団地の遊び 腕相撲大会
腕相撲大会
学級会議の時だった。担任先生が、なんか用があると言って、いなくなった。
こうなったら、この時間は自由である。マジメに学級会議なんぞをやる奴はいない。ただ、あまり騒ぐと、隣のクラスに怒られるので、そのへんは、女学級委員倉木(仮名)あたりが、注意することになる。
女四天王とも呼ばれ、その中でも一番強いと言われてる女だった。ゴリラというあだ名であった。本人はすごく嫌がっていたーーーまあ当然か。体も大きかったし、態度もデカかった。成績も良かった。顔はもちろん、美人であった(多分)。
腕相撲をやってる奴らがいた。大きな声を出さずに、結構盛り上がっている。
楽しそうだが、自分が勝てるとは思っていなかった。足が速いだけのバカで、体も小さく、たいがい女子のほうが大きかった。
見ていると、男女混合戦であった。さっきまでは、男だけでやっていたのに、なぜか女も参加している。
まさか、全員参加なんてメンドーなことにならないだろうな、と本気で危惧する。
学級委員Rが持ってきたBCLの本を見ていた。BCLとは、ラジオを聴いて、受信報告書なるものを書いて、送るやつである。
BCLマニュアルという、デカくてぶ厚い本で、それなりの値段もする。買いたいのだが、高い。そんなことを考え、知りたいことを頭に叩きこんでいた。海外のラジオ局の周波数をメモする。
幾つか周波数があり、どれが一番、受信しやすく、また聴きやすいかを、聞こうと思っていたら、まさに、学級委員Rが腕相撲をしていた。
クラスの中で、女四天王と呼ばれ、学級会議などで権力をふるうヤツの一人、中田(仮名)と戦っている。アッサリ勝った学級委員Rだが、腕を痛めたと言って、もうやめるとウデをさすっている。
神の如く直感で、腕を痛めたというのはウソと判断した。なぜなら、やがて、女四天王の山岡、そして倉木と戦う可能性があり、万が一、負けたりしたら、イヤだからである。
本を見ていると、突然、名を呼ばれたので、やらない、と断固として拒否すると、違うという。
一組の先の廊下の窓に、雑巾が干してある。それを取ってきてほしいとのこと。なんで?そう聞くと、先生がいつ戻ってくるかわからない、足が速い人がサッと持ってきてほしい。
腕相撲大会は、すごく盛り上がっていて、ここで断ると、あきらかにヒく雰囲気であった。なので、使いっ走りをやらねばならなくなった。
そんなわけで、ダッと走りサッと戻った。おおーさすがだ、と言われたときは、本気で、バカにしてんのか?と思った。誰が行ってもたいして変わらない、せいぜい1、2秒だろうと思うのだが。
雑巾は、腕相撲をやるときに、肘の下に敷くものであった。
自分は、BCLマニュアルに目を戻す。
トイレに行きたくなった。本を鞄にしまい、席を立った。
廊下に出ると実に静かであった。トイレも静かであった。なかなか気分が良かった。
トイレから出ると、いきなり先生と会った。一応、授業中なわけで、そんな時、トイレに行ったから、怒られるかもと思ったが、「どうしてる教室?」と笑顔で聞いてきた。
はあ、いや、まあ、静かに、とかなんとか、テキトーに返事した。
先生のあとから、教室に入る。
すると、腕相撲大会は、女四天王の、倉木と山岡が、戦おうとしていた。
男子はやらないのか?と先生が聞くと、最後まで残っていた男子は根本君です、と四天王の井川が、答えた。
すると先生は、一瞬、言葉に詰まり、「男子。お前ら、何やってんだ?」
これには、自分も驚いた。なんだかんだで、最後は元学級委員の根本あたりが勝つだろうと思っていた。ところが、残ったのは、女二人だった。
「いや、今日は体調が・・・」なんて言い訳を元学級委員の一人がボソボソ言った。
倉木と山岡の腕相撲が始まった。一時拮抗したが、結局はやはりゴリラと呼ばれる女倉木が勝った。
女子たちの間では、大盛り上がりである。男子もそれなりに盛り上がってはいるが、何かスッキリしないものが感じられた。
先生も、なんか複雑な表情をしてるように見える。
給食の時間になった。カレーである。デザートはバナナだった。何か運命的なものを感じる。
賞品として、女学級委員倉木にみんなの分のバナナをあげることになった。知っての通り、ゴリラと言われてる女にバナナをあげるのだから、それなりにウケる。
山と積まれたバナナを前に、倉木は臆することなく堂々と言った。
「ほんとに全部食べていいの?」