富岡秀夫

元総務省情報通信経済室長/事業政策課・放送政策課企画官。これまでの仕事は通信市場の競争政策/外国との規制改革交渉/情報通信白書の編纂など。日本のICT/デジタル化にまつわるデータの分析や、トピックの解説をしていきます。記事は趣味として書いていますので、内容は全て個人の意見です。

富岡秀夫

元総務省情報通信経済室長/事業政策課・放送政策課企画官。これまでの仕事は通信市場の競争政策/外国との規制改革交渉/情報通信白書の編纂など。日本のICT/デジタル化にまつわるデータの分析や、トピックの解説をしていきます。記事は趣味として書いていますので、内容は全て個人の意見です。

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情報通信白書を通じて一番伝えたかった日本の最大の課題

前回の記事で書いたとおり、令和元年版情報通信白書について、書いた者の立場から解説するシリーズを始めたいと思います。最初に、白書を通じて一番伝えたかったことについてです。 ビジネスにとって大事なICTを、なぜか外注してしまう令和元年版情報通信白書では、今の日本のICTを巡る課題について書いています。その中で特にスポットを当てたのが、日本企業はICTの導入や運用を、SIerと呼ばれるICT企業に外注することが一般的ということでした。この国際的には珍しい行動様式について、歴史を振

    • 総務省を卒業しました

      2021年7月1日付けで、旧郵政省時代から24年にわたって働いてきた総務省を退職しました。私はまだ40代半ばですので、普通に勤め上げての退職というわけではないのですが、総務省で出来ることは十分やり切って、中退でも退学でもなく、卒業したという気分です。ちょうど今はどの組織にも属さない自由な立場にありますので、これまでの記事では踏み込まなかったことも含め、考えていることを書いてみたいと思います。 この一年間取り組んだNHK受信料制度改革noteの記事は個人の立場で書いていること

      • Googleがデジタル広告で市場支配力を獲得した方法と競争復活策としての“共通利用者ID”

        デジタル広告の分野では、世界的にGoogleが圧倒的な力を持つことにより、競争環境が歪められているとされており、日本を含む各国でこの問題に対応するための対策が検討されています。 EUでは、欧州委員会(EUの政府に当たります)が設立した“オンライン・プラットフォーム経済監視委員会”の専門家グループが、2021年2月26日に報告書を公表し、この問題についての分析を行っています。報告書では、“共通利用者ID(common consumer ID)”の仕組みを導入することなどで、様

        • デジタル課税:グローバルICT企業が税金を払わなくて済むための2つの方法

          今回は“デジタル課税”を巡る議論のお話をなるべくわかりやすく書いてみたいと思います。世界各国で「GAFAなどのグローバルICT企業は、世界のあらゆる国で儲けているにもかかわらず、その国に税金を払っていない」という強い不満の声が上がっている中で、このような状況に対応するための国際的なルール作りに向けた議論が行われている、という話です。 そもそもグローバルICT企業は、なぜ税金を払わなくても済むのでしょうか。ここでいう「税金」は、企業の所得(正確な所はややこしいのですが、簡単に

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          日本のコンテンツビジネスの市場規模はこの10年でどう変化したか/実は縮小していない書籍ビジネス

          デジタル化がコンテンツビジネスに大きな変化をもたらしていることは、多くの方にとって実感があると思います。この変化について、市場規模のデータに注目して見てみたいと思います。 総務省情報通信政策研究所という所が、毎年「メディア・ソフトの制作及び流通の実態に関する調査」を行っています。その中で、日本における様々なコンテンツの市場規模のデータを出しています。“市場規模”とは、売上げの合計額ぐらいに考えておけば良いでしょう。また、ここでの“コンテンツ”には、デジタルコンテンツのほか、

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          法の域外適用:外国ICT企業に適用する法律を作った話

          今回は法律の少し難しい話をなるべく分かりやすく書いてみたいと思います。前回の記事で、EUがGAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーを規制する法を色々と作っていることについて書きました。 これらの法の大前提として、「外国企業に対してもEUの法を適用する」ということがあります。このように、外国の人や物事に対して自国の法を適用することは、“域外適用”と呼ばれています。 実は日本でも、2020年の通常国会において、GAFAのような外国ICT企業への適用を念頭に置いた法律が

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          EUのGAFA規制法が色々ありすぎるのでできるだけ簡単に整理してみた

          2020年12月に、EUの政府に当たる欧州委員会が“デジタルサービス法”と“デジタル市場法”の2つの法案を公表したことは、日本でも大きくニュースに取り上げられています。 GAFAの母国である米国も含め、GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーを規制する法律を作る動きが世界的に出てきているのですが、今のところEUが一番積極的な動きを見せているように思えます。 ただし、EUのGAFA規制法と呼ばれるものが色々ありすぎてかなりややこしいですので、そのうち代表的なものにつ

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          政府のIT予算支出先ベンダーのランキング Top 20

          政府では、早ければ2021年9月に設立するデジタル庁の制度設計が大詰めを迎えています。組織や人事の面を従来の霞が関の官庁とは違った柔軟なものとするということで、前例や既存の法律との一貫性が極めて重視される法案作成という作業に携わっている方々の多大なご苦労が推察されます。 さて、デジタル庁が設立されると、政府の情報システム調達の在り方が大きく変わり、これまで受注してきた各ベンダーのビジネスにも影響することが予想されます。その前提として、政府の情報システム予算が現在どのように使

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          先進国での「中間層の没落」という問題の原因はデジタル化にある

          近年、格差というテーマが先進国に共通して議論されています。別の言葉で言うと、「中間層の没落」というテーマになると思います。4年前の2016年にトランプ大統領が誕生したことや、イギリス国民がEU離脱を選んだことにも、このテーマが大きく関係していたということが言われています。日本では、小泉政権時の政策が格差拡大を招いたといった議論もよく耳にしますが、先進国に共通しているテーマということからすると、そのような特定の国の特定の政策が主な原因とは考えにくいです。 それでは、何が原因な

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          「10代のテレビ視聴時間が激減」という総務省データを更に詳しく見てみる

          「若者のテレビ離れ」を示す数字として、総務省の情報通信白書に載っていたこんなデータがtwitterで話題になっていました。 これは、総務省の情報通信政策研究所が大学の研究者の方と共同で2012年から毎年行っている「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」の結果を紹介したものです。 情報通信白書に載っているグラフを別の形で表したのが次のものですが、10代の休日におけるテレビの平均視聴(録画を除くリアルタイムでの視聴)時間は一日当たり87.4分となっており、4年前の

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          20代が世帯主の家では、5%しか固定電話を持っていないという話

          11月12日に日本でPlayStation 5が発売されましたね。これが最後の据置型ゲーム機になるのではとも言われていますが、総務省が毎年行っている通信利用動向調査によると、最新のデータ(2019年9月末時点)では、25.2%の世帯が「インターネットに接続できるゲーム機」を保有しており、スマホゲームが広く楽しまれている中で、ゲーム専用機もそれなりに普及していることが分かります。 公表されている通信利用動向調査の統計表では、世帯主の年齢別、世帯年収別、都道府県別という風に、様

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          DXをIT部門に任せてはいけない理由を理解するための“取引費用”の基礎理論

          「DX(デジタル・トランスフォーメーション)は経営者自らが取り組むべきテーマであり、IT部門任せにしてはいけない」ということがよく言われます。このような主張は、「DXに本気で取り組むんだ!」という単なる精神論のように受け止められがちですが、決してそうではないということを、“取引費用(transaction cost)”の簡単な理論で解説したいと思います。なお、IT部門はこれまでモード1あるいはSoR(System of Record)と呼ばれる業務効率化のためのシステムを扱っ

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          日本にiPhoneが登場した2008年を境に通信機器の貿易統計の姿が大きく変わったという話

          10月23日にiPhone12が発売されましたね。5G対応という点が売りの一つであるものの、少なくとも今のところはまだビッグウェーブという感じではない気がしますが、今後どのように生活や社会を変えていくことになるのか注目したいと思います。 さて、iPhoneが日本に登場したのは2008年ですが、このことが日本における通信機器の輸出・輸入にもたらした大きな変化について紹介します。下のグラフは1976年(生産は1985年)以降の通信機器の生産・輸出・輸入の推移を示したものです。

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          東大とシリコンバレーの文系教育は何が違うのか

          “ICTと文系”というテーマ私のnoteでは、(まだ記事数は多くないのですが)ICTについての色々なデータを紹介しています。先日書いたこの記事が一部で話題になったようで、朝起きると一晩で12,000PV以上も集めていてびっくりでした。 2ちゃんねるの時代から文系vs理系というテーマには少なからぬ人々が関心を寄せていたように思います。この記事を書いた趣旨は、決して文系vs理系論を語りたかったわけではなく、日本の大学(院)教育について少し問題提起をしてみたかったというものです。

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          GAFA解体論を間違って理解しないために知っておくべき“L字型”の基礎理論

          「GAFAは巨大だから解体すべき」という誤解10月6日に、米国下院の反トラスト小委員会が、GAFAの分割も含む提言を盛り込んだ報告書を公表したことは、色々なニュースで取り上げられているとおりです。 あくまでも議会の提言ですので、必ずしもこのままGAFAの分割が進められるわけではないのですが、このような巨大企業の分割は、競争政策の界隈では構造分離(structural separation)と呼ばれ、米国ではこれまで実際に行われてきています。例えば、1911年には、連邦最高裁

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          日本のIT人材の51%は文系出身という話

          菅内閣が重要政策としてデジタル化を大きく打ち出して以来、日本がデジタル化で後れをとっているという話が毎日のように各種メディアの記事などで取り上げられています。そこでは、デジタル化のための人材が大事だ、ということが共通して言われているように思います。 私自身もやはり同感ですが、人材についてはそもそもメンバーシップ型雇用の中で、ICTの専門家が雇えないという根本的な問題があることを以前の記事で書きました。 先週話題になっていたこの記事にも、心の底から共感するところです。 そ

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