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「障害者雇用」の就活と採用のあれこれ

私は、これまで約10年ほど精神保健福祉士また人事担当として、ひとの「はたらく」に携わってきましたが、中でも特に取り組んだことが障害のある方の「はたらく」でした。

タイトルに「障害者雇用」と入れましたが、必ずしも企業への就職のことだけではなく、会社でもフリーでも福祉的就労でも共通することを書いていこうと思います。

私は、就労継続支援B型・就労移行支援事業所での支援員、東証一部上場企業での障害者採用担当、企業内の定着支援を行う人事(企業内ソーシャルワーカー)・障害者雇用スタッフがいるチームでの業務経験などがあります。これまで支援や人事担当として感じた知見が誰かの役に立つといいなと思い、noteに書きたいと思います。

はたらく準備をしている/今まさに就職活動中である/実際に働いている、すべての段階の方にかかわってきましたが、本当に様々な方がいらっしゃいます。そして10年間たくさんの方とお会いする中で、自分らしく働いている、と感じる方には共通点があるな、と思いました。

もちろん、障害に関してはその人個人に帰するのではなく、環境との相互作用の部分が大きいので一概に言えないところもありますが、そこも含めて障害のある方がより自分らしく活躍していける工夫の仕方を書いていきたいと思います。

このnoteをぜひ読んでほしいの人はこんな方です。

・障害のある方の「はたらく」場面で、
 就職や働き方に迷い感があり、
 どのように試行錯誤したらよいかわからない人

・病気などで休職経験やブランクがあり、
 これからの働き方について迷っている人

・企業の新米障害者採用担当者で、
 この方法でよいのか迷っている人

・障害者の就労支援、キャリア支援をしている
 支援者・カウンセラーの方

このnoteを通して少しでも自分らしくはたらく、についてポジティブになる方がいらっしゃれば嬉しいです。


1.「はたらく」を考えるときの、障害についての捉え方

先天的な障害であっても、中途障害であっても、「はたらく」を考えた時にはそれまでとはまた違った形で自分が直面する「障害」について考える方は多いと思います。(そしてこれは本来、障害有無にかかわらず誰にでも言えることだと思います。)仕事について考えたり選んだりする際、「自己分析」の必要性に迫られますが、障害のある方にとっての一大ミッションが「ご自身の障害とその受け止め方について考えること」かと思います。

その受け止め方・捉え方についても段階があると思います。いわゆる障害受容のプロセスです。

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まず、このプロセスの中で1,2段階の間に働こうとしたときには、自己分析もとても辛く、なかなか思うようにすべてのことが進みにくい状態かと思います。

少なくともはたらく、ということはそのような状態の自分をコントロールしていかなければならないので、何とか社会に適応しようと、障害があることを隠したり、また人の目が気になって合わせたり、上手にSOSを出せない状態になってしまいます。企業の障害者雇用であれば「クローズ」で就職したい、と言われることも多いと思います。(クローズを希望される方みなさんが障害受容ができていない、というわけではありません)ありのままの自分をオープンにすることの苦しさをまだ強く持っている状態です。

残念ながらこの状態でなんらかの仕事に就いたときに、休職や離職率がとても高くなってしまいます。必要なサポートを得ることができない、きついことを我慢して自分で抱えていなければならない、そのような心理状態が続くことは辛いことです。

2.自己理解をしていく試行錯誤とその過程

まだ自分自身をありのまま受け入れられない、障害がどんな形で現れるのか認識できていない、という場合。とても辛い状況かと思うのですが、受け入れられないそれ自体が悪いわけではありません。もちろん辛いと思いますしはたらく上ではそこは向き合わなければならないことですが、「自分にとって今ここに向き合うことは辛いことなんだな」と自分のためにちゃんと感じてあげてください。そんな自分のことを大切に扱って、きついときは休みながら進みましょう。安心して話せる人を確保して、できるところから少しずつ進めるのがよいと思います。

ここで無理をして気持ちにふたをしたまま進み、何か失敗体験をすると、「やっぱり自分は障害があるからダメなんだ」など、2次的な障害を生んでしまいます。時には実際に試さないと自己理解が進まないこともあると思うので、行動すること自体がはもちろんいいのですが、その前提に「今のままではだめだから」が強すぎるとしんどいです。大事故、大怪我にならないようにという見通しはあった方がいいと思います。

自分はまだちょっとリハビリが必要なんだな、ここから少しずつまた新しいスタイルを作っていこうという心持ちの上で、いくつか行動を試し、その中で「あぁ、これはやりにくい」「合わない」「ここは助けてほしい」「逆にこれは得意だな」「やっぱりこれは好き」など、自分について発見できてくると思います。これが障害についての自己分析です。

その感覚をつかめてくることで、障害受容の段階も3,4と進んでいくように思います。自分について認識できていくと、「できないこと」「苦手なこと」が分かるようになることで逆にストレスが減り、すとんと心も落ち着くこともあると思います。どうしたらよいか分からない、を超えて「こうなんだ」と自分を理解できるようになるからです。

そうすると、同時に「自分のこれが強みだな」というところにも気づけるようになります。それまで思考回路がすべて「障害」を通して自分を感じてしまっていたところが、自分の変わらない部分、障害のない部分にもフラットに目が行くようになり、それをどう使っていこうか、という風に戦い方を考えられるようになります。

ここまでくる過程の中で、なかなか1、2から3,4に進むのが辛い方もいらっしゃると思います。はたらく場所や方法とのマッチングでそれでも可能なことはあると思いますが、1つ、他者と働く上で懸念となってしまうのが、障害と向き合うことが不足することで発生する、他者への甘えと負担です。

そもそも向き合うことから目を背けたままだと、そこへの対処法を考えることができず、何か「できない」が事象として発生してから他の人がバタバタと対応しなければならなくなってしまいます。一緒に働く人から見ると、何も相談されておらず、なぜか自分が後処理をすることになった、という状況です。また、それが配慮なのか甘えられているのかも分からず対応に困惑します。クローズ就労の場面で出てくる困りごとはこのようなことが多い印象です。

採用面接の場で「配慮はいりません」と言い切ってしまうのも懸念となる部分です。本当に配慮がいらないのであればよいのですが、実際には何らかの配慮が必要で、それを本人が認識できておらず、または相談しない状態で業務がスタートしてみたら、あぁ、ここが難しいじゃないか、と判明するケースもあります。ここに関しても、やってみないとわからないことでも「こういう時は困るかも」と伝えておいた方が職場としては安心です。

ここに関しては、障害と向き合ったうえで自分が対処できない、だから合理的配慮を職場に求めたい、ということがはっきりしておけば、最初から相談できますし、職場側も事前に聞いたうえで受け入れの準備や配慮をすることができます。ここで役割分担したうえでのほかのスタッフの方がサポートをするのは、負担ではありません。環境が配慮すべき合理的なことです。

3.実際に働き始めてからのポイント

企業への就職や復帰であっても、福祉的就労であっても、基本的には面接や面談時にご自身の障害の困り感がどんなところにあるのか、それはどういった環境で出やすく、配慮としてどんなことを求めたいのかを分かりやすく伝えるのがベターです。それはすべて会社が叶えられることかは別にして、いったんはすべて伝えて大丈夫かと思います。もちろん、要求になってしまうようなコミュニケーションはNGですが、はっきり伝えた方が聞いている側からしても対策を考えやすいです。合理的配慮のシートなど書類で準備して渡すとよりよいと思います。

働き始めてからでも、これは辛い、きついな、と改めて感じることがあれば我慢しすぎずSOSを出してください。なかなか相談しづらいということがあれば定期的に上長に面談を設定してもらったり、紙などに書き留めてから話す、という方法でもいいかと思います。

人は、しんどいのを隠そうとするとぎりぎりまで外から見ると大丈夫なように他者からは見えてしまいます。自分が相談できない結果として他者に迷惑をかけないためにも、自分が自分らしく働くためにも、自分の違和感は大切に、何か方法を変えた方がよいときは相談する勇気を持ってくださいね。

職場でも、プライベートでも相談先やストレス対処方法を複数持っておくのはかなり重要です。人のいろんな意見も聞けますし、ON-OFFの切り替えもできます。長く働き続けるために大切なことだと感じます。

4.環境側の心構えとできること

採用する企業側の視点で書いていこうと思います。障害のある方のはたらく、に関しては、かなり職場によって経験の差が大きいと思います。障害種別によっても対応方法や職種はまちまちになりますが、ただ前提として、障害者雇用=戦力として活躍してもらうためにはどうしたらいいか、という視点は大事かと思います。

障害がある方といっても仕事をするのにいつも障害が必ずしもあるとは限りません。業務切り出しの作業が合わない人もいれば合う人もいるでしょう。大切なのは、その人にとって、一番力が生かせる業務は何か、どんなサポートがあればこの業務を遂行できるのか、と強みを生かす視点とシステムで工夫する視点を持つことです。(ここができるためには、障害者自身がどれだけご自身の自己分析ができているかはキーになります)それができれば、特別に障害者雇用用のポジションではなくても、あらゆる仕事で活躍できる人は増えると思います。

そして、その作業をするために、遠慮なく必要なことは本人に確認することが大事です。こんなこと聞いていいのかな、失礼かなと躊躇するという人事担当者の声をよく聞きますが、すべては本人に実際どうなのか本質的なこと・本音を聞き出すことと思います。もちろん企業側としての本音もありますが、最終的にはどちらの意見も一緒に確認できるお皿の上にのせて、どんな落としどころや理想を一緒に作れそうか、考えていくのがベストかと思います。

そしてそれを「やっていくぞ」というマインドが実は一番大事ではないかと思います。もちろん想いだけではできないので、上記に書いてきたような必要な条件はフラットに勘案した上での話になりますが、「難しいかな」で出発すると当然難しいですし、「どうやったらできるだろう」と考えると工夫の方法が見えてきたりするものです。

それができるかどうかは、その職場・チームに常日頃から働いているスタッフ間でお互いに失敗しても大丈夫、と、フォローしたりオープンマインドに相談できる雰囲気があるかどうか、が大きいかと思います。数字至上主義や効率化が過度に重視されている職場だと、そもそもの心理的安全性が少なく、障害者雇用は進みにくさはあるように感じます。そういう意味でも、障害者雇用は誰でも働きやすい職場を作るきっかけにもなりえます。

5.自分らしさを大切にするために

障害があろうがなかろうが、誰でも自分らしくしっくりときた感覚で働きたいと思う方が多いと思います。そんな中でも、より「自分らしく」を追求するためには上記に書いてきたような試行錯誤をしてみることが実は一番近道ではないかと感じています。とても楽しい作業ではありませんが、私がかかわってきた当事者の方は、3,4の段階にこられたときに、そんな自分を丸ごと受け止めて、それ自体が豊かで幸せに感じていらっしゃるような感覚がありました。

それこそ障害有無にかかわらず「自分らしく生きる」ことは理想であるけど難しいことかと思います。けれども障害と向き合う、ことを通して自分の理想に近づく、自分のことを好きになることもできるんだな、とこれまでの支援や仕事を通して私自身が学ばせていただきました。

長々と書いてきましたが、このnoteが誰かのお役に立てばうれしいです。

また、転職・就活について考えている方はこちらの記事もぜひ参考にしていただけると嬉しいです。

誰でも、自分の力を発揮して、豊かな人生を送れる社会になりますように。応援しています!!

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かずみ|Mental Health Socialworker
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