【観劇レポ】自分の人生を生きているつもりでも ミュージカル「ジョンアンドジェン」
観劇レポ。今年最後の東京遠征&観劇納め・ミュージカル「ジョンアンドジェン」です。
日本初演のふたり芝居。一幕では姉ジェンと弟ジョン、二幕では親となったジェンと息子のジョンの、俳優二人だけで繰り広げられるミュージカル。
敬称略で、ジェンを新妻聖子と濱田めぐみ、ジョンを森崎ウィンと田代万里生が演じ、全4パターンで公演。
僕が観た回は、東京にて濱めぐさん✕マイフェアプリンス万里生くんの回(席は9列目)。そして観劇納めとして、大阪で新妻聖子ちゃん✕万里生くんの回(席は5列目)。
いずれも万里生くんのファンクラブでご用意いただいた良席でした。感謝。
ストーリー:ジェン
ストーリー全編を通じて一人の女性ジェンを演じます。一幕では父の暴力に支配される家庭からの脱出を願いつつ、弟を守ろうとする姉。二幕では喪った弟の影に囚われ、息子に弟の面影を重ねてしまう母親。
父への嫌悪、自由への憧れと過ち、弟への贖罪、笑顔の裏に心の闇が巣食っていて、「いかにもな闇」じゃなくて日常に見え隠れするようで、心をチクチクする。
この物語は、二人のジョンを通じて、ジェンという女性の心と人生を描くストーリーとも理解できます。そして観客はジェンを通してそれぞれにメッセージを受け取る気がする。
きょうだい喧嘩で、「うざい」「あいつなんかいなくなればいいのに」と思いながら、実際にいなくなると寂しいもの。それが戦死ならなおさら。もしかしたら「いなくなればいいのに」には、「絶対いなくならないけれど」という謎の自信を含んでいるのかもしれません。
ジェンは、父への嫌悪に積み重ねるように、その喪失経験がより一層闇を深くしてしまう。その結果、息子のジョンには過保護を超えて束縛とも言えるほどの、愛の押しつけを架してしまうのです。弟ジョンの喪失を埋めるように、息子に弟と同じジョンと名付け育てます。
愛は、執着になると苦しみに変わる。息子ジョンに愛も間違いなく与えていたけど、同時に苦しみや、自分が背負う闇、あるいは罪の意識までも与えてしまっていた。
それに気づいた時、ジェンからすれば息子を弟の身代わりのように扱っていたかもしれないという、新たな罪悪感も生まれてしまいかねませんが、その点はジョンが一人の人間として成長しようともがいていたために、ちゃんと浄化されてフィナーレを迎えられる、救いのある物語だったかなと思います。
また、単に親離れができない母親ではなく、幼少期の体験(父への嫌悪)があるからこその根深い心の鎖があるという点では、幼少期の体験は人格形成や人生の歩み方に大きく影響するということも感じます。
父の暴力は、ジェンにとって愛=支配のイメージにもなっていて、自由を求めていたり、次々に男の子をとっかえひっかえしたりするのはその反動とも受け取れます。弟ジョンに言ったセリフ「離れていても愛せるわ」は、父とは異なる愛の形を証明したかったからなのかも。
それでいて、結果的に愛ゆえに自分を縛り、息子を苦しめることになるというのがなんとも皮肉でつらい。
最終的には、過保護に育てた息子ジョンに平手打ちを咄嗟にしてしまうことが、ジェンが過ちに気づくきっかけにもなります。色々な闇を感じつつも、後味に救いを感じるのが、観客にとっても救いであると思います。
ストーリー:ジョン1
一幕では弟のジョン、二幕ではあえて弟と同じ名前をつけられたジェンの息子ジョンを演じます。公演パンフレットに倣い、一幕弟ジョンをジョン1、二幕息子ジョンをジョン2とします。ジョンイチとジョンジ。
ジョン1は無邪気な男の子。父の暴力に怯えながらも、父を偉大な人物として敬ってもいる。ジョン1にとって父は、「正しさ」の象徴でもあるように思いました。幼少期における親=世界そのものというのが、ジョンの立場でも描かれる。
そして姉のジェンは、そこそこ歳が離れていることもあり、なんだかんだ逆らえない人でもあり、頼れる存在でもある。僕は女きょうだいがいないので聞く限りしかしりませんが、姉弟って姉の権力が異常に強いような気がします。
そんな姉とも離別し、ジェンの大学進学、9.11テロなどをターニングポイントとして、家族や国を守る戦士になることを決めた青年ジョンは、姉と喧嘩別れしたまま19歳という若さで戦死。人が死んでしまうシーンは、どんな作品でも辛いですが、本作は特別辛いです。
ストーリー:ジョン2
ジョン2は、大人(というか母ジェン)の様子を伺って行動するところがある「いい子」な男の子。子どもらしい面もあるけど、野球が得意なジョン1と対照的に、作家志望でちょっと繊細な、今時の(?)男子って感じです。
ジェンはシングルマザーなので、ジョン2にとって母ジェンは絶対的な存在であり、もはや世界そのもの。一番愛をもらいたい相手。ジョン1が父との関係で縛られているのに対し、ジョン2は母との関係に縛られているのも対照的なところ。
反抗期も経つつ、念願の大学進学への切符を手に入れるも、母を一人残すことに後ろ髪を引かれ、進学を辞退しようとします。ジョン1が一人戦うことを決意した同じメロディで、ジョン2は母を一人にできないと自分の人生をある意味押し殺す決意をする。
弟ジョンの喪失を埋めるような愛され方をしたために、愛の返し方が自己犠牲的でつらい。
めぐジェン
一幕では、お姉さん感が強いジェン。ジョンだけではなく、近所のガキ大将とかも従えてそうな感じ。
ジェンの抱える心の闇については、節々で滲み出ているような印象です。そして本人が、その闇に気づいていない、あるいは気付かないフリをしているという感じがしました。ゆえに、二幕のめぐさんジェンは少し狂気的で、自分で自分を縛り続けているようでした。
ラストシーンで、自分の闇に気づいてリスタートする場面でも、ここで完全に吹っ切れたというよりは、まさにこれから少しずつ変わっていこう、と始まりを感じさせるキャラメイクだと思いました。じんわりとした浄化。
そして言うまでもなく、相変わらずの舞台支配力。歌はもちろんですが、めぐさんはストプレもすごい。演技の説得力がある、と表現したらいいのでしょうか。それでいてジェンに限らずですが、リアリティもありながら、どこか幻想的にも感じるのが濱めぐさんの不思議なところ。
聖子ジェン
一幕では、ちょっとおませな少女のようなジェン。年相応の女子という感じ。その少女がそのまま大人に、母になったのが二幕のジェン。
ジェンが抱える心の闇が、割とストレートに表れていた印象。
ラストシーンの印象は、めぐさんジェンと少し違って、ある程度この場面で吹っ切れたような清々しさがありました。リスタートというより、生まれ変わった、という感じ。風のような浄化。
めぐさんに負けず劣らず、聖子ちゃんもさすがの舞台支配力。声量とキーを一気に上げて放つ感じで、毎回思いますが耳じゃなく肌で聴くお声。
一幕のプリプリ感とうってかわって、二幕はご自身も小さなお子さんを育てる現在進行系の母親ということもあって、役・女優・母親というそれぞれの新妻聖子が交差していたようにも感じました。
万里生ジョン
エリザベートでは20代から60代までを演じられてましたが、今回は5歳から19歳まで。5歳。5歳ですよ。
そしてこれが驚きなんですが、演技によって体格や顔のつくりまで子どもらしく見える。かと思えば18歳くらいになると軍人を目指す青年らしくガッチリ体型に見える。え?肉体改造しながら演じてる…?!
歌声も、子ども時代の場面では、普段の万里生くんの発声とは異なる、子どもを意識した感じ。でも時々元来のええ声が顔を出して来る。あえて大人が子どもの役を演じる面白さを、まさに感じ取ることができます。
青年期はもうお手の物と言いますか、情緒たっぷりの美しいテノール。それに加えて怒りや対立の場面では、今までの色々なお役の顔が垣間見えるような表現でした。心なしかラドゥやグレブ、モンローが見える。
僕が万里生くんの好きなところは、もちろん歌の素晴らしさもありますが、俳優としての表現力。お役のキャラクターに対する解像度の高さとも言えます。
ジョン1くんでは、父に殴られたことを隠すときの顔、夫婦喧嘩を目の当たりにしたときの顔など、単に子どもらしい無邪気な面だけではなく、子どもが持つリアルな表情は全世界に見てほしい。
そしてジョン2くんでの、母の心を先読みして「いい子」を演じる様子も、計算ではなくて子どもの純粋な愛と安心への渇望から生まれる表情の機微が表れていて、もう素晴らしいとしか言えない。
演技とか関係なく申し上げるとすれば、とにかく好きな俳優さんが半パンで無邪気に舞台を走り回って「目潰し!ブシュ!ブシュ!」とか言ってるの尊すぎて語彙力が消える。まりまりに目潰しされるなら喜んで目を差し出す。さあどうぞ。
全てを魅せる演出
本作の特徴的な演出は、衣装替えを含めて全てを舞台上で行われるところです。二人の俳優はほぼ出ずっぱり。女性陣はさすがに一度引いてのお着替えもありますが、万里生くんに関してはたぶん一回くらいしか袖に引っ込んでない。
一幕冒頭、二幕冒頭とラストは、舞台上の端にあるイスに二人が着席してスタート/フィナーレということもあって、実際の演技が始まるまでのスタンバイ状態も客席から見える。
ステージを1つの区切りとして、役のオン・オフすらも見せるというところで、このストーリーの見え方に不思議な印象を加えているように思います。
言語化が難しいのですが、単純にストーリーを語る・見せるのでなく、過去のビデオを断片的に再現しているような印象もあります。またそれによって各場面と観客側のそれぞれの経験が知らず知らずのうちにリンクするような感覚もあります。没入感と現実感が絶妙に、かつ知らず知らずのうちに感じられる。
濱めぐさんと万里生くんは、ストレッチしたり、集中力を高めてそうな雰囲気でしたが、聖子ちゃんは楽器メンバーとお話したり、客席を見てニコニコしてたり、イスに座ってからも足をバタバタしてたりと、始まる前からそれぞれの個性が出ていました。
場面と場面の間でも、水分補給や汗を拭う姿まで見えて、舞台裏を舞台で観れるのもまた贅沢なもんやなぁと思いながら観ていました。
大人が子どもを演じる意味
子役を使わず、子どもの時代を経験として知った大人が子どものキャラクターを作り演じるということで、大人が思う子ども像/大人が思い出す子ども像を作り出しているように思いました。これも、ストーリーがどこかビデオ再生的に見えた要素なのかも。
多くの観客が大人である中、父性母性で鑑賞するのではなく、どこか自分の子ども時代や、自分にとっての子どものイメージとリンクさせるギミックにも感じました。僕だけかな?
父性母性で鑑賞するのでなく…と言いながら、各キャストの演技に胸キュンだった観客も多いと思いますけどね。僕もそうですし。
まとめ
2023年の観劇納め、二人芝居による2時間弱の作品ながら、この拙いレポで書ききれないくらい、とても重厚な物語でした。たぶん、書いたこと以外にもっと感じ取れることがあるし、観るタイミングによっても受け取り方が180度変わるようにも思います。
ジェンもジョン2も、自分の人生を自分のものとして生きているようで、実は色んなものに縛られて生きている。それは観客である僕も同じで、他人から押し付けられる鎖もあれば、自分で作り出した鎖もある。
縛りというとマイナスなイメージですが、時にそれはプラスにも働くこともある。生きる意味にさえなることもある。でも、あまりに強すぎる縛りは、自分も、大事な人も苦しめてしまうんですよね。「愛とは解き放つことよ 愛とは離れてあげること」という某作品の某男爵夫人の歌詞を思い出しました。
グランドミュージカルもいいですが、実力お墨付きの俳優陣によるお芝居というのも贅沢で味わい深いです。
12/27のアフタートークで、聖子ちゃんが言ってましたが、ミュージカルは音楽ありきでありながら、音楽を音楽じゃないレベルにまで仕上げないといけない(意訳)。この作品の音楽は非常に複雑で、一度聞いたくらいで覚えられないメロディですが、それをある意味乗り越えて観客に届けてくれる今回のキャスト4名はミュージカル界の宝です。
ウィンくんのジョンを観れなかったのと、大千穐楽(濱めぐさんと万里生くん)が仕事が納まらないせいで観れなかったのが悔やまれますが、最後の最後にいい作品に出会えました。満足。来年もこんな作品とたくさん出会えますように。
レポの本編はここまで。以下はおまけです。
ミニトークショー(12/27)
12/27の公演は、終演後にミニトークショーがありました。以下、記憶の限りでメモです。
冒頭、座る位置を探しつつ、スカートの聖子ちゃんを気遣って敷物を持ってこようとするうちのプリンス、本当に紳士ですよね!!!!それを「いいのいいの〜」と制して聖子ちゃんがブランケットを持ってきました。
ジョンとの思い出が詰まった青いブランケットを膝掛けにしながらトーク開始。このブランケットは、赤ん坊の役目も果たす小道具ですが、聖子ちゃんがブランケットを広げながら「赤ん坊を解体して…」って早々に爆弾発言してたのが聖子ちゃんらしい。
この日で大千穐楽の聖子ちゃんは、もう体も頭もボロボロと。ここで「アザはないですか?」と、ストーリーに引っ掛けたトークテーマを繰り出すうちのプリンス、スマートですよね!!!
あまり目立ちませんが、ステージに傾斜があるので足腰に来るらしい。しかも出ずっぱりやしね…。
絶対音感持ちでピアノも弾ける万里生くんは何でもできると、べた褒めする聖子ちゃん。そう、万里生くんは中高の音楽教師免許もお持ちなんですよね。本作は楽曲が超絶複雑で変拍子もあるので、お稽古でも、万里生くんが他の3人にレクチャーしてたそうです。ええーいいなその空間に混ぜてほしい。その部屋の壁としてでいいから。
聖子ちゃんは昼公演前に、万里生くんに勧められた長崎ちゃんぽんを食べに行ったそうです。12時にヘアメイクさんが来るのを分かっていて、開店11時半ピッタリに行ってちゃんと帰ってきたらしい。しかもちゃんと口臭ケアを実施済と。2時間出ずっぱりの舞台の前に、ちゃんぽん一人前とか普通に食べるんですね…。
終わりのチャイムが鳴り、聖子ちゃんの次回作をさり気なく紹介する万里生くん。万里生くんから、聖子ちゃんは守ってもらわなくても声で撃退しそうと言われ、「そうね…セルフガードってか?」と返して自分でウケる聖子ちゃん、今日も舌好調な通常運転ですね。ホンマに底抜けに楽しそうに笑いますよね。聖子ちゃんの口からプチ「エンダァァァァ〜♪」も漏れてました。
万里生くんは、新歌舞伎座の客席にある提灯がずっと気になっていたらしく、照明さんに「明かり点かないかな〜?」と投げかけるやいなや、ほんのり提灯にライトが点る。聖子ちゃんと二人で嬉しそうにしてたの、ホンマに幸せ空間やな。ここは楽園かな。
万里生くんから、この作品は観る人によって受け取るものが全く異なるとのお話があり、「グッときた人はそれだけ深い人生を歩んでいるのかも?」と笑ってました。万里生くんをはじめ、4人のキャストがいち人間としてこの作品を味わわれたのかも気になります。
東京から一公演も欠けずにフィナーレを迎えられることに感謝されつつ、聖子ちゃんは次の「ボディガード」、万里生くん(と濱めぐさんも)は大千穐楽翌日から「カムフロムアウェイ」のお稽古スタートと、それぞれ次回作もお伝えしつつ終了。
おまけ
余談ですが、写真の青い本は今回の公演パンフレット。2幕でジェンが持っている、弟ジョンとのアルバムと装丁が同じという粋なデザイン。しかも中身もアルバムか?と思うくらい写真が豊富。
そして人生で初めてアクリルスタンドを買ってしまいました。この世で最もやんごとないプラスチックを持ってしまった。今は部屋の端っこから僕を見守ってくれています。尊い…。
…おまけも以上です。この件は…終了だ…っ!(asグレブ)