上放送。地上や見通しの良い山頂などから設置されたテレビ塔・アンテナから電波を放出し、放送を提供する仕組みです。
例えば、東京タワーも2018年までは地上放送の電波送信を行っていました。こちらは何となく皆さんも仕組みを知っているかと思います。日本で放送が始まって以来、使われてきた昔からある送信方法です。
1-2.衛星放送
衛星放送は、衛星を用いて宇宙から電波を発することで広範囲に放送を提供する送信方法です。
詳細に説明すると、まず地上局から衛星に向けて送信(アップリンク、と呼ぶ)、その次に衛星からアンテナを設置している各契約者に送信(ダウンリンク、と呼ぶ)するのです。
衛星は中継する役割を担っていて、トランスポンダーと呼ばれたりします。衛星放送のメリットは、宇宙から電波を降らせるわけなので、受信できる地域が広大です。
一方でデメリットとまで言わないですが、衛星ならではの弱点があります。「食」と言われるものです(響き的にベルセルクの「蝕」を思い出します…)。衛星が地球の陰に入るため、一時的に電波が止まり放送中止になる時間があります。これを「食」と呼びます。ただし、そこまで長い期間止まるわけではありません。
さて、皆さんはBSとCSの違いが説明できるでしょうか?
衛星には2種類あり、放送衛星、通信衛星の2つがあります。放送放送(Broadcasting Satellite)の英字の頭文字をとって、BSと一般的に呼ばれます。通信衛星(Communications Satellite)はCSになります。そのため、BS放送、CS放送と言われます。
さらにCS放送は東経110度CSと東経124/128度CSの2種類に分けられます。つまり衛星の飛んでいる場所の違いです。
放送衛星と通信衛星の違いですが、放送衛星は名前の通り放送を提供することに特化しており、通信衛星は企業や団体向けの通信を提供することが目的の衛星です。
そのため、BS放送とCS放送は区別して考えられていましたが、技術的な差異(かつては放送衛星の方が放送できる出力が大きかったが、通信衛星も改善された)がなくなったためBSと東経110度CSは「衛星基幹放送」、東経124/128度CSは「衛星一般放送」と区分されるようになりました。
また、「衛星基幹放送」と「衛星一般放送」に登場する事業者のプレイヤーは異なります。
「衛星基幹放送」には「衛星基幹放送事業者」と「基幹放送局提供事業者」が登場します。上の図にあるように、衛星基幹放送事業者は番組の制作会社です。基幹放送局提供事業者は、衛星基幹放送事業者から委託されて番組を放送します。
「衛生一般放送」に登場する「衛星一般放送事業者」は番組の制作会社で、「電気通信事業者」は衛星の管理・運用を担当します。
1-3.有線放送
いわゆるケーブルテレビと呼ばれるのが、有線放送です。銅のメタルケーブル、光ケーブルの有線で放送を提供する放送方法です。山間部など電波が届かない地域にも受信できる手段として広く普及しました。
群馬県伊香保で初のケーブルテレビが1955年(テレビ放送の2年後)に誕生します。その後、首都圏を中心にケーブルテレビのブームが起こりました。
ケーブルテレビは自主放送を行うもの、再送信のみ行うものの2つに大きく分けることができます。自主放送とはつまり独自の番組を配信すること、再送信のみ行うのは当初のケーブルテレビの成り立ちに沿って難視聴対策を行っているということです。
1-4.IP放送
Internet Protocol (IP) を利用する放送方法です。IP放送はIPTVと呼ばれ、NTTぷららが提供する「ひかりTV」がその例です。広義のIPTVでは、NetflixやYouTubeも含まれます。狭義のIPTVは、「ひかりTV」や「スカパー!光」があげられます。
2.放送業界の市場規模
放送業界の市場規模、概況はどうなっているのでしょうか。ここではテレビ業界を市場規模というマクロな観点から見ていきたいと思います。
結論から申し上げると、放送業界は2008年に起きたリーマンショック以降、市場は下降線をたどっています。さらに、新型コロナウイルスにより2020年度は3兆5,552億円まで縮小します。
冒頭の日本のコンテンツ市場規模の円グラフを覚えてますでしょうか?日本のテレビ市場というのは下降トレンドにあり、コンテンツ全体の市場規模ではまだまだ存在感があるが、いずれコンテンツ市場全体に占める割合も減るであろうジリ貧状態なのです。
ただ、上記の棒グラフで着目するべき点があります。民間放送事業者(民放)が伸び悩んでいるにも関わらず、NHKはリーマンショック以降から売上を伸ばしているのです。12年間で約500億円も売上を伸ばしています。
NHKが市場全体より高い成長率を遂げていることが分かりました。そのようなNHK、伸び悩んでいる民放それぞれの収益源を次の章で見ていきましょう。
3.NHKと民法の収益源/地上放送のビジネスモデル
3-1.NHKの収益源
そもそも、私たちはなぜNHKに受信料を払う必要があるのでしょうか?放送を律している放送法という法律があります。放送法の第64条に下記の文章があります。
これがNHKの受信料を払う根拠であり、NHKのビジネスモデルとは国民からの「受信料」を徴収することになります。
ちなみにNHKは公式HPにて、なぜ受信料を回収するのか下記のように説明しています(どう思うかは皆さんに委ねますw)。
そんなNHKですが、決算表を見ると受信料だけで売上高6,801億円(2021年度)もあります。2020年度と比較すると94億円減ですが、これは2020年の受信料の値下げによるものです。
下の契約者数の推移のグラフを見てほしいのですが、売上に伴ってNHKの契約者数もきちんと伸びています。(NHKをぶっ壊す!と主張している政治家がいますが、実質NHKは成長の一途をたどっています)。
NHKはリーマンショック以降も、きちんと受信契約数を伸ばし続け売上を増やしていったのです。たまにネットでNHKの受信料を回収する業者と、どうしても払いたくない人のバトル動画がSNSでアップされています。おそらくバトルしているのはごく少数で、受信料を払ってもらう泥臭い営業努力が功を奏しているものと考えられます。
ただ、NHKの前会長・前田晃伸氏時代に訪問に頼らない営業への転換をする動きがあり、2023年9月に全廃へ動きだしています。
3-2.民放の収益源・地上波テレビ広告費の概況
私たちは民放テレビについては無料で放送を楽しむことができます。民放の収益源は、企業からの「広告収入」だからです。これを広告放送と言います。
日本のテレビ業界とは、国民から受信料を徴収しているNHKと企業から広告収入を得ている民間テレビ放送局の二元体制とされています。
ちなみに民放の売上トップは日本テレビで2022年3月期の売上は3,007億円なので、いかにNHKの売上高のすごさが分かるでしょう(グループ全体での売上でなく、広告収入の売上の比較という意味です)。民放のトップの売上の2倍以上の数字をNHKは稼いでいます。
民放は広告収入が主な収益源ですが、テレビに払う広告費はどのようなトレンドなのでしょうか?
地上波テレビ広告費は、2007年には1兆9,000億円ありましたが、やはりリーマンショックで下降トレンドになり、2020年は1兆5,386億円までに落ち込んでいます。
広告収入が売上の多くを占める民放は広告市場のトレンドに左右されます。その広告市場は景気に左右されます。
景気→広告市場→地上波テレビ広告費と影響を受けていくわけですが、浮き沈み激しいボラのある市場ということがわかります。
補足ですが、民放はスポンサー企業のCMを流す代わりに収入を得るビジネスモデルですが、その間には広告代理店が介在します。電通・博報堂のような代理店です。スポンサー企業と民放が直取引をしてもいいのですが、両社ともに広告代理店に仲介役をしてもらうことで業務の負担を減らせるのです。
4.衛星放送/有線放送のビジネスモデル
放送方法の違いと収益源の違いは関係があります。地上放送はNHKの受信料徴収モデル、民法の広告収入モデルで分かれますが、衛星放送と有線放送はビジネスモデルが多様化しています。
衛星基幹放送事業者、ケーブルテレビ事業者は加入料、月額視聴料が収益源です。他にもペイ・パー・ビュー(PPV)のような有料コンテンツに料金を支払って視聴するマネタイズ手法があります。衛生放送、有線放送はこれらマネタイズを組合せて収益化を図っています。
4-1 衛星放送の収支状況、WOWOW・スカパー!の加入者数
BS放送、東経110度CS放送、衛星一般放送の収支状況は以下のように推移しています。BS放送、東経110度CS放送と衛星一般放送いずれも厳しい状況が続いています。
BS放送の事業者を代表する会社としてWOWOWがあります。WOWOWは民間で日本初の有料放送を行った衛星基幹放送事業者です。
WOWOWの加入件数の推移をみると、2018年にピークを迎え、以降は加入件数が下がっていることが分かります。2020年から2022年の巣ごもり需要に乗れなかったことがわかります。
WOWOWといえば、スポーツ大会の放送で有名ですが、コロナで大会は相次いで中止に。地上波をのぞく独占放映権を獲得していたサッカー欧州選手権を放送できず、会員が激減したのです。
衛星一般放送を代表する事業者にスカパー!があります。スカパー!は「スカパー!プレミアムサービス」を提供していますが、加入者は2005年以降激減しています。
ただ、スカパー!はメディア事業以外に宇宙事業も手掛けています。売上高はメディア事業のほうが大きいですが、営業利益でみると宇宙事業はメディア事業の約3倍以上もあります。
スカパー!はメディア事業でのイメージが強いですが、実は宇宙産業領域の会社なのです。メディア事業は苦戦していますが、宇宙事業は増収しておりカバーしています。
加入者が減り続け、巣ごもり需要に乗り切れなかったWOWOW。FIFAワールドカップカタール2022はABEMAが放送し、スポーツ大会といえば・・・の代名詞まで奪われようとしています。
スカパー!も加入者数が激減していますが、宇宙事業が伸びており実はそこまで大きな痛手はないのかもしれません。
元祖サブスクサービスともいえるWOWOWがどう起死回生を図るのか、注目です。
4-2.ケーブルテレビの収支状況、J:COMの事例
さて、ケーブルテレビ事業の2021年度の営業収益は、4,990億円でした。5,000億円台をここ数年うろうろしています。
ケーブルテレビの加入世帯は年々増加しています。ケーブルテレビの事業者というのは番組放送だけでなく、インターネット接続サービス、電話などそのほかの通信サービスの提供もしています。サービスのフルパックでの提供スタイル、それが加入世帯が伸びている理由の1つだと考えられます。
こちらはJ:COMの新規入会のページのキャプチャです。なんと他VODサービスのNETFLIXやDisney+を抱き合わせで提供しています。さらに、セットでオススメという触れ込みでネットやスマホまでサービス提供しているのです。
生活における通信インフラ、多様なコンテンツをワンパッケージで提供してくれるケーブルテレビが伸びる理由が消費者目線からでもわかります。
ここで例として出したJ:COMを提供するジェイコム株式会社について少し説明をします。ジェイコム株式会社はMOSと呼ばれる複数のケーブルテレビ局を統括・運営する事業者です。
MOSとはMultiple System Operatorの略で、ケーブルテレビが発展しているアメリカでは1960年代半ばに登場しています。日本では1993年にケーブルテレビ事業者に大きな規制緩和が行われ、ジェイコム株式会社のようなMSOが日本に登場したのです。
それまでどのような規制があったのかというと、ケーブルテレビは電波が届かない地域にも受信できる手段として発展した背景があり、地域密着型の独占事業でした。そのため、地域ごとに免許が付与されて1つの地域に1つのケーブルテレビ事業者しかいなかったのです。
それでは他社の脅威がないので競争が起きず、事業者も顧客努力を行おうとしません。1地域に1事業者というルールが撤廃され、ケーブルテレビの普及とサービス向上につながったのです。
5.NHK、キー局5社の現況と動向分析
いよいよ、NHK、キー局5社のイマを分析したいと思います。キー局の力くらべをしていきましょう。
また、この章ではキー局の個別の説明をする前に「キー局、準キー局とはそそもそもなにか」という話から、放送業界ならではのルールについても説明したいと思います。
5-1.NHKの現況と動向
NHKこと日本放送協会は、放送法の規定により公共の福祉のために設立された法人です。実はNHKの設立の歴史は古く、なんと1925年設立になります。この年にラジオ放送が始まり、翌年の1926年に社団法人日本放送協会が設立されました。放送法の制定により、社団法人日本放送協会は解散して、現在の特殊法人日本放送協会となるのです。
NHKの経営は、国会の承認を得て首相が任命した経営委員が行います。予算・決算・受信料も国会の承認が必要です。
経営委員会が最高機関であり、彼らの決定によって協会の代表と業務の総理である会長が選出されます。実務の経営はNHK会長が執り行っています。
NHKの成り立ちと組織図について見たところで、ビジネスモデルについてもう少し見てみましょう。「NHKと民法の収益源/地上放送のビジネスモデル」の章でも紹介しましたが、2021年度の受信料の売上は6,801億円でした。全体売上の事業収入は7,009億円なので、受信料以外の収益源があることになります。
そのうちのひとつが、NHKオンデマンドという配信サービス、他配信事業者への番組販売です。例えばU-NEXTなど他VODサービスに番組販売しています。NHKでは、これらの事業を有料インターネット活用業務と呼び、2021年度は46億円の売上がありました。
この有料インターネット活用業務は、放送法において補完的な任意業務だとして予算に制約が設けられています。しかし「この放送法の制度が時代と合わないのでは?」という指摘からNHKの在り方を検討する有識者による公共放送ワーキンググループというもので議論がされています。
一方でNHKが肥大化することに疑問視、反対する声も上がっています。放送以外のネット業務を広げることは放送法の守備範囲外であり、国民も公共放送に対して受信料の支払い義務を受けているという考え方です。NHKがネット活用を進めることに世論がどのような反応を示すのか、マスメディアの在り方について今後考える必要があるでしょう。
少し話が脱線しましたが、受信料以外の収益源としては、協会が持っている資産(NHKホール)の利用料等があります。
最後に特筆すべきこととしては、NHKはネット常時同時配信を始めた先駆者でもあります。常時同時配信・見逃し配信サービス「NHKプラス」を2020年にスタートさせました。ちなみに民放がネット常時同時配信に踏めこめなかったのは、出演者や番組の権利の処理など煩雑で面倒だからです。ただ、先ほど紹介したようにNHKのネット活用に疑問視をする声もあります。
NHKは市場成長率を上回る勢いで成長を続け、民放よりも新しい取り組みに果敢に挑戦する王者であり、チャレンジャーなのです。そして、その発展について不安視している人も少なからずいるのです。
5-2.「キー局」と「準キー局」そして「ローカル局」
キー局の説明をする前に、そもそもキー局、準キー局、ローカル局がどのような定義なのか見ていきたいと思います。
簡単にいうと、どの都道府県を拠点とするかで名前が変わります。
さて、キー局がどこなのかについても紹介しましょう。キー局とは以下の5社を指します。
ここで1つテレビ放送に関する基本的なルールを紹介します。テレビ放送では、原則として1つの県域までしか放送できません。例えば、秋田にあるテレビ局は秋田にしか放送ができません。
ただし、関東、関西、中部は例外です。関東、関西、中部では複数の県域に放送することができるのです。これを県域免許制度と呼びます。
しかし、1つのテレビ局で全国すべてに放送することは不可能です。そこで、東京にあるキー局を中心に、全国にあるローカル局をネットワークさせ、全国各地に同じ番組・CMを提供しているのです。これをネットワーク協定と言います。
ネットワーク協定では、下記の3つについて結ぶことになります。
それぞれのキー局のネットワーク名を日本テレビのネットワークはNNN系、TBSはJFN系、フジテレビはFNS系、テレビ朝日はANN系、テレビ東京はTXN系と言います。
ちなみにABEMAを創ったサイバーエージェントの藤田晋社長は福井県出身ですが、ローカル局のネットワークが弱かったのかNHK2チャンネルと民放2局しか見られない環境だったそうです。それがABEMAを創った原点だそうです。
5-3.「マスメディア集中排除原則」と「認定放送持株会社制度」
県域免許制度について説明しましたが、ここでは放送にまつわる一部ルールについて紹介したいと思います。
大前提のルールとして放送事業者は免許制です。免許の有効期間は5年で更新し続ける必要があります。これは電波法という「電波の公平かつ能率的な利用の確保を通じて公的利益の拡大を目指す法律」の中で定められていることです。そのため、だれかれかまわずテレビ放送できるわけではないのです。
また、放送業界を規制するルールに「マスメディア集中排除原則」というものがあります。こちらは「放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的」とする放送法に基づくものです。
例えば放送できる事業者が1社のみの寡占状態だとしたらどうでしょうか?大きな収益を得られるばかりか、情報の多様性が失われて偏った情報しかない世の中になってしまいます。
そうしたことを防ぐために「マスメディア集中排除原則」という1つの事業者が複数の放送局を所有することを規制するルールがありました。これにより放送の多元性・多様性・地域性の確保を目指したのです。
しかし、インターネットの登場など様々なメディアが増えてきたので、私たちも様々なメディアから情報を見聞きすることができるようになりました。そのため、「マスメディア集中排除原則」が時代にそぐなわくなり、むしろ経営の選択肢を狭めてしまう可能性が出てきたのです。
そこで緩和されて登場したのが「認定放送持株会社」です。この制度を利用すると、マスメディア集中排除原則の特例として複数の放送事業者を傘下に置くことが可能となるのです。多くの会社が「〇〇・ホールディングス」という社名の認定放送持株会社を設立しています。
ただし、これにはルールがあり放送子会社の放送できる対象の地域が12以下にならないといけません。
例えば、キー局は東京にありますから、県域免許制度に則って関東圏の7エリアに放送ができます。そのため、7とカウントされます。
下記はキー局、準キー局の関係会社の一覧です。
例えば、一番左端のフジ・メディア・ホールディングスですが、かなり関係企業が多いです。福島、岩手、沖縄、関西、秋田、熊本・・・。あれ、13エリアを超えてそうです。
しかし、よく見てみると図の中に出資比率が書いてあります。認定放送持株会社制度では、県が重複しない場合は議決権10分の1超え3分の1以下の保有については12エリアのカウントの対象外なのです。重複する県では議決権10分の1超えの株式保有は禁止です。
これを利用してキー局はローカル局の株式を3分の1を超えない程度に保有しているのです。
5-4.日本テレビの現況と動向
さて、キー局やネットワーク、放送業界のルールについて説明したところでキー局別の現況と動向を見ていきましょう。
なぜ、日本テレビ(以下、日テレ)を1番はじめに紹介するのか?それは、日テレが民放テレビ局においては歴史が最も古いからです。
日テレは「日本テレビ放送網株式会社」が正式名称で、2012年に認定放送持株会社の「日本テレビホールディングス」を設立しました。1953年に開局され、2013年は日テレ60周年ということもあり新しい船出としてホールディングスに移行したのです。
さて、そんな民放最古参の日テレの業績を見てみましょう。2016年3月期に売上4000億円を突破した日テレですが、コロナの影響で2021年3月期には4000億円を割ってしまいます。
日テレですが、2022年5月に2022年から2024年にかけての中期経営企画を出しています。これらにもとづいて日テレの今後を見ていきましょう。
中期経営計画を見ると、日テレは「コンテンツの価値最大化」にあらゆる施策で力を入れている、重要としていることが分かります。
日テレにはオーディション番組の成功体験が根強くあります。2021年に一大ブームになったJYPとソニーミュージック主催の「Nizi Project」はスッキリで特集企画として定期的に放送されました。2022年にはSKI-HY主導のボーイズグループ発掘プロジェクト「THE FIRST」を取り上げ、NiZiUとBE:FIRSTという人気アイドルグループを世に送り出した実績があります。
NiziUで味をしめた感がするのですが、日テレはオーディション番組を引き続き多数企画しており、今後もどこかの事務所やグループと組んで番組開発していくでしょう。
IPを新しく作ることにも熱心で、「まんが王国」で有名なビーグリー社とコンテンツ共創していくそうです。ここでもマンガ家発掘のオーディション番組「THE TOKIWA」をやっています(笑)
個人的に日テレのIP活用で着目しているのは、タツノコプロのIPをどう活用するのかです。2014年にタカラトミーが保有する株式のうち、発行済み株式54.3%を取得し子会社化しています。決算資料にも「ハクション大魔王」のアクビちゃんがしれっと登場しているのですが、あまりタツノコプロのIPを上手く使いこなせている感がしません。
海外展開を軸としたアニメ事業の配信も強化すると言っているので、もしかするとタツノコプロのIPリメイクで世界配信・・・なんてこともあるかもしれません。(かつてヤッターマン、キャシャーン、ガッチャマンなど実写化されましたが、どれも大ヒットはしませんでした・・・)
他にも、日テレもテレビだけのメディアではなく、VODやTVerなどのTVODへの配信、コンテンツ作りに力を入れています。日テレの特徴の1つとして、2014年からHuluの日本向けサービスを継承したことがあります。
「続きはHuluで!」などテレビとVODの連動したコンテンツ作りを行ってきました。「君と世界が終わる日に」はHuluの目玉コンテンツです。Disneyと戦略的協業に合意、「金田一少年の事件簿」を世界配信しました。最近ではNetflixと組んで「名アシスト有吉」を制作すると発表。VODと組んでの世界配信の取り組みが増えていきそうです。
「新規ビジネス創出の加速」についてですが、日テレはVtuber事業に力を入れてます。VTuberメインのインフルエンサー事務所の株式会社 ClaN Entertainmentを分社化。社内ベンチャーとして立ち上がり、他にも新規事業を立ち上げていくとあります。
最後の重点目標の「ウェルネス経済圏の構築」ですが、実はスポーツジムのティップネスは日テレのグループ企業です。しかも関連会社で日本テレビ放送網に続く売上2位のグループ会社です。ティップネスもコロナ禍で1年間休業していたこともあり、売上が大幅に下がった理由でもあります。
ティップネスは2014年にグループ入りしており、2014年は日本テレがタツノコプロ、Hulu、ティップネスなどかなり投資と買収に力をいれていたことが分かります。
日テレは民放の最古参企業で、近年はオーディション番組を起点にIP創出を図っています。ただし、このフォーマットがいつまで続くかは分かりません。また、2014年にグループ入りした企業が、日テレ傘下でシナジーを生みながら大きく羽ばたいていけるのかが注目ポイントです。
5-5.フジテレビの現況と動向
さて、続いてはフジテレビことフジ・メディア・ホールディングスです。フジテレビは最も早く認定放送持株会社を設立しましたが、ライブドア事件の影響だと考えられています。
フジテレビ(以下、フジ)は文化放送とニッポン放送のラジオ局を主体とし、東宝、松竹、大映の映画会社各社が参加して1957年に「株式会社富士テレビジョン」として会社を設立。これは4番目としての民放誕生です。しかし、当時のテレビの解像度では富士の”富”の字を綺麗に映すことができず、フジ表記になったそうです。
さて、フジの業績推移ですが、2020円3月まで売上高6000億円規模を維持していました。これは認定放送持株会社としては他社を大きく引き離す数字です。しかし、2021年3月は売上を1000億円以上下げてしまっています。また、純利益は2012年の600億円をピークに現在は低迷しています。
フジを知るのに第82期中間報告書が役立ちました。なぜなら、グループの売上構成比率とセグメントがパッと見て分かるからです。都市開発・観光事業も行っていることが分かります。(テレビ東京以外、何かしら不動産事業をやっています)。
まず、「メディア・コンテンツ事業」で特筆すべき点をいくつか紹介します。
フジはなんといっても「ワンピース」のアニメ放送をしています。「ONE PIECE FIRM RED」は全世界で興行収入が300億円突破した大ヒットコンテンツです。アニメコンテンツに力を入れる、というような明確な指針は出てないのですが間違いなくフジを支える大黒柱はワンピースでしょう。
また、フジはグループ企業に映像・音楽ソフトメーカーの「ポニーキャニオン」を抱えています。フジの大人気ドラマ「silent」ですが、その主題歌を担当したofficial髭男dismの所属レコードレーベルはポニーキャニオン内のIRORI Recordsです。同じグループ内でシナジーを生んでいることがわかります。
また、フジは「FOD」という動画配信サービスも運営しています。会員数は2022年11月時点で100万人を突破しており、ドラマや映画だけでなく雑誌・マンガも読めるサービスです。個人的な意見ですが「ガリレオ」「医龍」「花ざかりの君たちへ」「リッチマン・プアウーマン」「コンフィデンスマンJP」など人気作品を配信しており、かつシリーズ化に成功しているドラマが多いので魅力的なドラマ作りが上手いのがフジの強みだと思います。
フジは「都市開発・観光事業」も行っています。サンケイビルというグループ企業が中心になってオフィスビルなど事業展開をしていますが、最近は劇場も手掛けています。それが「Hareza(ハレザ)池袋」です。8つの劇場、貸しスペースがあるのですが、私自身も何度か足を運んでみて非常に活気のある場所という印象を受けました。
フジは認定放送持株会社として他キー局と比較して売上高は頭1つ抜けている会社です。
5-6.TBSの現況と動向
続いて紹介するのが2番目の放送局として誕生したTBSです。1951年に「株式会社ラジオ東京」として設立、株式会社TBSホールディングスとしてこれまた2番目に認定放送持株会社を設立したキー局です。
TBSもフジテレビと同じようにIT企業と争った歴史があり、2005年に楽天が株式会社東京放送の15%超の株式を公開買付けを行い、TBSは株式会社東京放送ホールディングスを認定放送持株会社として設立、移行する吸収分割というM&Aを実施して防いだのです。
株式会社東京放送は株式会社TBSテレビとして名前を変え、株式会社東京放送ホールディングスは株式会社TBSホールディングスに商号変更しています。
さて、TBSの業績推移ですが売上高が3400~3600億円台で10年ほど推移しています。この数年で4000億円突破を狙っていきたいところでしょうか。2021年度3月は2020年度より減益してしまいましたが、純利益を2013年から伸ばしています。
TBSはTBSグループ 統合報告書2022を出していて、分かりやすい資料なのでこれをもとに現況と動向を見ていきます。
上図を見て分かるようにTBSも他のキー局と同様にメディア・コンテンツのグループ企業が多く、不動産事業を手掛けていることが分かります。
TBSのコンテンツ戦略は、とにかく世界市場。Netflix、Disney+、下図にはないですがAmazonPrimeなどのVODサービスで世界配信をしています。
他にもTHE SEVENという『今際の国のアリスSeason2』『幽☆遊☆白書』などを手掛ける森井輝プロデューサー所属の300億円規模の制作予算を擁するコンテンツ企画・開発会社を設立。Netflix と戦略的提携契約を結び、世界市場に向けてコンテンツ制作をしています。
また、TBSはテレビ東京・WOWOWと一緒にプレミアム・プラットフォーム・ジャパンを通してParaviを運営してましたが、U-NEXTに移管・経営統合することになりました。テレビ東京はテレ東BIZ、WOWOWはWOWOWオンデマンドという独自の配信サービスを運営しており、もしかするとParavi内での3社の足並みは揃ってなかったのかもしれません。そして、TBSはとにかく世界を目指しているので、国内VODサービスのParaviから離れたかった可能性があります。
他にもTBSはNAVER WEBTOON、SHINE Partnersと3社合弁でwebtoon制作会社「Studio TooN」を設立、グローバルIP戦略を進めています。
最後に特筆するべき点としては舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」を公演しているTBS赤坂ACTシアターでしょう。赤坂駅を出てすぐののハリー・ポッターの世界観、コラボカフェなど赤坂をハリー・ポッターの世界へと魔法をかけたように変貌させたのです。
TBSは不動産事業の戦略として、赤坂をエンタメの街に作り替えようとしています。舞台ハリポタの次にどのような一手を打つのか注目です。
TBSテレビは世界へのコンテンツプロバイダーとして大きく戦略の舵切りをしたように思えます。グローバルの人々をうならせるコンテンツ・IPを生み出せるのか注目です。
5-7.テレビ朝日の現況と動向
テレビ朝日(以下、テレ朝)は、1957年に「株式会社日本教育テレビ」として設立されました。東映、日本経済新聞社、旺文社などが名前の通り当初は教育番組専門局として設立したのです。
2014年に認定放送持株会社として「株式会社テレビ朝日ホールディングス」を設立しました。これはキー局の中で最も遅い対応です。
テレ朝の業績推移ですが、2018年3月に念願の売上3000億円を突破したもの、以降は2000億円台に戻るという結果に。
テレ朝も新経営計画2023-2025なる今後の戦略について発表していたので、それをもとに見ていきましょう。
テレ朝の戦略を見ると、まだ地上波に力を入れようとしていることが分かります。しかし、最強コンテンツの編成テーブルを完成させる、という真新しさのない戦略のように思います。
ただ、テレ朝が本当に力を入れてやりたいのはIP強化、インターネット配信の強化でしょう。
成り立ちから東映がいるので、今でもテレ朝の株主には東映がいます。そのため、テレ朝では仮面ライダー・戦隊シリーズなど東映IPが放送されています。ちなみに講談社も株主で、テレ朝で放送された「ブルーロック」の版元は講談社です。
ドラえもん、クレヨンしんちゃんという国民的IPも放送しており、「ユーリ!!!on ICE」などオリジナルIPも作ってきたテレ朝。Webtoonの事業化にチャレンジするとあり、今後のIP戦略の動きに注目です。
上図の戦略の書き方の順番を見るに、W杯とタイミングがかぶり、女性ファンがつきそうなブルーロックですがあまり人気が跳ねなかったのかなと思います。やはり、「ユーリ!!!on ICE」のオリジナルIPの成功体験が強く、テレ朝もオリジナルIPを開発したいという気持ちが一層強まったのではないでしょうか。
インターネット戦略で特筆すべきは、なんといってもABEMAをサイバーエージェントと一緒に運営していることでしょう。テレ朝代表取締役会長の早河会長とサイバーエージェント藤田社長が酒の席で意気投合したことから始まりました。ABEMAはFIFA ワールドカップ カタール 2022を多額の放映料を払い放送、配信サービスとして知名度を一気に上げました。
他にもKDDIと合同でTELASAを運営。2023年度に会員数200万人突破を目指しているらしく、TELASA的にどれくらいの目標数なのか分からないのですが実はFODに匹敵するくらい会員数がいるのかもしれません(多分いないとは思いますが・・・笑)。
また、サービスページにいくとアニメ見逃し配信とタイのコンテンツを押し出しています。TELASA会員ではないので分からないのですが、タイのコンテンツといえばTELASAという独自ポジションを築き上げているかもしれません。
テレ朝は有望なIPを持ち、かつサイバーエージェントやKDDIなどと組んで配信サービスを運営していることがポイントです。IP、ABEMAが大きく跳ねる可能性があります。
かつて「二強(TBS・日テレ)二弱(テレビ朝・フジ)一番外地(テレ東)」というワードがありました。テレ朝が二弱の汚名を挽回できるのか注目です。
5-8.テレビ東京の現況と動向
それでは、キー局の最後としてテレビ東京(以下、テレ東)を紹介します。
テレ東は1964年に日本科学技術振興財団テレビ局(通称東京12チャンネル)として、教育専門局として開局しました。その後、1969年11月に日本経済新聞社が資本参加、1981年にテレビ東京に商号変更します(ここまでに色々な経緯がありますが長くなるので割愛)。2010年に認定放送持株会社として「株式会社テレビ東京ホールディングス」を設立します。
テレ東の業績推移ですが、2019年3月に売上高1492億円と過去最高の売上高になりますが、コロナ禍で2年連続前年度割れ、2022年3月は増収増益になりました。数字の規模感を見ても他キー局より小さいことが分かります。
テレ東は2022 中期経営計画を発表しています。他キー局は資料のクオリティには差はあれど何枚かの資料でしたが、テレ東はpdfのペライチ一枚です(笑)各局が臨時ニュースを放送する中、通販を放送しているなど異質な存在のテレビ局ですが資料も群を抜いてます。
今後の成長戦略はシンプルに「配信とアニメ」です。「ポケットモンスター」「遊☆戯☆王」「NARUTO -ナルト-」など、テレビ東は一度は誰もがハマったアニメを放送してきました。近年では「チェンソーマン」「SPY×FAMILY」など話題作・ヒット作も放送しています。
2019年に中国にアニメ共同制作の為の新会社設立を設立。2021年にアニメ専門の CS 放送『AT-X』を運営する株式会社エー・ティー・エックスを完全子会社化。これによりアニメ事業の大幅な強化ができました。
2022年の中期経営計画にはアニメ事業は欧米市場向けを大幅に強化するとあります。つまり国内、中国はもう種をまき終わり、欧米という新しい市場に行こうとしています。
2022年はシンガポール拠点でNFTのゲームプラットフォームを運営する Digital Entertainment Asset Pte. Ltd.に約 3 億円出資、クラウドサーカス株式
会社との共同事業による“アニメ特化型”NFT マーケットプレイス『fancity』を開設するなどNFTにも力を入れています。東南アジアで映像配信事
業を手掛ける POPS Worldwide約4億500 万円の出資もしており、アニメ事業の文脈で世界に手を広げています。
テレビ東京の恐ろしいところは戦略についての説明資料はペライチで済ませているのですが、その実はアニメ文脈で世界展開する事業の種をまいており、しれっとNFTなど新しい領域に挑戦しています。
気になるのはParaviをU-NEXTに渡した今、コンテンツ制作の投資をどこに向けるのかという話です。テレ東はU-NEXTと戦略的業務提携を締結し、Paravi 向けと同様にU-NEXTへコンテンツを提供するとあります。それだけなのか気になるところです。
また、1年でYouTubeチャンネル登録者数100万人達成した日経テレ東大学を閉鎖、プロデューサーの高橋さんは退職されました。一部の報道では日経がNGを出したとあるのですが、内部の複雑な事情も気になるところです。
5-9.キー局のテレビ局単体の売上比較
キー局別にグループ全体の売上をグラフで紹介しましたが、放送局単体で売上比較したのが下記のグラフです。日本テレビがトップの3007億円、グループ全体で売上トップのフジテレビは放送局単体では3位です。「二強二弱一番外地」のテレ朝は放送事業で2位にまで地位を上げたのです。
6.コマーシャルの仕組み(種類と料金)
ここではコマーシャルについて詳しく見ていきたいと思います。テレビ局の収入源な訳ですが、どういった仕組みなのでしょうか?
テレビでCMを流したいと思ったとき、その時間の放送枠を買う必要があります。CMを流せる時間というのは有限です。この買い付けをバイイングと呼びます。
近年はラクスルが運営するノバセルなどバイイングから分析まで一気通貫のサービスも出てきてます。
CMにはタイムCMとスポットCMの2種類があります。下図の日テレの決算資料にはタイム、スポットと単語が出てきています。タイムCM、スポットCMが分かれば決算資料をより深く読み込むことができます。
6-1.タイムCMとは
タイムCMは番組CMと呼ばれ、企業が個別の番組のスポンサーとして放送するCMのことを指します。例えば「この番組は、ご覧のスポンサーの提供でお送りしております」と聞くことがあります。これがタイムCMです。M-1の日清など有名ですよね。
タイムCMは原則として最低30秒単位、契約は原則として基本的に2クール(6か月)です。タイムCMの放送秒数別の画面内の提示、アナウンスは下図の通りになります。長い秒数を買えば買うほど、アナウンスできる音声の内容も増えます。
タイムCMには、放送エリアによる分類があります。それが、ネットタイムとローカルタイムです。
タイムCMの料金は、基本的に電波料、制作費、ネット費で構成されています。
電波料とは、テレビ局が広告主に放送時間を貸す代わりに得られる対価です。CMを放送するのにかかる料金です。番組の視聴率が高いと料金は跳ね上がります。また、ネットタイムかローカルタイムで流すかで料金も変動するので、値段は一律ではありません。
制作費とは、提供する番組そのものを制作する費用です。ただし、著作権は著作権法により、原則としてテレビ局に帰属します。
気になる番組制作費ですが、各番組の制作費は週刊誌で報道されていたりしますが、どこまで信用できるソースか分かりません。2007年に関西テレビで「発掘!あるある大事典Ⅱ」でデータ捏造事件がありました。その際に報告書が提出され、番組制作費は3205万円とありました。もう15年前の話なので、週刊誌が報じている1000万円~2000万円という数字は近い数字なのかもしれません。
ネット費とは、キー局で制作した番組を他局に送り出す際にかかる回線費用です。
6-2.スポットCMとは
スポットCMとは、番組に関係なく、テレビ局が定める時間に挿入されるCM枠内でCMを放送する広告です。スポットCMの最小単位は15秒です。
スポットCMは、通称ステブレと呼ばれるステーションブレイク(番組と番組の間に設定されたCM枠)、通称PTと呼ばれるパーティシペーティングスポット(番組時間内に設定されたCM枠)の枠で放送されます。
さて、スポットCMの料金ですがパーコストという指標を用いて計算します。
スポットCMの契約にはGRPという単語が用いられます。GRPとは「Gross Rating Point(グロス・レイティング・ポイント)」の略語で、一定期間に放送されたテレビCMの視聴率を合計したものです。15秒CMが1単位です。
テレビ朝日が分かりやすく解説してくれているので、図も用いて見てみましょう。例えば聴率10%の番組に10本、5%の番組に5本、3%の番組に2本、計17本のCMを流したとします。その合計のGRPは131となります。
そして、1GRP=視聴率1%につき値段はいくらか?と計算することをパーコストと呼ぶのです。
パーコストが1万円として、先ほどの131GRPをかけると131万円になります。このようにスポットCMの計算はされているのです。
各テレビ局が視聴率を気にするのは、スポットCMが大きく関係しています。
例えば、平均視聴率10%、20%のテレビ局があるとして、1000GRPのスポットCMを流したいとします。
1000GRP÷10=100本
1000GRP÷20=50本
視聴率が高いとCMの数が少なくGRPを達成できます。パーコストを仮に1万円だとすると1000万円を稼ぐのに視聴率10%だとCM枠を100本使いますが、視聴率20%だとCM50本で良いわけです。つまり、視聴率が良ければ良いほどスポットCMを稼ぐ効率が良くなるのです。
ここまではテレビ局側のロジックで見てきましたが、スポンサー企業からすると安く、効率よく、費用対効果良くスポットCMを出したいですよね。しかし、スポットCMはスポンサー企業は時間指定ができないのです。時間指定できてしまうと、ゴールデンタイムに集中してしまうからです。
そこでスポットCMの出稿パターンはテレビ局側が配分しています。これを時間取り、もしくは線引きと呼びます。
ここでもテレビ朝日の図を参考にします(CM出稿してもらおうという営業努力を感じます)。
それぞれのパターンを紹介します。パーコストの単価は時間取りのパターンで上下、季節の込み具合で変動します。
全日型・・・時間帯の指定が無く、すべての時間帯でまんべんなく放送。テレビ局からすると視聴率の低い時間帯も埋まるのでありがたい。パーコスト休め。
ヨの字型・・・平日の朝帯、昼帯、プライムタイム、土日全日に放送。成人男女、主婦がターゲット。
コの字型・・・平日の朝帯とプライムタイム、土日全日に放送。OLや若い主婦、出勤するビジネスパーソン、学生がターゲット。
逆L字型・・・平日のプライムタイム(18時台、23時台)と土日全日に放送。ビジネスパーソンが対象。プライムタイムの放送なのでパーコスト高め。
7.視聴率の仕組み
それでは最後に視聴率の仕組みをみましょう。よく聞く視聴率ですが、実はいくつかの種類に分かれているのです。
7-1.私たちはどれくらいテレビを観ているのか?
テレビ離れというワードがありますが、私たちはどの程度テレビを観ているのでしょうか?そして、若者のテレビ離れというのは本当なのでしょうか?
「テレビ(リアルタイム)視聴」、「テレビ(録画)視聴」、「インターネット利用」、「新聞閲読」及び「ラジオ聴取」の平均利用時間と行為者率を平日、休日別で総務省が出しています。
平日で見ると、全世代のネット利用がテレビ(リアルタイム)視聴を2020年に上回ったことが分かります。
また、10代と20代は平日・休日ともにインターネット利用の平均利用時間が長いです。行為者率(1日何かに15分以上接触した人の割合)を見ても、10代のテレビ(リアルタイム)視聴は60%を切っており、3人に1人はテレビを全く観ていないのです。
これがテレビ離れ、若者がテレビを観ないということの実態です。
7-2.世帯視聴率と個人視聴率
さて、この章の本編である視聴率について見ていきましょう。
視聴率とは、テレビ番組やテレビCMが放送されていた時間(リアルタイム)にどのくらいの世帯・人が視聴していたかを示す指標です。民放の視聴率のリサーチは主にビデオリサーチ社が行っています。サイトでは視聴率データを発表しているので、見てみると面白いです。
視聴率は大きくわけると2つに大別されます。世帯視聴率と個人視聴率です。
世帯視聴率とは、調査の最小単位が世帯で、番組を視聴する世帯の割合です。個人視聴率とは、世帯内の4歳以上の家族全員のなかで誰がどの程度番組を視聴したかを示します。
かつては視聴率とは世帯視聴率を指していましたが、厳密に図るのであれば個人視聴率が最適です。
例えば4人家族の10世帯のうち、6世帯がある番組を視聴していたとします。世帯視聴率は60%になりますが、各世帯で実は1人ずつしか見てないとすると個人視聴率では40%になります。同じ視聴状況ですが、視聴率の単位をどう切り取るかで数字が変わるのです。
7-3.タイムシフト視聴率と総合視聴率
近年、タイムシフト視聴率と総合視聴率という新しい視聴率が追加されました。
タイムシフト視聴率とは、放送から7日以内に視聴した番組がどれくらい再生されたかを示す数字です。例えば、TVerで見逃し配信でドラマを観た、みたいな数字も入ります。
総合視聴率とは、リアルタイム視聴率とタイムシフト視聴率の重複分を差し引いた視聴率です。
スポーツや報道は、ライブ配信や速報性の観点からリアルタイムの視聴率が重要視されますが、ドラマは自分の好きな時間で視聴したいものです。そのため、リアルタイム視聴率が低くても、タイムシフト視聴率で見てみるとランキング入りしているなんてこともあるのです。
また、民放ではTVerで見逃し配信を行っていますが、視聴率よりも何回再生回数が回ったのか視聴回数という指標も注目され始めています。
さいごに
ここまで読んで下さり有難うございました。
テレビを観られる仕組み、市場規模、ビジネスモデル、放送にまつわるルール、NHKとキー局の動向、コマーシャルの仕組み、視聴率の仕組みについて紹介してきました。
テレビ業界における基礎知識はおさえられる内容かと思いますが、まだまだ書き足りない部分はあります。
もともとはアニメ製作委員会に自身が参加する中で、テレビ業界の人とやり取りしているけど、テレビ業界のこと詳しくしらないな~と思い立ち、調べたことをまとめてみようと書いたnoteでした。(ここ間違っているよ、とかありましたら是非教えてください)
もし反響があれば加筆、アニメ製作委員会に参加している企業の業界を調べてまたnoteにしたいと思います。
参考文献・参考記事
図解入門業界研究 最新放送業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第5版] | 中野明 |本 | 通販 | Amazon
図解入門業界研究 最新コンテンツ業界の動向とカラクリがよくわかる本 [第4版] (How-nual図解入門業界研究) | 中野明 |本 | 通販 | Amazon
IPTVとは?インターネットTVとの違い、本格普及の可能性を探る【2分間Q&A(49)】 IP網を伝送経路としたビデオコンテンツ配信の仕組み|ビジネス+IT (sbbit.jp)
民放は無料なのに、なぜNHKは受信料を支払わなければいけないのか | NHK よくある質問集(FAQ)
衛星放送の仕組み|CS/BSってなに?|衛星放送協会 (eiseihoso.org)
総務省|令和3年版 情報通信白書|放送市場の規模 (soumu.go.jp)
https://www.ntvhd.co.jp/pdf_cms/news/2022_2024.pdf
r82_2212.pdf (fujimediahd.co.jp)
2021年度決算説明会資料 (tv-asahihd.co.jp)
②スポットCMのメリット・料金【テレビ広告のキホン】|日テレ広告ガイド|日テレADPORTAL|日本テレビ営業局 (ntv.co.jp)