「天国に一番近いドライバー」というキャッチコピーのあれこれの話。
挨拶
こんにちは、採用コピーライターのオヤマダです!
その昔、「天国に一番近いドライバー」というキャッチコピーの求人広告を書いたことがありました。「どんな仕事やねん!」と思われることも想定したキャッチコピーであります。今回はその経緯を話しつつ、僕がやっている仕事についてお話できればと思います。
こんな仕事の求人依頼でした
「遺体配送ドライバー」という仕事の求人広告制作依頼でした。
どういう仕事かというと、病院で亡くなられた人がいますよね。その人は葬儀場や自宅に運ばなければならないわけです。葬儀場に運ぶ場合は、葬儀場のプランの中に遺体配送が組み込まれていることが多いらしいです。
完全に余談ですが、僕の父の場合は、入院していた病院と葬儀場まで200メートルしか離れていなかったのにこの遺体配送に数万円かかったのも今となってもいい思い出です。
話がズレました。
で、ご自宅で葬儀をあげたいというご遺族の方々もいらっしゃるわけで、その場合、病院からご自宅までご遺体を配送しなければなりません。それが、「遺体配送ドライバー」という仕事なのです。
応募を集めるのが難しい求人
人の「死」に関わる仕事というのは、応募を集めるのが難しいんですよ。どうしても「死」に関わる仕事は嫌われてしまう傾向があり、新卒採用でも、中途採用でも、応募を集めるのがとても難しいです。「難易度S」というやつですね。
そのため、求人広告制作の取材はくわしくお話を聞きます。「死」との関わりがどこまでなのか。その部分が、求職者の「絶対に応募しない」と「応募してもいいかな?」の気持ちを分ける重要なポイントになるからです。
例えば、ご遺体に直接さわるのか・さわらないのか。ご遺体は欠損しているのか・していないのか。ご遺体とどれくらい一緒の時間をすごすのか。ご遺体と関わるのは一人なのか。こういうことが気になるわけですよ、求職者としては。
求人広告はウソをつけません。ウソをつく会社・ウソを書くライターは残念ながら存在しますが、僕は許されない行為だと思っています。正直に伝えなければ、結局、早期離職を誘発するだけで、みんなが不幸になるからです。僕自身も求人広告に騙された経験があるため、このあたりに関しては強い憤りがあり、この文章を書いている今も、当時の苦労と怒りを思い出して血圧が上昇。思考回路はショート寸前です。
「天国に一番近いドライバー」
そんな取材の中で、いろいろなことが分かりました。まず、ご遺体には直接触れないこと。なぜなら、手袋をして業務にのぞむ+運ぶときもご遺体の下に敷いた布製の担架みたいなものを使うから。そして、一人ではなく、必ず二人で組んで仕事をすること。病院で入院していた方が対象のため、事故や自殺などご遺体に激しい欠損がある場合は仕事を受けないことなどが分かりました。
さらにくわしくお聞きすると、ご遺体とはいえ、乱暴に扱ってはいけないものですから、礼節が求められること。つまり、ある程度のサービス精神がある方でなければ務まらない仕事ということが分かってきたのです。
では、誰をターゲットにするのか。僕は、タクシードライバー経験者をターゲットにすることにしました。
タクシードライバーという仕事は、稼げる機会はあるのですが、稼ごうとすると覚えることは多いし、結構大変です。稼ぎ時は夜の時間なのですが、酔っ払っている人も多いし、ドライバーに暴言を吐いてくる輩もいる。お金を払わずに逃げる人もいるとか。もちろん、そういったことは日常茶飯事ではないのですが、「客商売に疲れた……」という人はいるんだろうなぁと考えたわけです。
では、この遺体配送ドライバーという仕事はどうなのか。実は、結構稼げます。売上は1回数万円。一晩に3~4回配送がある。しかも載せるお客さんは暴言を吐かないし、酔っぱらってゲロを吐くこともない。しかも、ご遺族から仕事を感謝される。考えようによっては、天国のようなドライバーの仕事なわけでして、そこから「天国に一番近いドライバー」というキャッチコピーが生まれました。
が、結局、このキャッチコピーは没にしました。
その仕事を貶めてはいけない
求人広告制作を行なう身として気を付けなければならないことの一つに、「その仕事を貶めてはいけない」というものがあります。要は、「他人からどう見られるかをきちんと考えろ」ということです。
「天国に一番近いドライバー」は、応募が集まりにくいという状況の中、インパクトのあるキャッチコピーだし、ターゲットであるタクシードライバー経験者からすれば転職メリットを予感させる内容でもあります。
しかし、お客さんであるご遺族の立場になって考えたとき。大好きだったおじいちゃんが長い闘病生活を終えて自宅に帰ってくる、その移動を手伝ってくれる人が、「天国に一番近いドライバー」というキャッチコピーで、「配送は1回数万円、乗せるお客様も何もしゃべらないので楽チンなドライバーの仕事です」という求人広告で応募してきた人だったとしたら、どう思うでしょうか。
今や社名をネットで検索すればネット求人広告も検索ヒットする時代です。誰が見ているか、どう思われるかまで考えなければなりません。
そういうことも考えて、求人広告のキャッチコピーもボディコピーも、もう少し落ち着いたほうが良いだろうと考え、「礼節が求められるドライバー職(収入は高め)」といった感じになりました。
このように、
採用コピーライターという仕事は、自分に与えられた役割である「応募集める」というところだけを見て仕事をするのではなく、広告主である企業がどう見られるのか、どういう人が入社されると良いのか、といったところまで考えなければならないわけで、そこが難しいところであり、面白いところだったりするわけです。
さいごに
求人広告制作をするためには、思考を拡大させていってアイデアをバンバン出していくフェーズと、出し切ったアイデアを精査して取捨選択してあるべきカタチを模索していくフェーズがあります。
キャッチコピーのアイデアの中には「お客様はホトケ様です」というものもありました。これは「お客様は神様です」のパロディであり、上手く言えている側面はあるのですが、ご遺体のことをホトケというのはブラックジョークにもなり、不謹慎であるため没になっています。
ちなみに、この求人広告制作時の取材で、心霊体験談をお聞きしています。興味がある方はこちらの動画をご覧ください。
この話(↑)、当時作った求人広告に、少し言葉を濁していますが、仕事の厳しい一面として書いています。