蟋蟀と待ちあわせたのはポストだった。【新潮新人賞応募作】
蟋蟀と待ちあわせたのはポストだった。銀杏アベニューのカッフェで俺に渡されたのは鳩の封蝋の押された手紙、代理人はやたらと上機嫌で、カンカン帽の角度をこまめにいじくりながら、たくわえた口髭をこゆびでしならせた。かんたんなことです。あいつはいつもそういう。ただ、待つだけ。そう、いつものようにあなたは待つだけ。能なしのあなたにはぴったりだ。いつもながら俺をさげすむのも忘れずに。ぴんとはじかれた銅貨、俺はダイヤルをまわした。黒電話はときどきしかあらわれない。十とひとつの交叉点のまんな