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国債発行はGDPに対して無意味ではない
もっと国債発行して政府支出を増やしても経済成長しない?
「日本は20年以上ほとんど経済成長(GDPの増加)していません。日本を他国並みに経済成長させるにはどうすればよいでしょうか?」という問いに対して、
A「政府がもっと国債を発行して支出すればいい。そうすれば経済成長する」
という意見があり、それに対して以下のような反論を見かけることがあります。
B「日本は過去20年間で大量に国債を発行し、国債発行残高は約2倍になった。しかしGDPはほぼ変わっていない。つまり国債を発行しても経済成長しないことは既に実証済みである。これ以上の国債発行は無意味であるばかりか国債の信認を失って暴落するリスクを高めるだけだ。他の方法を考えるべきだ」
GDPには政府支出が含まれますのでAは間違ってないのですが、Bの意見を聞くとAは間違いでBが正しいような印象を受けます。
しかしBは基本的なところを間違っています。
Bが何を間違っているかをわかりやすく説明するためにちょっとした話を考えました。
医者とガリの話
以下はガリガリに痩せて悩んでいる人と医者との対話です。
ガリ「毎日家でごはんを食べているのに体重が増えないのはおかしい。ここ数十年間で食べた分を合計するとこんなにある。なのに体重が増えない。何か未知の病気にかかっているに違いない。もしそうだとしたら食べても意味がない」
医者「意味がないなんてとんでもない。もし食べなかったら死んじゃいますよ。単に食べる量が少ないのが原因です。もっとたくさん食べるようにすれば体重が増えますよ」
ガリ「合計すればこんなに食べてるんだ。これが少ないとでもいうのか?こんなに食べてるのに体重が増えてないんだぞ。もっと食べろだと?それで本当に体重が増えるのか?増えなかったらどうするんだ?」
医者「あなたいつも腹八分目ぐらいしか食べてないでしょ。「もうこれ以上食べられない」ってぐらいまで毎日食べていれば体重は増えますよ。ただしそれ以上無理に詰め込んでも苦しいだけですからそこは注意してくださいね」
ガリ「合計すればこんなに食べてるんだぞ!他の誰よりもたくさん食べてる!食べ過ぎなぐらいだ!これ以上食べて社会的信用を失っていったらどうするんだ!」
医者「ちょっと落ち着いてください。あなたはなぜ先ほどからこれまでに家で食べた量の合計を気にしているのですか?毎日ごはんを食べれば合計が増えるのは当たり前じゃないですか。あとなぜか外食分を無視してますよね。それに社会的信用って何のことですか?」
ガリ「家で食べた量の合計が多いほど凶悪事件を起こす確率が高いから、合計が多くなるほど社会的信用を失っていくんだよ!だから合計はできるだけ少ないほうがいい!そんなことも知らないのか!」
医者「あーそのことですね。他の人はそうかもしれませんが、あなたはそうじゃないでしょう?」
ガリ「まあ俺は合計がどれだけ増えても絶対に凶悪事件を起こす事はないけどな。ちょっと考えれば誰にでも分かることなんだけど、みんなは俺が特別だってことを知らないから合計が増えるほど社会的信用を失っていくんだよ」
医者「もしそんな誤解があるのならきちんと説明してみんなに理解してもらえるよう努力するべきで、みんなの誤解を気にして食事量を増やさないのは間違った対処法ですよ。それにそもそもあなたはみんなから誤解されているのですか?」
ガリ「・・・。よく考えたらずっと前から合計はかなり多いし、合計と体重の比を見た場合でもみんなと比べて圧倒的に大きいのに、ずっと信用されてるな。それに俺より合計が少なかったり合計と体重の比が小さいくせに俺より信用されてない奴はたくさんいる。ということは誤解されているというのは俺の勘違いで、みんな俺が特別だってことをわかってるのかも・・・」
医者「客観的に見てあなたの勘違いでしょうね。あなたは家で食べた量の合計が増えても社会的信用を失うことはありませんよ」
医者「話をまとめますと、重要なのは家か外かに関係なく1日でどのくらいの量を食べるかです。あなたはそれが少なすぎます。これまでの合計は関係ありません。社会的信用についても心配する必要はありません。1日で食べる量だけを見てください。
あまり深刻に考えず、「体重が増え始めるまでは好きなものを好きなだけ食べても大丈夫なんだ」と前向きに考えてはどうですか。そうして食べていれば胃袋も少しずつ大きくなって、もっとたくさん食べられるようになって、もっと体重を増やせるようになりますよ」
ちなみに「体重=GDP」、「胃袋=供給能力」、「家での食事=政府(の財政赤字)による需要創出」、「外食=民間による需要創出」、「凶悪事件=デフォルト(債務不履行)」、「社会的信用=国債の市場金利やCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)」という感じです。
国債発行残高はストック、GDPはフロー、日本国債は自国通貨建て
国債発行残高はこれまでの合計(ストック)であり、GDPは1年分を切り取ったもの(フロー)であるときちんと区別して考えないから、「国債発行残高がこんなに増えてるのにGDPがほとんど増えてない。政府支出を増やしても意味がない」という結論になるのだと思います。
そして自国通貨建て国債と外貨建て国債の区別がついてないから、「これ以上の国債発行は国債の信認を失って暴落するリスクを高める」などといった無用の心配をすることになります。
まあ、財政拡大を妨害するためにわかっててわざと言ってる場合もあると思いますが。
国債発行はGDPに対して無意味ということはなく、そして日本の場合はそれによって「○○の信認」を失って大変なことになることもありません。
また、自国通貨建て国債を「将来世代のツケ」などと呼んでできるだけ増やさせないようにすることは、栄養のある食べ物を「体に悪いから」と言ってできるだけ食べさせないようにするようなものです。
今の日本は、デフォルトがあり得ない「国の借金」を気にするよりも、もっと国債を発行して支出を増やして需要を増やすことの方がはるかに重要です。
ちなみに、先ほどとは少し違うたとえ方になりますが、こういうのもありかなと思います。
毎年同じだけの財政赤字を出すことは、毎日同じ分だけの食事をとるようなもの。財政赤字を出さないことは、何も食べないようなもの。財政を黒字にすることは、何も食べずに血を抜くようなもの。
実際は民需や税収などの影響もありますのでこんな単純なものではありませんが、シンプルにこういうイメージでとらえて「基本的に財政赤字は良いこと」と考えておくのがよいと思います(あくまで日本の場合ですが)。