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日本のコンテンツビジネスの市場規模はこの10年でどう変化したか/実は縮小していない書籍ビジネス
デジタル化がコンテンツビジネスに大きな変化をもたらしていることは、多くの方にとって実感があると思います。この変化について、市場規模のデータに注目して見てみたいと思います。
総務省情報通信政策研究所という所が、毎年「メディア・ソフトの制作及び流通の実態に関する調査」を行っています。その中で、日本における様々なコンテンツの市場規模のデータを出しています。“市場規模”とは、売上げの合計額ぐらいに考えておけば良いでしょう。また、ここでの“コンテンツ”には、デジタルコンテンツのほか、新聞や雑誌といった紙媒体のようなアナログのものも含みます。
最新のデータは2018年のものですが、10年前、すなわち2008年と比較してどのように変わっているのでしょうか。2008年といえば、日本でiPhoneが発売された年であり、スマホ時代の幕開けというターニングポイントとなった年といえます。
まず、コンテンツ全体の市場規模を見ると、2018年は11兆8,558億円、2008年は11兆8,391億円と、せいぜい微増といったところで実はあまり変わっていないという状況です。
ところが、コンテンツのカテゴリーごとに見てみると、大きな変化があることが分かります。下のグラフは、コンテンツのカテゴリーごとの市場規模を、2018年と2008年の比較ができるように整理してみたものです。上の棒が2018年、下の棒が2008年の数字を示しています。
このグラフは2018年の市場規模が大きい順に各コンテンツのカテゴリーを並べており、地上テレビ番組が1位(2兆8,261億円)で、2位ゲームソフト(1兆6,413億円)、3位新聞記事(1兆4,809億円)といった風に続きます。また、1兆円を超える市場規模となっているのはこれら3つのみということになります。新聞については、以前の記事で、10代の0.7%、40代でも5人に1人しか(休日に)読んでいないというデータを紹介しましたが、市場としてはまだ大きいですね。
10年前と比較した場合に目を惹く点として、ゲームソフトや映像系ネットオリジナルの市場規模が大幅に拡大しており、それぞれ138.8%と270.4%の増加となっていることが挙げられます。他方、雑誌ソフトは46.1%の減少とほぼ半分に、また、同じく紙媒体メインのコミックも25.9%の減少となっています。
その中で、やはり紙媒体メインの書籍ソフトについては、減少どころか11.9%の増加となっている点が大変興味深いです。
このような違いは何から来ているのでしょうか。ここで重要となる視点は、“一次流通”と“マルチユース”という流通方法の種類です。
調査の中で、“一次流通”とは、「あるソフトが、当初想定するメディアにおいて流通すること」と、“マルチユース”とは、「あるソフトが、内容の同一性を保ちつつ、当初想定したメディアとは異なるメディアで流通する場合のこと」と定義しています。これだけだと少し難しいですが、例えば書籍の場合、紙媒体の単行本で売ることは“一次流通”、電子書籍で売ることは“マルチユース”に当たります。
そして、書籍・コミック・雑誌の市場規模の変化について、“一次流通”と“マルチユース”の内訳を入れて示したものが下のグラフです。
書籍・コミック・雑誌に共通して“一次流通”は10年前に比べて減少しています。しかしながら、書籍は“一次流通”の減り方がコミックや雑誌に比べて小さいとともに、“マルチユース”が大きく増加していることが分かります。あくまでも市場規模という観点で見る限り、電子書籍というデジタル化の流れに一応は乗れているといえます。
ただし、“マルチユース”が全てデジタルというわけではないことに注意が必要です。すなわち、“マルチユース”には、例えば(“一次流通”である)単行本の書籍を文庫本で出すことや、(“一次流通”である)コミック誌に掲載したコミックを単行本で出すことも含みます。
また、コミックの場合、テレビアニメ化や映画化に伴い、原作者には二次使用料が入ってきます。調査では、このようなものを“素材利用”として“マルチユース”とは別に捉えている点にも注意が必要です(紹介したグラフには、“素材利用”は含まれていません)。
「メディア・ソフトの制作及び流通の実態に関する調査」は、毎年7~9月頃に調査結果が公表されます。次は2019年の数字が出てきますが、どのような変化が見られるかは引き続き要注目です。