団地の遊び ガス橋
ガス橋
正式には、なんという名の橋かは、忘れたが、みんなからはガス橋と呼ばれていた。
団地の川、一応、一級河川だが、ショぼい川がある。正確には、ガス橋は、団地の斜め前、団地内から、ほんの少し出ていた。
この橋はバス通りでもあり、幹線道路でもあるので、ほかの橋に較べたら、圧倒的に交通量か多い。
その橋の下から、上を見ると、長い管がたくさんある。川の上を、横切っている。
ガス管だろう、誰が言ったのか、そういうふうに言われていた。よってガス橋と呼ばれていた。本当にガス管なのかどうかは、今もってわからない。
橋の下の土手、坂道を登ると、ガス管にさわることができる。このガス菅を伝って、川を渡ることもできるだろう、そう思った。
なので、やってみた。
ガス管は結構太く、うつ伏せにまたがってすすんだ。頭のすぐ上は橋の裏側である。車の音がガンガン響く。
思ってる以上に、ほこりっぽく、普段、そんなに服の汚れなんか気にしないのに、このときは、灰色だらけになって、さすがにイヤな感じがした。
川の真上に来た。真下に川が見える。こういうアングルで川を見たのは、初めてで、何か妙に感動した。
と同時に、川が異様にきれいに見えた。
普段、遊んでる川の場所ではなかった。そこは、灰茶色というか、ともかく川の中が見えるレベルではない、汚さだった。
ところが、ここは、やけに透明度があって、底まで見えた。川底の石たちまでが、よく見える。そして、落ちたら痛いぞこれは、そんなことを思った。そう思ったら、さらに高さが増した気がした。
ともかく、川がこれほど浅く、水がきれいなのには、驚いた。なんで、真上から見るとこんなにきれいなのか、実に不思議である。
なんとか渡り終えた。すっかり服が汚れた。パンパン叩いた。
そして、土手を降りて川に近づく。やっぱり汚い。さっきより、いくらかはきれいに見えるが、橋の真上から見たときの、きれいさとは比べものに、ならない。
やはり不思議である。
ガス橋を渡ったことより、こっちのほうが気になった。
しばらくして、MM2(仮名)と一緒にガス橋に来た。事情は話してある。
「ガス橋渡ってみなよ」「無理。俺にはできない」
そう言われたら仕方ない。
ここから見たら汚いのに、なんで真上から見たらきれいに見えるのか?
「橋に行こう」
MM2の言葉に従い、橋に行く。車道は車が結構走っている。歩道から、下を見る。ちょうど真ん中あてりである。
きれいに見えた。
「光の屈折だな」MM2は確信ありげに、言った。
「どっちが本当なの?」
きれいなのか汚いのか。
「汚いほうだ」
よくわからないが、そういうことらしい。
「俺もわたってみる」
突然、気が変わったMM2が土手に行く。
MM2は、ガス管にまたがる。そして、うつ伏せのようになり、ズリズリと、ゆっくり進んでいく。
自分は橋に行き、渡り、対岸に行く。土手でMM2が渡るのを待つ。
かなりゆっくり進んでいた。
「あっ!」
そう言うとMM2は、ガス管にしがみついたまま、クルリと回転した。完全に、背中が川を向いてる状態になった。どう考えてもヤバい状況といえる。両手両足でしがみついている。
やがて、ゆっくりと足が離れ、次に手が離れ、下に落ちた。
ジャバーン!!と想像以上の大きな音がした。川の中てMM2は尻もちをついている。
「大丈夫?」川の中に自分も入っていく。膝上ぐらいのの深さだった。
「全然痛くない。川が守ってくれたんだよ」
MM2はそう言って立ち上がった。
この川では、いつも遊んでいた。正確に言えば、土手で遊んでいた。川は汚いので、絶対入らないし、触れたこともなかった。
それが今は水にすっかり浸かっている。そして今、川はきれいに見えた。
いつも遊んでる川、いつも見てる川、いつも横にある川、その川が守ってくれた、その考えは、非常に良いと思った。
「そうだな。いい川だ」
「石持ってこうぜ」
よく見ると、底には丸い石がたくさんあった。
白灰色の石を拾う。水は冷たかった。冬の川だった。
そしてMM2が、ズブ濡れのズボンを見て言った。
「とはいえ、やっぱり物理的に汚いよな」
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